俺は善人にはなれない

気衒い

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第16章 神々の黄昏

第351話 神々の軍勢

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「あら!みんな、おかえりなさ……………

っ!?」

フォルトゥーナの用意した空間から続々

と帰ってくるシンヤ達を見て、彼女はひ

どく驚いた。何故なら、皆一様に凄まじ

い成長を遂げていたからだ。それは彼ら

の放つ"神の気配"…………"神気"か

ら感じることかできた。

「……………ありえない。たった1週間で

ここまでになるなんて」

「俺達をそこらの奴と一緒にするな」

フォルトゥーナの驚愕に対して平然と返

すシンヤ。心なしか、その表情は以前よ

りも幾分か鋭さを増している気がした。

「で、でもまさか全員が最終進化を果た

しているし、レベルも」

「ああ、それな。なんか、あそこで出て

くる敵を倒したら、どんどんレベルが上

がっていったぞ。もしかしなくても設定

ミスってねぇか?」

「いいえ。それは単純にシンヤ達があの

空間に適応した証拠よ。あなた達、異世

界人がここに適応すると通常のステータ

ス数値が1.5倍されるのよ。それ加え

て、シンヤ自身がレベルの上がりやすい

体質なの。そして、それにあなたの仲間

達も影響され、同じ恩恵を受けてい

る……………結果、無事に最終進化を果た

し、レベルもとんでもないことになって

いるということみたい」

「そうか……………で?俺達は奴らに勝て

そうなのか?」

「……………ここから離れたところにいく

つか気配を感じない?」

「確かに感じるな。デカいのがいくつか

と中ぐらいの、それから小さいのが大量

に」

「ええ。その気配の者達が今後、あなた
達の敵となる悪神達…………今は"神々の軍勢エインヘルヤル"と呼ばれている存在よ」

「なるほどな。にしてもそんな御大層な

名前を付けられる程の存在か?」

「いいえ。彼らが自ら、そう名乗ったら

しいわ」

「イタイことこの上ないな…………まぁ、

いいか」

「もう彼らの力量はおおよそ分かってい

るだろうけど油断しないで。腐っても

神。何をしでかしてくるか分かったもん

じゃないわ」

「それを俺に言うのか?地球での俺が一

体どんな場所で暮らしていたと思って

る。あそこじゃ気を抜いた瞬間、終わり

だ。ましてや油断などしてしまえば、骨

も残らない」

「そうだったわ。あなたにとって、今の

忠告は無駄だったわね……………でも、彼

女達は」

「それも要らない心配だ。"油断"や"

慢心"することの危険性は俺の過去も絡 

めて言ってある。初めて会った時もティ

ア達に隙はなかっただろ?」

「確かにそうね。それでもあの時はまだ

"天界"、それから"神域"に不慣れだ

ったから、御せたけど今、やり合ったら

どうなるか分からないわ」

「試してみますか?」

「ひっ!?」

笑顔で言い放つティアに以前のやり取り

が頭に浮かび、咄嗟に腰が引けるフォル

トゥーナ。しかし、直後に少し悲しそう

な表情をするティアを見て、今度は別の

意味で焦り出した。

「私、悲しいです。もっとお義母様かあさまと仲良くしたいだけなのにそんなに怖がられたら、一体どうすればいいんですか」

「ええっ!?テ、ティアちゃん!?そ、

そんな風に思ってくれていたの!?」

「当たり前じゃないですか。だって、フ

ォルトゥーナさんは私のお母さんとなる

人ですよ?家族なんですよ?それなのに

そんな…………」

「ああっ!?ごめんなさい!!そんなつ

もりじゃなかったの!!むしろ、ずっと

娘が欲しいと思っていたから嬉しいの

よ!!」

「……………本当ですか?」

上目遣い、それも耳がパタンと垂れてし

まっている状態のティアにそんな質問を

され、思わず胸が苦しくなったフォルト

ゥーナはそのまま彼女を抱き締めた。

「本当よ!!ああっ、ティアちゃん!!

あなたはなんて可愛いくて良い娘なのか

しら!!何でも言ってちょうだいね!!

私にできることなら、なんでもしてあげ

るわ!!」

「……………うわ、チョロ………ボソッ」

「ん?何か言ったかしら?」
 
「いいえ。私もお義母様かあさま

はできる限りのことをしてあげたいで

す」

「ティアちゃん!!」

感極まりながらティアを抱き締めるフォ

ルトゥーナ。それを冷めた目で見ていた

シンヤは一言こう言った。

「何だ、この茶番」

「ちょっと!!今のはどう考えても感動

的な場面でしょうが!!水を差さないで

よ愛息子!!」

「どうでもいいが、もう行ってもいい

か?こうしている間にも奴らが好き勝手

に暴れてる様を想像したら、なんか無性

に潰してやりたくなった」

「凄い自信ね。でも、まぁそうね。それ

はあなた達にしかできないこと……………

じゃあ天界の未来は任せたわ。私はここ

にいることしかできない、この手で奴ら

を止められない自分が悔しいわ」

今度はフォルトゥーナの方が悲しそうな

表情を浮かべて俯いた。己の力不足を感

じている彼女のその表情はある種、良い

絵となっていた。

「お前もそこそこ戦えそうだけどな」

「私は駄目なのよ。戦うことを禁じられているから・・・・・・・・・・・・・・………………それにしても今のシンヤ達からしたら、そこそこなのね私」

「何をしょげてんのか知らないが俺達は

もう行くぞ」

シンヤに続き、全員が"行ってきます"

という言葉をフォルトゥーナへ掛けて歩

き出す。ところが、少ししてから立ち止

まったシンヤはティア達を先に行かせる

と後ろを振り返り、こう言った。


「"ここにいることしかできない"とお

前は言ったが、そんなことは決してな

い。修行する場所はお前が与えてくれ

た。そして、そこへ安心して向かうこと

ができたのはお前がここを守っていてく

れたからだ」

「シンヤ……………」

「ありがとな。じゃあ行ってくる

わ……………お袋」

「っ!?シンヤちゃん!!」

それから、またまた足に纏わりついてき

たフォルトゥーナを引き剥がすのに苦労

したシンヤは約5分遅れでティア達と合

流した。やはり、シンヤにとって両親と

は自身のペースを狂わせてくる存

在……………ある意味、彼にとって最も強

い敵なのかもしれなかった。
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