俺は善人にはなれない

気衒い

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第16章 神々の黄昏

第357話 新たな世界へ

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「皆さん、初めまして。クラン"黒天の星"副クランマスター及び軍団レギオン"黒の系譜"副軍団長サブレギオンマスター、ティアと申します」

戦える者達と"虹の天橋ビフレスト"の戦闘が一段落つき、各々が心身を休

めている時、その声は突然辺りに響き渡

った。

「ん?」

「あれは…………」

「"銀狼"だ」

すると皆、同時に上空を見上げ、どうい

う理屈かそこに映し出されたティアの映

像を一心不乱に見つめ続けた。シンヤの

時といい、今度も何かあるのではないか

と思ったからである。

「まずは冒険者を中心とした戦闘の功労

者の皆様にお礼を申し上げます。この度

は誠にありがとうございました。そし

て、戦闘には参加しなかったものの絶対

に生き延びてみせるという強い意志の

下、敵の軍勢から自身または家族の生命

を守り抜いた皆様にもお礼を申し上げま

す。誠にありがとうございました。それ

から、生存競争というある種の戦い。慣

れない中、本当にお疲れ様でした」

疲れ切った者達にティアからの労いの言

葉が染み渡っていく。それに対してある

者は涙し、またある者は健闘を称え合

い、またまたある者は仲間を弔った。そ

うしていると今度はティアの締めの言葉

が耳に入った。

「皆様の健闘の結果、この度の戦いは辛

くも犠牲を出しつつ………………我々の勝

利という形で幕を閉じました」

ティアのその言葉に一瞬、時が止まる

人々。しかし、段々とその意味すること

が分かってきたのか、最後にこう締めく

くったティアに各地から大きな歓声が湧

き起こった。

「皆様、嵐は過ぎ去りました。本当にあ

りがとうございました。今、この瞬間か

ら……………我々の日常は戻ってきたので

す」








「それは何かの芸か?」

「ふんっ。いいだろう?俺達は1つとな

り、更なる強さを手に入れて遂に完全な

存在となったのだ」

シンヤが刀を向ける先に堂々と立つのは

以前、起きた"聖義事変"の首謀者であ

るハジメと研究者であるズボラが合体し

た姿をする者だった。具体的にいえば、

ガリガリに痩せ細ったハジメの腹のあた

りにズボラの顔が浮き出ている。それは  

誰もが一目見て、気持ち悪いと感じるも

のだった。

「完全ねぇ……………どう見ても不完全だ

ろ」

「ふんっ。それはこの力を見てから言

え!!我が名は"ジャナイ"!!全てを

破壊する者だ!!」

そう言うとハジメは身体から大量の神気

を放った。その勢いは凄まじく、木々が

軒並み煽られて根元から折れてしまう程

だった。

「ふははははっ!!まだまだ、こんなも  

のではないぞ!!俺の力はパワーアップ

しているんだ!!ここから更に……………

がはっ!?」

ところが言葉はそれ以上、続かなかっ

た。一瞬で接近してきたシンヤの刀によ

って深く斬りつけられてしまったから

だ。

「安心しろ。まだ生かしておいてやる。

その代わり、お前をここに放った奴を教

えろ」








「あ、シンヤさん……………こちらです」

ティアに導かれるまま、シンヤは進んで

いく。そこは以前、フォルトゥーナがシ

ンヤ達の為に作り出してくれた空間の中

だった。既にティア達幹部は全員集合し

ており、これから行われることに万が

一、邪魔が入るとまずい為、こうした場

所で落ち合っていた。

「……………あれか」

「はい」

そうして空間内を進んでいたシンヤの視

界に横たわった1人の女性が入った。そ

の女性はかろうじて息はあるものの、か

なり辛そうであり、その命も永くはない

ことが見て取れた。

「お袋」

「…………あら、シンヤ」

その正体はシンヤの母であるフォルトゥ

ーナだった。彼女はシンヤの顔を見た途

端、それまでの辛さが嘘であったかのよ

うに笑顔でシンヤを出迎えた。しかし、

それもかなり無理をしているということ

は誰の目から見ても明白だった。

「無理に身体を起こさず、そのままの体

勢で俺の質問に答えろ………………何があ

った?」

「…………ごめんね。少しドジ踏んじゃっ

たみたい」

「っ!?」

その台詞を聞いた瞬間、シンヤの脳裏に

はリースの顔がフラッシュバックし、自

然と涙が零れ落ちて思わず膝をついてし

まった。すると、その様子を見たフォル

トゥーナは驚き、心配そうな顔をシンヤ

へと向けた。

「シンヤ?大丈夫?」

「…………俺のことはいい。とりあえず、

何があったかだけ教えてくれ」

「…………分かったわ。実は」

そこからフォルトゥーナは自分の身に起

きたことを隠し通さず、全て話した。そ

の間、シンヤは一言も発さず、ティア達

はその様子を真剣に見つめていた。

「…………なるほど。そんなことが」

「ええ。ごめんね、心配かけて」

「いいや、お袋は何も悪くない。むし

ろ、俺達の為にありがとう。それから、

すまなかった。俺はお前に何もしてやる

ことができなかった」

「何言ってるの。親からしたら、子が元

気でいるだけで幸せなのよ。私はそれほ

ど多くのことを出来ないわ。でも、シン

ヤ達にとって大切なものを1つだけでも

守れれば、あとはもう……………」

「お袋」

「ん?なに?」

「俺を産んでくれて、ありがとう。愛し

てくれて、ありがとう。愛を持って育て

てくれて、ありがとう。そして、いつで

も俺を想ってくれていて、ありがとう」

「っ!?シンヤ!?」

シンヤからの突然の言葉にフォルトゥー

ナはひどく動揺し、それ以上に嬉しさか

ら涙を流した。

「ちょっと…………こんな時にそんなこと

言わないでよ」

「こんな時だからこそ、言うんだろ」

「だ、だって…………」

フォルトゥーナは涙と鼻水でぐしゃぐし

ゃになった顔でシンヤを抱き締めて、思

い切り叫んだ。

「そんなこと言われたら、寂しくて逝け

ないじゃない!!うわ~ん!!死にたく

ないよ~!!」

「……………くっ」

シンヤの方も俯いて、涙を流しながらフ

ォルトゥーナを抱き締め返した。それは

最期の時までの限られた時間を1分1

秒、無駄にしないようにとの行動だっ

た。

「……………シンヤ、ありがとう。もう大

丈夫よ」

しばらく、そうしているとフォルトゥー

ナの方から身体を離し、シンヤもそれに

従った。

「行くのね?」

「当たり前だ…………元々、お袋の話を聞

かずとも行くつもりだったんだ」

「どうやら、止められそうにないわね」

「ふざけた連中だ。今すぐ行って、高み

の見物を決め込んでいる奴らを全員、引

き摺り下ろしてやる」

「無茶はしないで」

「おいおい。俺があんな奴らに負けると

思うか?」

「……………そうよね。あなたなら、どん

なことでも成し遂げてしまうでしょう。

だって、私とあの人の息子なんだもの」

愛おしそうに見つめるフォルトゥーナの

視線から逃れるようにシンヤは徐に立ち

上がると背を向けて歩き出した。

「頑張って!私はどこまでいってもあな

たの味方よ!!」

「っ!?…………ああ。俺は絶対に成し遂

げてみせる。だから……………だから、安

心して見守っててくれ」

ゆっくりと歩き出したシンヤ。さらにそ

こに続く12人の仲間達を見たフォルト

ゥーナは安心して、その瞼をゆっくりと

閉じていった。

「シンヤ…………あなたなら、きっとでき

るわ……………」









「人の子よ…………我々の前に堂々と現れ

るとは一体どういう了見だ?」

そこは天界のさらに上に位置する場所、

神界。現在、そこでは上位の神々が13

人もの乱入者達を鋭く睨みつけ、いつ武

力で以て排除しようとしてもおかしくは

なかった。

「用件はたった1つだ」

現場に漂う緊張感も半端ではなく、彼ら

から溢れる神気の量は相当なものだっ

た。

「腐った神々おまえらを今、ここで

叩き潰す」

そう言ってシンヤが刀を抜いた直後、ど

こかで大きく雷鳴が轟いた。
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