俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第314話 ケジメ

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「はぁ、はぁ、はぁ……………」

「うっ………………」

「やっぱり強いな、ディア」

「あなたもね………………はぁ、仕方ない

わ」

ところどころ傷がある2人。お互いの武

器である剣と棍をぶつけ合ってから、1

0分が経とうとしていた。その間、一切

手を緩めることなく、動き続けていた2

人は互いに譲らぬ一進一退を繰り返して

いた。とはいってもウィアは檻の中に入

れられていた分、弱っている為、ハンデ

はあった。しかし、それを差し引いたと

してもディアの強さは本物だった。

「これを使ったら最後、私は死ぬまで止

まらないわ」

「おい、ディア!一体何をする気だ!」

すると何か覚悟を決めた様子のディアは

とある固有スキルを発動しようとした。

「"狂鹿きょうか"……………現在

の自分の力が2倍になるとんでもないス

キルよ。ただし自分の意識がなくなり、

ただ暴れ回ることしかできなくなる。お

まけにこのスキルを使った者は確実に死

ぬわ」

「っ!?やめろ!何でそこまでして」

「言ったわよね?私はあなた達に深い恨

みがあるって。それにどのみち、こんな

ことをしでかした私がこれから真っ当に

生きていくなんて無理なのよ。だった

ら、いっそここで幕を閉じた方がマシ

よ」

「そんなことを言うなよ!アタイも一緒

に頭を下げるから!悪いことをしたな

ら、みんなに謝ろう!こんなケジメのつ

け方はおかしいよ!」

「馬鹿言わないで!あなたのそういうお

人好しなところが大嫌いなのよ!私はあ

なたを酷い目に遭わせたのよ?運が悪け

れば死んでいたかもしれない。そんな目

に遭わせた相手を気遣うなんて正気?」

「確かにディアには酷い目に遭わされ

た。でも、お前も今はボロボロじゃない

か。これで十分じゃないか?」

「相変わらず、甘い考えね。そういった

ところにつけ込まれるのよ」

そして、遂にディアはウィアの制止も虚

しく、固有スキルを発動してしまった。

その途端、膨れ上がる殺気。確実に数秒

前よりも強くなっている。しかし、その

瞳は真っ赤に染まり、それは意識がなく

なっていることを意味していた。これに

対してウィアもまた固有スキルをフルに

活用することで自身の力を底上げした。

「ディア……………お前が抱えているもの

に気が付かなくてごめん。だけど、これ

だけは覚えておいてくれ」

そう言うとウィアは真っ直ぐに突っ込ん

でくるディアへ向けて、剣を振るった。

「ぐふっ!?」

避けようと思えば避けられたかもしれな

いその一撃をディアは正面から受け止め

た。結果、それはディアの胸を貫いて刺

さり、ちょうど至近距離で2人は向かい

合う形となった。

「アタイはお前のことが大好きだ。こん

なことをされてもやっぱり、アタイはお

前のことを嫌いになれない」

「………………ふっ、やっぱり大馬鹿者

ね、あなたは」

ウィアの言葉と想いがディアの瞳に正常

な色を取り戻させる。

「お前を自害なんかさせない。そうさせ

るぐらいなら、アタイが……………うう

っ……………アタイがこの手で…………う

うっ……………」

ウィアの手に伝わる感覚。それは自分の

手で親友・・の身体を貫いている

ものだった。ウィアの瞳からはとめどな

く涙が溢れ、それは徐々に視界をぼやけ

させていく。

「あなたはいつもそう。無茶苦茶やって

いるようだけど、常に周りのこと

を…………誰かのことを考えて動く人。

そして、そんな人だから私は……………」

続く言葉は声にならず、側から見れば口

だけが動いているように見えた。ところ

が、ウィアには彼女の声がちゃんと届

き、何を言っているのか理解した。

「ううっ……………分かったよ、ディア」

その言葉を聞いたディアはフッと微笑

み、そこからはもう動かなくなった。後

にはその場で彼女をきつく抱き締めるウ

ィアだけが残っていた。







―――――――――――――――――――――





「ティアか?もうそっちは終わったの

か?」

シンヤは魔道具を起動させ、ティアから

の通信を受け取った。実は途中からシン

ヤと別行動を取っていたティアとサラは

"闇獣の血"のアジトを潰して回ってい

たのだ。そして、それが終わり次第、魔

道具を使って連絡を取り合う手筈となっ

ていた。

「俺の方もちょうど終わった………………

ああ。色々と情報も吐かせたから、そこ

は大丈夫だ」

シンヤは自分の破壊した箇所を魔法で再

生しつつ、上へと向かう。

「ああ。そこで待っていてくれ。今から

向かう」

シンヤがいた場所には片目に黒い眼帯を

つけ、片耳が千切れた強面の獣人族の男

の首が転がっていたのだった。
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