俺は善人にはなれない

気衒い

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第15章 親子喧嘩

第349話 奥の手

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「なんだと?」

フォルトゥーナの発言に対し、静かに言

葉を発するシンヤ。しかし、その静かさ

が逆にシンヤの感情をよく表しており、

並大抵の者では彼から放たれる殺気に耐

えることができなかっただろう。とはい

っても幸いにもここにいるのはシンヤの

仲間達と神である。つまり、並大抵の者

ではない為、失神するようなことにはな

らなかった……………それでも自然と冷や

汗を流してはいたのだが。

「彼らは天界をある程度、荒らし回った

後に自分達の部下を異世界へと送り込

み、そこを第二の拠点にしようと企んで

いるわ。今はまだ暴動が起き始めたばか

りでそこまで天界も被害は受けてないけ

ど、このままいけばおそらく

は……………」

深刻そうに語るフォルトゥーナ。一方の

シンヤは軽く嘆息すると一言、こう言っ

た。

「その神達ってのはどこにいる?」

「え?」

「何を驚いた顔してんだよ。今からそい

つらを潰しにいくんだよ」

「ええっ!?」

「そんな驚くようなことか?異世界あっちには俺の仲間達が沢山いる。だったら、部下達を送り込む前にそいつら全員を叩きのめせば……………」

「そんな簡単に言わないで!!」

これまで聞いた中で最も大きな声での叱

責に今度はシンヤ達が驚く番となった。

見れば、フォルトゥーナは非常に辛そう

な表情で歯を食いしばっていた。

「はっきり言うわ。今のあなた達では彼

らには絶対に勝てない……………それは最

終進化を果たし、"下級神"となったシ

ンヤであってもよ」

「………………」

「それほど"神"というのは特別な存在

なの。そして、その位が上になればなる

ほど、その力も増すわ」

「……………じゃあ、どうすることもでき

ないってことか」

「……………いいえ。1つだけなら、手が

あるわ」

「っ!?それはどんな手だ?」

フォルトゥーナの言葉に身を乗り出さん

ばかりに詰め寄るシンヤ。対して、フォ

ルトゥーナはとても言いづらそうにしな

がら、シンヤへ確認を取った。

「で、でも、これは奥の手として存在す

る手で………………」

「だから、それを教えてくれって言って

んだよ」

「言っておくけど、かなり危険なのよ?

それこそ、命に関わるぐらいに!それも

絶対に成功するとは限らないわ!!」

「命に関わる?だから、何だ……………俺

はこんなところに留まったまま、異世界あっちに残してきた仲間達が殺されて
いくのを黙って見過ごすことなんて、

できない……………もし、そんなことにな

れば、俺は確実に後で死にたくなる」

「シンヤ…………あなた…………」

フォルトゥーナは感激したのか、思わず

目を閉じてシンヤを抱き締めた。

「お、おい。やめろ」

「そう。あなた命を張れるぐら

い大切なものを見つけたのね」

「……………」

「本当にいいのね?」

「ああ」

シンヤはフォルトゥーナに抱き締められ

ながらも特に不快感を感じることなく、

むしろそこには不思議な安心感があっ

た。そして、チラリとシンヤが横目でフ

ォルトゥーナの顔を見ると彼女もまたシ

ンヤを見つめていた為、少しの間、視線

が交差した。

「どうやら、決意は揺らぎそうもないわ

ね……………よし、分かったわ」

フォルトゥーナはシンヤの表情から大き

な覚悟を感じ取り、しっかりと頷いた。

そして、シンヤから身体を離すと真剣な

表情でこう言った。

「彼らの暴動が本格的になり、部下達を

異世界へと送り込むまでまだまだかかる

わ。その間、あなた達には……………」

ここで突然、フォルトゥーナが右手を横

にかざすとそこにまるで次元の裂け目の

ような黒い穴が開いた。

「この中に入って、修行してもらうわ」

「……………何だ、そこは?」

「私が独自に創り出した空間よ。本当は

シンヤに何かあった時に守ってあげられ

るようにと前々から創っていたのだけ

ど………………まさか、逆に守ってもらう

為に使うとは思わなかったわ」

「俺は仲間達の為に動くんだ。別にお前

の為じゃない」

「…………まぁ、それでもいいわ。でも、

これだけは言わせて………………本当にあ

りがとう」

「…………礼なら、無事に生き残れたら言

うんだな」

「っ!?シンヤちゃん!!」

「うざいから、近寄んな」

その後、黒い穴の中へと入っていくシン

ヤ達を不安と期待が入り混じった顔で見

守るフォルトゥーナ……………と、最後に

なったシンヤが振り返り、こう言った。

「色々とありがとな。それから、お前の

ことを色々と誤解してた………………すま

ん。じゃあ、行ってくる」

フォルトゥーナはそんなシンヤの頼もし

い背中を見送りながら、小さく呟いた。


「キョウヤ……………私達の息子はあんな

に逞しくなりましたよ………………まぁ、

それはあなたの方がよく知っているんで

しょうけど」
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