俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
330 / 416
第14章 獣人族領

第330話 一斉検査

しおりを挟む
「ふざけんなっ!!何で俺がそんなもん

受けなきゃならねぇんだ!!」

「ですから、何度も説明している通り、

これは冒険者ギルドに所属する全冒険者

を対象に行われていることでし

て……………」

「んなもん、お前らの都合で勝手にやっ

てるだけだろ!何でそんなのに俺が巻き

込まれなきゃいけねぇんだよ!!」

「いえ、ですから、これは冒険者として

適正な者であるかを判断する大切な検査

なので……………」

現在、とある冒険者ギルド内において、

冒険者がギルド職員に対して、怒声を浴

びせていた。その声は外まで聞こえるぐ

らいであり、何事かと通行人達も思わ

ず、ギルド内を覗いてしまう程だった。

「おい、あいつ…………」

「ああ。"赤き剣群"や"殲滅連合"、

それに"戦線騎士団"という目の上のた

んこぶがいなくなった今、次は自分達だ

と息巻いているからな。そんな時に余計

な茶々を入れられたくないんだろう………………それにしてもあの激昂ぶり

から察するによほど探られたくない腹が

あると見えるな」

このように周囲がヒソヒソと話をする

中、怒鳴り散らしている件の男はそれを

全く気にした様子もなく、職員へと再び

食ってかかった。

「だから、冒険者っていうのはそんなも

んに縛られない、自由がウリの職業だっ

たんじゃねぇのかよ!!そりゃ、最低限

のルールぐらいは守るが本来、検査や調

査なんて受ける必要のない割とアバウト

な職業だろうが」

「……………日頃から、やり取りをさせて

頂いている方達に対して、こんなことは

言いたくないんですが……………」

「なんだよ」

「………………ここ最近、冒険者の度重な

る失態や悪行が目立つようになり、冒険

者の品格自体が疑われ始めてきたの

で……………」

「それで一斉検査ってか?そりゃ、職業

柄、多少は横柄になったり素行が悪くな

ったりする奴らはいるだろうが、別にそ

こまでの悪さをしている奴なんてほぼい

ないだろ。それなのに一部のそんなどう

しようもねぇ奴らのせいで俺まで検査を

受けさせられるのは納得がいかねぇ

ぜ!!これ以上、しつこいようなら、俺

にも考えが…………………」

「しつこいのはどちらかな?」

「っ!?」

男が次の行動を起こそうとした瞬間、突

然近くから第三者の声が割って入った。

男がびっくりして、声のした方を見ると

そこには驚きの面子が揃っていた。

「……………本部の副ギルドマスター、そ

れと支部のギルドマスターが複数

人……………さらにはあの"調停人ミディエイター"までいるとはな」

「ほぅ?彼らの存在まで知っていると

は」

「…………………噂には聞いたことがあ

る。ギルドが秘密裏に抱える特殊部隊で

主にギルドや冒険者に対して起きた揉め

事を武力または対話を以って解決する集

団……………それが"調停人ミディエイター"であると」

「ふむ」

「"調停人ミディエイター"は機

密保持の観点から、職務中は常に仮面で

顔を隠し、声を発することすら禁じられ

ている。これもまた噂だが、あの"麗鹿

"の妹である"策略家"ディアや元"碧

い鷹爪"の"倒木"レックス、など各軍団レギオンやクランの有名どころ

が自分達の活動と並行して行っていたと

かな……………とにかく、実力がないと務

まらない仕事だ」

「そこまで分かっているのであれば、彼

らの強さは百も承知だろう………………

で?これ以上、しつこいようなら、何だ

というんだ?」

「くっ……………」

「…………とは言ったものの、私達にも

ちゃんとした罪悪感はある。まるで君達

のことを疑うようなマネをして、さらに

余計な時間まで使わせて……………冒険者

達には不便をかけて悪いとは思ってい

る。本当にすまない」

そう言うと本部の副ギルドマスターはそ

の場で頭を下げた。それに倣い、支部の

ギルドマスターや"調停人ミディエイター"ですら、頭を下げる。これは

その場にいた全冒険者に向けられたもの

であり、急に謝罪をされた冒険者達はど

うしたらいいのか分からずにあたふたと

した。

「だが、こればかりは受けてもらわなけ

れば話が前に進まないんだ。どうか少し

の間、私達に協力しては頂けないだろう

か?もちろん、結果について不安に思う

者もいるだろう。しかし、安心して欲し

い。余程の・・・ことがない限り、

冒険者としての資格を失うことはない。

そして、この検査を受けて頂いた全ての

冒険者には1年間、依頼の報酬が10%

上乗せされるという権利が与えられる。

この部分をどうか私達の誠意の表れとし

て捉えて欲しい!!」

副ギルドマスターが放った言葉の最後の

部分を聞いて、今まであたふたとしてい

た冒険者達は一斉に動きを止めた。もち

ろん、検査など煩わしいだけだと嫌がる

冒険者は多い。ところが、よくよく話を

聞くとそんな気持ちを吹き飛ばす程のメ

リットが彼らにはあった。

「「「………………10%って、マ

ジ?」」」

その場にいた冒険者達が目を血走らせな

がら、副ギルドマスターへと確認を取

る。それを少し不思議に思った副ギルド

マスターはギルド職員へと問いかけた。

「彼らは一体何を驚いているんだ?ちゃ

んと彼らにメリットについて説明したん

だろう?」

「いえ、それが……………」

「ん?」

「先程の怒声を浴びせにきた方が最初の

ご案内でして……………その説明に行く前

に検査自体を拒否されてしまったのでま

だなんです」

「……………そうだったのか。それは仕方

ないな。ふむ……………であれば」

そこまで言った副ギルドマスターは懐か

ら5枚の紙を取り出して、それをギルド

職員へと渡した。

「"一斉検査のご案内"?」

「ああ。それを冒険者達から見える場所

に貼っていってくれ。そうすれば、彼ら

もまた違った反応を示すかもしれない。

大まかな内容を知っているのと知ってい

ないのでは案内を受けた時に感じる印象

が大きく違うからな」

「っ!?はいっ!!分かりました!!」


後日、全ての冒険者ギルドに張り紙がな

され、これによって検査に半信半疑だっ

た冒険者すらも積極的に検査を受けてい

ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...