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第三章 外資

再起

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 それからしばらく、ウィルムは泣き続けた。
 それでもエルダとフェアは、時には背をさすったり頭を撫でながら、ずっと側にいてくれた。
 
「――見苦しいところを見せてしまって、ごめんなさい」

「いいのよ。いつもはしっかりしてるウィルムくんを甘やかすというのも素敵だし。ね、フェア」

「わ、私は別に……」

 エルダは明るく言った。
 ウィルムは途端に気恥ずかしくなったが、暗い雰囲気を払拭しようという心遣いはありがたい。
 話を振られたフェアは、顔をほんのり赤くしてチラチラとウィルムを見ている。
 ウィルムは深呼吸すると、ゆっくり語り始めた。
 
「僕は……僕たち竜人族は、ドラチナス繁栄のための生贄だったんです」

「生贄? それはどういうこと?」

「実は――」

 これまでのことを滔々とうとうと語る。
 まずは、エルダから鉱物資源を仕入れた帰り道に襲われたこと、ドラチナスで詐欺の容疑をかけられ鉱石商の道を閉ざされたこと、ハンターとして出たクエストで何者かに襲撃されたことを。
 そして、アビスと遭遇し命からがら退しりぞけて、朦朧とする意識の中でただひたすら歩き続けた。それでイノセントに辿り着いたのだろう。 

「酷い……」

 話を聞いていたフェアは端正な顔を悲しげに歪め、口元を両手で押さえている。
 エルダの顔も次第に険しくなっていた。
 ウィルムは首を横へ振る。

「本題はこれからだ」

 そして、アビスの死骸から知り得た情報から辿り着いた結論を語る。
 それは、アビスを生み出したのは薬屋フローラであり、その素体となっているのは竜人だということだった。それで竜人失踪事件が五年前も今も変わらず起き、そしてその魔の手はウィルムへも伸びてきた。新たなアビスを生み出すために。

「――だから生贄、なんです」

「そんな……そんなことってっ」

「酷すぎるわ……でも、なんでそんな危険な怪物を生み出す必要があるの? 自分たちの首を絞めるだけじゃない」

 エルダの疑問は当然だ。
 ウィルムはおそらく間違いないであろう、推測を答えた。

「おそらく、ドラチナスの……いや、ギルドの繁栄のためです」

「どういうことなの?」

「それは、アビス出現から現在までのドラチナスの経済を辿ると分かります。結局のところ、新種の魔物の出現というのは、商人やハンターにとってチャンスでもある。装備品やアイテムの需要は増えるし、多くのハンターが一攫千金を求めてよそからやって来ることで、町は活気に溢れた。おまけに上質な素材も手に入るとあって、交易も盛んになる。ドラチナスのギルドはそれを利用して、繁栄を築いたんです」

「とんだ自作自演じゃない。発展のためだからといって、竜人たちを犠牲にするなんて、許されることじゃないわ」

「お姉ちゃんの言う通りだわ。絶対に許せない」

「二人とも、ありがとう」

 ウィルムが頬を緩め、声を震わせて礼を言う。
 すると、エルダがまた優しく頭を撫でてきた。
 そして包み込むような柔らかい声でささやく。

「辛かったね。あなたさえ良ければ、またここに住んでもいいのよ」

「エルダさん……」

「……むぅ……お姉ちゃんばっかりズルい」

 小さな呟きが聞こえてウィルムが顔を上げると、なにやらフェアが頬を膨らませていた。
 エルダがくすくすと笑う。

「あらあら、フェアもウィルムくんを甘やかしたいんだね」

「むぅ」

 さらに頬を膨らませ、フェアの可愛らしい頬は今にも爆発しそうなほどパンパンだ。
 しかしウィルムも情けないところばかり見せたくはないので、真剣な表情で告げた。

「僕はドラチナスへ戻ります」

「ウィルムくん……」

「え? そんなぁ!?」

「僕はギルドと戦わなくちゃいけないんです。仲間たちの仇討ちとまでは言いませんが、ギルドを野放しにしておくわけにはいきません。真実を確かめ、これ以上犠牲を出さないように潰します」

 エルダは嬉しそうに目の端を緩め微笑む。
 いつの間にか頬が元の状態に戻っていたフェアも、熱っぽい眼差しをウィルムへ向けていた。 

「やっぱり男の子ね。それなら、この国の都市『フォートレス』に『シーカー』という名のエルフがいるわ。私からの紹介だと言えば、手を貸してくれるはずよ」

「お、お姉ちゃん!? でもそれは……」

「いいのよ、フェア。ウィルムくんなら、きっと大丈夫だから」

 二人の優しさが眩い光となって、絶望のふちにいたウィルムの心を照らす。
 ウィルムは声を震わせながら礼を言い、深々と頭を下げた。
 そして、ギルド打倒の誓いを新たにする。
 
「大切な人たちを犠牲にした繁栄なんて、決して認めない――」
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