俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第313話 ディア

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「あれは遡ること28年前。獣人族領の

とある村で暮らしていた私達の元にある

男がやってきた。あなたもよく知るあの

男よ」

「……………まさか」

「どんな理由があったのかは知らないけ

ど、私の姉ケリュネイアはその男の旅に

着いていくことを決めたの。そして当

然、私も着いていけるものだと思ってい

たわ。私達姉妹はいつも一緒にいたか

ら…………………でも、それは叶わなかっ

た。あの男は姉だけを旅に連れ出し、私

を除け者にしたの」

「………………」

「理由は分かっているわ。姉の方が私よ

りも才能があったからよ。スキルも武技

も魔法も……………どれを取っても私は姉

に遠く及ばなかった。でも、そんなこと

問題じゃないの。私がずっと気にしてい

たのはどうして同じ環境で育ったのにこ

うも違うのかってことよ。当時、姉は8

歳で私は6歳。旅に連れ出すにしては幼

なかった。でも姉は同行者として選ばれ

た。たった2歳しか違わない私は選ばれ

なかったのに……………私はその日から姉

に対する嫉妬、また姉を連れ出したあの

男に対する憎悪を抱いた。それは来る日

も来る日も強まり、やがてそれは絶望へ

と変わったわ」

「………………」

「憧れから始まり、嫉妬、そして最終的

に絶対に越えられない壁とし

て………………私は姉に対して絶望を覚え

たの。それは姉同様、あなたもかつて所

属していたあのクランの噂が私の住む小

さな村にまで聞こえてくるようになった

のが主な原因よ。私は所詮、小さな小さ

なこの村で一生を終えるのかと当時はひ

どく嘆き、姉は今もあの男と一緒に楽し

くやっているのだろうかと思う度に悔し

さと寂寥感に苛まれたわ」

「……………ごめん」

「あなたに謝ってもらったところで今更

どうしようもないわ………………と言いた  

いところだけど、当時の私にとってはも

しかしたら、そうして欲しかったのかも

しれないわ」

「えっ…………」

「だって、私はあの男のクランに所属し

ていたメンバー全員を恨んでいたもの。

常に姉と一緒に行動し、世界を回る。そ

んなのが羨ましくない訳がないわ。だか

ら、私は思ったの………………どうにかし

て奴らに復讐してやろうと。呑気にアホ

面下げて楽しんでる者達に地獄を見せて

やるって」

「そ、そんな……………じゃあ、アタイの

クランに入ったのも」

「ええ。いい感じにクラン内を引っ掻き

回して分裂させ、後悔させてやろうと思  

って……………事前に"紫の蝋"から声が

掛かっていて、スパイという形で加入す

ればそれも容易いだろうというのもあっ

たわ。そして目論見通り、当初はあなた

を要所要所で妨害し、クラン内をごたつ

かせることにも成功していたわ」

「確かに最初の方はトラブル続きで苦労 

が多かったけど…………あれはお前の仕

業だったのか」

「でも、私がいくら小細工を弄したとこ

ろであなたは止まらなかった。持ち前の

明るさとカリスマ性でメンバーをまとめ

上げ、それに連なる声は徐々に多くなっ

ていった。そして気が付けばクランは軍団レギオンへと進化を遂げ、もは

や私がどうこうできる次元ではなかっ

た。それでも"獣の狩場ビースト・ハント"の内部情報を送り、"紫の蝋

"がいつかあなた達の隙間をついて、上

へと登れるようスパイとしての活動を全

うしていた。いつか来る好機を待ち望ん

で………………でも、私は我慢が出来なか

った。"笛吹き"ハーメルンのあの演説

を見てしまってから」

「っ!?お、お前あそこにいたの

か!?」

「ええ。ハーメルンも私の復讐対象だも

の。そんな憎っくき相手が冒険者を引退

するなんて宣言したものだから、その面

を拝もうと楽しみにして行ってみた

ら………………とんだ茶番だったわ。引退

どころか、民衆から許しを得るなんて。

"聖義事変"の首謀者の血縁など即刻死

刑に決まっているじゃない。それなのに

何をのうのうと生きているんだか」

「それでハーメルンを襲わせたのか?」

「そうよ。ついでに死刑にならなかった

ハジメとかいう"聖義事変"の首謀者の

両親も襲わせたわ………………いや~クズ

がこの世から消えるのは気持ちがいいわ

ね」

「………………」

「それでハーメルン達の殺害を依頼した

私は同時にウィアに対する復讐もしよう

と思ったわ。そして、あの日。パーティ

ーを楽しみ浮かれた気分のまま、帰路に

ついた間抜けなあなた達を襲撃したの

よ」

ひとしきり話し、満足した様子のディア

はウィアの反応を見る為、しばし黙っ

た。すると、してやったりといった顔を

したウィアはディアを見つめて、こう言

った。

「流石は"策略家"ディアだな。今回は

お前に色々としてやられたよ。だがな、

そんなお前の計画には1つ致命的な穴が

あった」

「穴?どこにそんなのがあるのかし

ら?」

「お前が依頼をした"闇獣の血"はな、

珍しく舞い込んだ大口の依頼に浮かれ

て、重要なことをし忘れた…………………

そう、ハーメルンが死亡しているかどう

かの確認だ」

「っ!?ま、まさか!?」

「そう。彼はまだ生きている。だからこ

そ、シンヤ達は迅速に行動へと移ること

ができた……………おかしいとは思わなか

ったか?シンヤ達が獣人族領に辿り着く

スピードを、そして"紫の蝋"が襲撃さ

れる過程を。お前達の敗因は何1つ疑っ

てかからなかったところだ」

「くっ………………あの"死に損ない"が

伝えたからか!ふざけんじゃないわよ!

計画は完璧なはずだったのに!」

「覚えておけ。追い詰められた者が与え

る一撃は時に凄まじいものになる。そし

て、追い詰める側はそれ以上に覚悟を持

って臨まなければならないんだ」

ウィアは愛用の剣を抜き放つと鋭い眼光

でディアを睨み、そこからは絶対に逃す

まいとする気迫が感じられた。

「お前の想いは分かった。そしたら、今

度は部下のケジメをリーダーであるアタ

イがつける!!」

これにはディアも覚悟を決めて、武器を

構えざるを得なかった。
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