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第三章 外資

慟哭

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 真っ暗な空間に光が差す。
 広がった光はかつての田舎、ドラチナスののどかな風景を映していく。

「みん、な……」

 ウィルムは夢を見ていた。
 兄のシルバやアクア、ラドたち竜人の仲間に囲まれた幸せな夢だ。
 
「ウィル」

「ウィルちゃん」

 目の前に立つのは、懐かしい顔ぶれ。大切な仲間たちは柔らかく微笑みかけてくる。
 自然とウィルムの頬も緩んだ。
 すると、アクアが一歩前に出て白銀のブレスレットを差し出してきた。
 その腕にも同じものが嵌められている。

「はい、これあげる」

「へ? ありがとう。でも急にどうしたの?」

 ウィルムが受け取って首を傾げると、彼女は頬を赤くしながら言い放った。

「私、ウィルちゃんのお嫁さんになる!」

「えぇぇぇっ!?」

 ウィルムは驚きのあまりのけ反った。
 言った本人も真っ赤だが、言われたほうもなんだか気恥ずかしくなってくる。
 後ろでニヤニヤしているシルバたちが嫌でも視界に入るからだろう。
 しかしアクアの表情は真剣そのものだ。
 瞳を見れば分かる。
 ウィルムもその想いに、真正面から向き合わなければならない。

「アクア、僕は――」

 次の瞬間、視界が揺れる。
 ウィルムは目を見開くが、それ以上声が出せない。
 そして目の前は光に包まれていき――


「――ウィルムさん……ウィルムさんっ!」

 鈴を転がすような可憐な声が耳に遠く響く。
 ウィルムはゆっくりと目を開けた。
 まず目に映ったのは、焦げ茶色の木製の天井。ついで優しいヒノキの香りが鼻腔をくすぐる。
 どうやらベッドの上で寝ているようだ。
 上体を起こすと、ベッドの横で丸椅子に座っていたエルフの女の子が視界に入る。
 
「ウィルムさん! 良かった、起きたんですね」

 そう言って瞳を潤ませ、椅子から立ち上がったのはフェアだ。
 金髪のツインテールが懐かしい。
 そう認識すると、この部屋の風景も記憶の一部と合致した。
 イノセントにあるジュエル姉妹の家だ。

「どう、して……」

 ウィルムが掠れた声で呟くと同時に、エルダが部屋へ入って来る。
 彼女はフェアの前、ウィルムのすぐ横にあった丸椅子に座った。

「ウィルムくん、起きたのね。この近くで倒れてるあなたを村の人が見つけて運んでくれたのよ。こんな傷だらけになって、いったいなにがあったの?」

「……ぇ?」

 ウィルムの頭は、まだモヤがかかったようにスッキリしない。
 エルダとフェアは心配そうに瞳を揺らし、黙ってウィルムを見つめている。
 ウィルムはベッドの上に上半身を起した状態で下を向いた。
 そこでようやく、自分の体のいたるところに包帯が巻かれていたことに気付く。

(俺は確か、クエストに出て、謎の三人組に襲われて、それで……)

 次第にクエストでのことを思い出していく。
 アビスに襲われ、絶体絶命のピンチでもなんとか生き延びて、そして――

 ――ドクンッ!

「っ!」

「ウィルムくんっ!?」

「ウィルムさんっ!?」

 ウィルムは突然胸を両手で押さえ、苦しそうに目を見開いた。
 とめどなく涙が溢れてくる。
 その腕にはアクアからもらった白銀のブレスレット。

「僕は……僕はっ」

 下を向いて白いシーツをギュッと握り、苦しそうに呻く。
 すると、頭に手が乗せられ、優しく撫でられた。

「辛いことがあったのね。我慢しなくていいのよ」

「ウィルムさん、私たちがついてますから!」

 二人の言葉には反応できなかったが、その優しさにウィルムの涙は止まらなかった。 
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