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第四章 大資本の激突
強力な味方
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翌日の夕方、その男はドラチナスへ現れた。
漆黒のロングコートの上に、上質な灰色のケープを羽織り、かぶった緑色の羽根付きベレー帽の横から尖った耳が覗いている。
堂々とした立ち姿と、金髪碧眼の爽やかで整った容姿も相まって、どこの上級貴族かと思われそうだ。
彼はウィルムの家の居間にあるボロソファに座り、困ったように眉尻を下げていた。
「――まったく、あなたという方は……」
「シーカーさん、わざわざドラチナスまで来てもらって申し訳ありません」
「しらじらしい。問い詰めたいことは多々ありますが、今はいいでしょう」
ウィルムは、夜通しでシーカー宛の手紙を書き、明朝の速達でフォートレスへ送ったのだ。
どうやら無事に受け取ってもらえたようで、移動に何時間もかかるというのに、こうしてすぐに駆けつけてもらえた。
今の彼の恰好はかなり気合が入っており、商人として本気で戦うつもりなのだという心意気がひしひしと伝わって来る。
その後ろにはエルフの男が二人、無言で立っており、剣と革製の鎧で武装していた。
鎧の上からでも分かるガタイの良さに、醸し出す隙の無い雰囲気はかなりの手練れだと分かる通り、シーカーの雇った傭兵だ。
ウィルムは息を整えるとソファから立ち上がる。
「それでは、行きましょうか――」
ウィルムたちが向かうのは、ドラチナス金庫二番店。
口座凍結の件で異議を唱えるべくまっすぐ向かう。
しかしシーカーと頑強な護衛たちは、街中ではかなり目立った。
多くの人々が足を止め、何事かとこちらを振り向く。
ウィルムのことは目に入っていないようで、シーカーに視線が集まっていた。
多くの女性たちは、彼の甘いフェイスに魅了されキャーキャー言って騒いでいる。まるで有名人の来訪だ。
「――着きました。ここです」
「分かりました、最前を尽くしましょう。ウィルムさんは下がってて、後は私に任せてください」
「よろしくお願いします」
シーカーは不敵な笑みを返し、ウィルムの前に出て店へ入る。
その後ろに護衛が続き、ウィルムも遅れて入った。
店の周囲には、シーカーの目的に興味を持った野次馬たちが集まっていたが、それもウィルムの狙い通りだった。
だからウィルムは、店の扉を開けたまま野次馬たちへ振り向き、真剣な表情で頷く。まるで彼らの傍聴を許可するように。
すると、野次馬たちは次々に店へ入り、入りきらない者は扉を開けて、店の外から成り行きを見物しようとした。
「――ようこそドラチナス金庫へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの前に立ったシーカーへ、店員が応対していた。
しかしチラチラと入口の野次馬たちのほうを気にしており、何事かと不安げに頬を引きつらせている。
シーカーはいつもの営業スマイルを浮かべ、にこやかにしかし堂々と言い放った。
「私は王国ヴァルファームの投資家、シーカーと申します。本日は店主殿にお話があって参りました」
「店主ですか? しかし……」
いきなり店主を呼べと言われた店員は戸惑いに口ごもる。
彼がなんと返そうかと悩んでいると、すぐに副店主がやってきて、店員を下がらせた。
「店主は不在ゆえ、代わりに副店主の私がお話を伺います。すぐに応接室へご案内致しますので――」
「――いいえ、ここで大丈夫です」
「は、はぁ……」
シーカーの言葉に副店主は眉をわずかにしかめた。
こんな衆人環境の中でする話とは、いったいなんなのか、警戒してのことだろう。
副店主が深いしわを寄せていると、シーカーはゆっくりと語り始める。
「どうも私の出資した資金が、理不尽に奪われてしまったようなのです」
漆黒のロングコートの上に、上質な灰色のケープを羽織り、かぶった緑色の羽根付きベレー帽の横から尖った耳が覗いている。
堂々とした立ち姿と、金髪碧眼の爽やかで整った容姿も相まって、どこの上級貴族かと思われそうだ。
彼はウィルムの家の居間にあるボロソファに座り、困ったように眉尻を下げていた。
「――まったく、あなたという方は……」
「シーカーさん、わざわざドラチナスまで来てもらって申し訳ありません」
「しらじらしい。問い詰めたいことは多々ありますが、今はいいでしょう」
ウィルムは、夜通しでシーカー宛の手紙を書き、明朝の速達でフォートレスへ送ったのだ。
どうやら無事に受け取ってもらえたようで、移動に何時間もかかるというのに、こうしてすぐに駆けつけてもらえた。
今の彼の恰好はかなり気合が入っており、商人として本気で戦うつもりなのだという心意気がひしひしと伝わって来る。
その後ろにはエルフの男が二人、無言で立っており、剣と革製の鎧で武装していた。
鎧の上からでも分かるガタイの良さに、醸し出す隙の無い雰囲気はかなりの手練れだと分かる通り、シーカーの雇った傭兵だ。
ウィルムは息を整えるとソファから立ち上がる。
「それでは、行きましょうか――」
ウィルムたちが向かうのは、ドラチナス金庫二番店。
口座凍結の件で異議を唱えるべくまっすぐ向かう。
しかしシーカーと頑強な護衛たちは、街中ではかなり目立った。
多くの人々が足を止め、何事かとこちらを振り向く。
ウィルムのことは目に入っていないようで、シーカーに視線が集まっていた。
多くの女性たちは、彼の甘いフェイスに魅了されキャーキャー言って騒いでいる。まるで有名人の来訪だ。
「――着きました。ここです」
「分かりました、最前を尽くしましょう。ウィルムさんは下がってて、後は私に任せてください」
「よろしくお願いします」
シーカーは不敵な笑みを返し、ウィルムの前に出て店へ入る。
その後ろに護衛が続き、ウィルムも遅れて入った。
店の周囲には、シーカーの目的に興味を持った野次馬たちが集まっていたが、それもウィルムの狙い通りだった。
だからウィルムは、店の扉を開けたまま野次馬たちへ振り向き、真剣な表情で頷く。まるで彼らの傍聴を許可するように。
すると、野次馬たちは次々に店へ入り、入りきらない者は扉を開けて、店の外から成り行きを見物しようとした。
「――ようこそドラチナス金庫へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの前に立ったシーカーへ、店員が応対していた。
しかしチラチラと入口の野次馬たちのほうを気にしており、何事かと不安げに頬を引きつらせている。
シーカーはいつもの営業スマイルを浮かべ、にこやかにしかし堂々と言い放った。
「私は王国ヴァルファームの投資家、シーカーと申します。本日は店主殿にお話があって参りました」
「店主ですか? しかし……」
いきなり店主を呼べと言われた店員は戸惑いに口ごもる。
彼がなんと返そうかと悩んでいると、すぐに副店主がやってきて、店員を下がらせた。
「店主は不在ゆえ、代わりに副店主の私がお話を伺います。すぐに応接室へご案内致しますので――」
「――いいえ、ここで大丈夫です」
「は、はぁ……」
シーカーの言葉に副店主は眉をわずかにしかめた。
こんな衆人環境の中でする話とは、いったいなんなのか、警戒してのことだろう。
副店主が深いしわを寄せていると、シーカーはゆっくりと語り始める。
「どうも私の出資した資金が、理不尽に奪われてしまったようなのです」
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