俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
319 / 416
第14章 獣人族領

第319話 全面戦争

しおりを挟む
「くぁ~……………ありゃ凄い数だな」

広い平原の向こうから駆けてくる軍勢を

見ながら、カグヤはそう口にした。

「なんて呑気な……………これは戦争です

よ」

「……………そういうお前だって、呑気に

武器の手入れしてんじゃねぇか」

苦言を呈してきたクーフォを半目で睨み

ながら、カグヤは言い返す。しかし、そ

んなカグヤの反論を軽く無視したクーフ

ォは遠くを見つめて呟いた。

「本当に懲りないですよね。何で次から

次へと喧嘩を売ってくる奴が後を絶たな

いんでしょうか?」

「そりゃそうだろ。アタシらはある者に

とってはデカい金脈、またある者にとっ

ては目の上のたんこぶだ…………………良

い意味でも悪い意味でもこんな目立つ存

在が狙われないと思うか?」

「そういうもんですかね?」

「お前は内側にいるから、分からないん

だ。一回、冷静に外から"黒天の星"も

しくは"黒の系譜"という組織を見てみ

ろ……………たぶん連中の気持ちが分かる

ぞ」

「へ~…………………っと、カグヤさん」

「ああ、分かってる………………あ~こち

ら、第一部隊部隊長兼指揮官のカグヤ

だ。第ニ部隊~第十部隊に告ぐ。後衛組

はただちに部隊長の指示に従い、行動せ

よ。繰り返す。後衛組はただちに部隊長

の指示に従い、行動せよ………………よ

し、じゃあ」

「私達はこのまま待機ですね?」

「ああ……………奴らがここ本陣に乗り込

んでくるまではな」






―――――――――――――――――――――





連盟ユニオン"赤き殲滅騎士団"と

の戦いに際して、例の3人とカグヤの話

し合いの次の日、"黒の系譜"はそれぞ

れの軍団長レギオンマスター宛に

挑発文を叩きつけた。"ルーズ平原に

て、我々は貴殿らの挑戦を受けよう。日

時はそちらに合わせる。もちろん、日時

を敢えて知らせず、一方的に急襲しても

構わない。我々は逃げも隠れもしない。

本日より、ルーズ平原にて貴殿らを待っ

ている。ではーーー黒の系譜よりーーー

"……………そんな文言が記された手紙を

くくりつけた矢文が超長距離から、それ

ぞれの軍団長レギオンマスター

いる部屋の中へと放たれたのだ。呑気に

襲撃計画を練っていた軍団長レギオンマスター達はこれにかなり驚き、す
ぐに連盟会議ユニットを開いて、

今後の動きについて話し合った。そし

て、出た結論というのがそれぞれが今す

ぐ本拠地を離れ、最速でルーズ平原へと

向かうというものだった。挑発文には"

矢文が飛んできた日からルーズ平原で待

ち構えている"というような内容が記載

されていたがまさか、その日のうちに襲

撃を受けるとは思うまいというのが連盟ユニオンの考えだったのだ。そし

て、いざその現場まで向かい、3つの軍団レギオンが揃った段階で敵側の

陣営を見渡した彼らは読みが当たったと

ほくそ笑むこととなった。

「予想通りだな。奴ら、呑気に談笑して

いるな」

「ふんっ。緊張感の欠片もない奴らめ」

「そんじゃ、さっさと殲滅するか」

軍団長レギオンマスター達のその発

言の直後、彼らは"黒の系譜"へ向かっ

て、進軍を開始したのだった。









「今、通信が、入った。後衛組は、用

意、して」

ノエの号令によって、無駄のない統率の

取れた動きで準備を始める者達。

「ノエさ~ん。隊列は~?」

「ん~……………"5ー3ー3"で、い

い」

そこにリームの間延びした声が響き、他

の者達はそれに対するノエの返答に耳を

傾けた。現在、幹部である"十人十色"

はそれぞれの担当する組の者達……………

だけではなく、傘下も1つずつ受け持

ち、それが1つの部隊となっていた。部

隊長を"十人十色"のメンバーが務め、

第一部隊の部隊長であるカグヤの部隊は

全体の総指揮も担っている為、全体を見

渡せる最後尾に構えている。そして、あ

らかじめ緊急時に備え、軍団レギオン全体で大規模な集団との戦闘を想定

した訓練もしていた為、メンバー達は隊

列の組み方も事前に心得ていた。ちなみ

に"5ー3ー3"とは「縦5列横3列を

1組とする陣形が計3つ」という意味で

ある。

「用意、できた?」

「は~い。大丈夫で~す!」

「僕達も大丈夫だよ!」

ノエの確認にリームとクラン" "風神"

のクランマスター、ウィンが返事をす

る。基本的に傘下達のクランメンバーの

数はそれぞれ40~50名と多く、彼ら

だけでも陣形は作れるのだが、万全を期

して必ず"黒天の星"のメンバーを最低

2名は一緒に組み込むようにしていた。

現にウィンも銅組の組員に囲まれてい

る。

「よし。それじゃあ……………放て」







―――――――――――――――――――――





「な、何だあれは………………」

「凄い数と質量」

「まるでこの世の終わりだな」

異変に最初に気が付いたのはそれぞれ

軍団長レギオンマスター達だっ

た。勢いよく進軍していた彼らに向かっ

て、なんと空から雷や氷・炎の塊が降っ

てきたのだ。そして、それらは横に大き

く広がりながら進んでいた彼らに逃げ場

を与えることなく、着弾していく。

「うわああああっ~!?」

「ぎやああああっ!?」

「熱ぃよぉ!」

「冷てぇ!?」

「あばばばばっ!?」

"赤き剣群"総勢800名、"殲滅連合

"総勢1000名、"戦線騎士団"総勢

1500名からなる大規模な軍勢は総勢

800名の"黒の系譜"に対して、数の

面でいえば圧倒的なアドバンテージを誇

っていた。しかし、数が多ければその

分、デメリットもある。そのことを彼ら

は忘れていたのだ。

「全軍、倒れた味方に気を取られるな!

どんなに悲しくとも彼らの屍を超えて、

前へ前へと突き進め!!」

規模が大きくなればなる程、的もその

分、広くなる。今の先制攻撃により、"

赤き戦線騎士団"は実に1000名もの

仲間達を失ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...