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第一章 破滅の影

エンカウント

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 ウィルムたちは、不気味な雰囲気漂う密林の道をただ黙って歩き続ける。
 鉱石の乗った荷車を筋骨隆々な獣人のハンターが三人で引き、ウィルムは涼しい顔で後ろを歩いている。彼の横にはジャックが付き、用心棒としての役割をしっかりと果たしていた。
 しかし商人としてあまり良い移動方法ではない。
 ドラチナスとイノセントを繋ぐこの密林は、モンスターの出現も多く怪物アビスの目撃情報まである。 
 通常は鳥竜ちょうりゅうと呼ばれる二足歩行の動物に荷車を引かせ、商人も鳥竜に乗って安全な街道をゆっくり進む。
 ただ、今回の場合だと鳥竜二頭が必要な上に借りたところで、イノセントへは森を抜けるしか道がなく、用心棒も雇う必要がなるので費用がバカにならない。
 だから力持ちの獣人三人を荷車の運搬件用心棒に雇ったのだ。
 
「――少し休憩させてくれ」

 獣人の疲労を悟ったジャックがウィルムへ進言する。
 ちょうど坂道の下に渓流があり、ウィルムたちはそこまで移動して休息をとることにした。
 細い川の水辺で獣人たちが休憩しているうちに、ウィルムは周辺に生えている草木に使える薬草はないか探しだした。
 ジャックがため息を吐きながら着いて来る。

「あんまり離れるな。用心棒の意味がなくなっちまう」

「ごめんごめん。貧乏性なもので」

 ウィルムは苦笑しながら後頭部をかく。
 荷車から離れないように慎重に草木をかき分け、周辺を見回していく。
 だがそう簡単に価値のある薬草は見つからず、ウィルムは肩を落として獣人たちの元へ戻った。
 獣人たちが荷車の取っ手を掴んだところでウィルムが告げる。

「それじゃあ、行こうか」

「……待て」

 低い声で止めたのはジャックだった。
 厳つい顔に皺を寄せ、警戒心をあらわにしている。
 そしてすぐにその理由は判明する。

「っ!? モンスターか!?」

 草木をかけ分け、現れたのは四体の小鬼ゴブリンと二体の一つ目鬼サイクロプスだった。
 ゴブリンは凶暴だが小型なため、獣人のハンターなら問題ない相手だが、サイクロプスは全長三メートルもある巨体にリーチも長いため油断はできない。
 ウィルムの表情が緊張で強張る。

「あんたは荷車に隠れてろ!」

 ジャックはそう言って剣を取り、獣人たちと共にモンスターたちへと駆け出す。
 本来なら依頼主のウィルムを無防備にするのは危険だが、敵の数を考えるとやむを得ない選択だった。
 アビスがいないのが不幸中の幸いか。

「おらぁっ!」

 ハンターたちの猛々たけだけしい声が響き、ゴブリンたちと武器を激しくぶつけ合う。
 サイクロプスの持つ棍棒のリーチは長いが、大振りなため注意さえしていれば直撃は避けられる。
 彼らは慎重に立ち回りながら、サイクロプスから一定の距離をとっていた。

「キキィィィ!」

 大剣の切っ先を地面に擦りながら移動する獣人へ、ゴブリンが飛び掛かる。しかし彼は、冷静に大剣を下から振り上げた。
 重い刃は空中で肉を断ち、ゴブリンを豪快に斬り上げる。
 敵を倒して安堵したのも束の間、獣人の元へと迫っていたサイクロプスが大きな棍棒を振り下ろした。

「ぐぅぅぅぅぅ!」

 獣人は刃を横にして両腕の力で受け止めるが、あまりの衝撃に砂埃が舞う。
重圧によって足が地面へ食い込むが、それでも膝をつかないのはさすがだ。

「そのまま堪えてろ!」

 ジャックが叫びながらサイクロプスの背後へ回る。
 そして、素早くその足元を切り払って敵の腱を叩き斬った。
 ジャックを追って背後に迫っていたゴブリンを押し潰し、サイクロプスは仰向けに転倒。
 サイクロプスの重圧から解放された獣人がすかさず駆け出し、大剣を高々と振り上げた。

「グオォォォンッ!」

 残るはゴブリンニ体とサイクロプス一体。
 対してハンターは誰一人欠けておらず、形勢は圧倒的優位だ。
 ウィルムは勝利を確信し、荷台の前に出て表情を和らげた。 
 しかし次の瞬間、その背筋を悪寒が走う。
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