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第三章 外資

フェアの想い

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 辿り着いたのは、イノセントから東に外れて森の奥にある、小さな湖のふもとだった。
 吸い込んだ空気は村のものより新鮮に感じ、涼しいそよ風が吹いて物静かな雰囲気の中、小鳥のさえずる鳴き声と木々の揺れる音が響いている。
 湖を囲っている木々の背は低く、陽の光がぽつぽつと波紋を広げている水面みなもへ天上から降り注ぐ。
 綺麗で透明な水面は、周囲を囲む森林の新緑を映し、そこに光が差し込むことでエメラルドグリーンに輝いていた。
 まさしく大自然の神秘だ。

「どうですか?」

 ウィルムから手を離し前へ出ていたフェアが、腕を後ろで組み得意げな顔で振り向く。背後に輝く湖のおかげで、その姿が眩しかった。
 あまりに美麗な景色に圧倒されていたウィルムは、深呼吸し間を置いてから答えた。

「……凄いね」

「そうでしょ~? ここは私のお気に入りなんです。一度ウィルムさんにもお見せしたくて」

「本当に綺麗だね。なんだか癒されるよ」

「気に入ってもらえたらなら良かったです」

 ウィルムが率直な感想を告げると、フェアはホッとしたように相好を崩す。
 しかしウィルムとしても、すり減ってしまった心が癒されていくのを感じていた。
 ドラチナスで森と言えば、鬼やアビスたちとの遭遇の危険性があって、常に気を張り詰めておかなければならない場所。
 そういう意味でも新鮮な感覚なのだ。

「辛いことがたくさんあって、それでもドラチナスに戻ろうとするウィルムさんは、とても強い人です。本当に憧れます。でも、平気そうに振舞ってはいても、凄く無理しているのが分かっちゃうんです」

「フェア……」

「だから私も、お姉ちゃんみたいに、ウィルムさんになにかしてあげたいって思ったんです!」

「そうか、ありがとう」

「いいえ、私にはなにもできませんから」

「いや、十分だよ」

 ウィルムが穏やかに言うとフェアは満足そうに微笑んだ。
 
「ウィルムさんなら、きっと上手くやれると思います。あのシーカーさんですら、力を貸してくれたんですから」

「いや、それはエルダさんのつてがあったおかげだよ。僕がなにかしたわけじゃない」

 ウィルムは本心でそう言うが、フェアはゆっくり首を横へ振った。
 少し迷うように眉尻を下げて目を逸らしてから、彼女はウィルムに背を向け湖を見渡しながら語り始めた。

「シーカーさんは、相手が誰であろうと感情では判断しません。あの人の判断基準は損得勘定だけです。それはお姉ちゃんが相手でも同じこと。お姉ちゃんはシーカーさんのことを信頼できる商人だと言っていますが、私の印象は冷徹な人です。だから、お姉ちゃんがあの人をウィルムさんに紹介しようとしたとき、止めようとしました」

「そうだったのか」

 ウィルムは驚いたように呟くが、彼女の言うことも分からなくない。
 常に冷徹で損得勘定を優先できる。
 シーカーという男はそれだけ実力ある投資家ということだ。
 だが、フェアはそれを快くは思っていないようで、悲しげに声を震わせて告げた。
 
「あの人は一度、お姉ちゃんを見限ったんです――」
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