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第二章 繁栄の生贄

立ち込める暗雲

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「……なに?」

 アンフィスの声に不穏な感情が混じる。
 その横でルークも眉をしかめた。
 それではなんの解決にもならない。
 ルークは我慢できず横から割り込んだ。
 
「待ってください、グレイヴ殿。領内の財源を使ってギルドを支援するなど、そう簡単に判断できる話ではありません。それをやったところで、ただの延命措置に過ぎないでしょう」

「いえ、なにも財源がなくなるまで支援してほしいと言っているのではありません。この不況は一時的なものですから、時が経てば状況は好転します。それまで耐え凌ぐためのお力をお貸しして欲しいのです」

「それがいつかなんて分からないでしょう。領内の財源を切り崩すわけにはいきません」

 ルークはアンフィスに代わり、はっきりと告げる。
 問題はいつ収束するかなのだ。
 もし仮に、ドルガン国内の景気悪化に危機を感じた政府がリュート通貨の金利低下や造幣による量的緩和などをすると期待しているのなら、希望的観測に過ぎない。
 ドラチナスの不況が改善せずとも、主要な州での好転が見込まれれば、ドラチナスのためだけに救済措置をとる必要がないからだ。
 現に他地域での経済打撃は大した規模ではなく、どこも内政でカバーしようと躍起になっている。
 そうなれば、グレイヴの提案している資金援助は失策となり、ドラチナスの経済不況はいつになっても収束しない。
 それでもグレイヴは眉をしかめ、ルークを見据えて堂々と告げる。

「五年前のこの町の危機を思い出して頂きたい。ドラチナスが早急に立ち直り、経済的にも発展できたのは、潤沢な資金が領内財源から供給されたからこそです。決して財布のヒモを締めたからではありません」

 ルークは眉を寄せ眼光を強めた。
 グレイヴの目は挑発的で、まるでルークのことを「でしゃばるな若造」とでも言っているようだ。横に立つホルムスも、イボだらけの醜く大きな顔を苛ただしげに歪めている。
 それでもルークは怯まず、拳を握り声に熱を込めた。

「今と昔では状況が違います。せっかく安定したドラチナスを、地盤から揺るがすおつもりですか? もっと抜本的な改革が必要なはずです」

 グレイヴはますます不機嫌そうな顔つきになる。
 しかしアンフィスは小さく頷いていた。
 彼も内心ルークに期待している。
 ドラチナスの税収が年々減っていることを、一時的なものと捉えていないアンフィスは、現状を変えるためにルークを補佐官に任命したのだ。
 しかしそんな思惑を知ってか知らずか、カドルが横から口を挟んできた。

「若いな、ルーク補佐官」

「はい?」

「君はギルドの重要性を分かっていない」

「そんなことはありません」

「いいや分かっていない。いったい誰のおかげでここまでの財源が確保できたと思っている。町で商売を統率し、市場が混乱することなくドラチナス経済を安定させている、ギルドのおかげだろう。この町の中枢を担う、彼らの危機を放置して破綻でもしたら、どう責任をとるというのだ」

「それは……」

 ルークは口ごもる。
 現状を打開するための改革案は温めてあったが、今ここで言ってしまえば、収拾がつかなくなりかねない。
 彼がなにも言えないでいると、カドルは嫌味たらしく鼻を鳴らした。
 グレイヴとホルムスも薄い笑みを浮かべている。
 
「――もうよい」

「でしたら」

「ギルドへの資金援助は今一度検討させてもらおう」

「……承知いたしました。色よいお返事をお待ちしております」

 グレイヴとホルムスは頭を深く下げ、執務室から去って行く。
 その後ろ姿を睨みつけるように見送ったルークは、ドラチナスに暗雲が立ち込めていることを確信し、危機感を強めるのだった。
 その後、アンフィス、カドル、ルークで議論の続きをしたが、いつになっても結論は出なかった。
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