俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第310話 仮面

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「ご機嫌よう、ウィア元王女……………そ

してアムール王」

「………………」

城の地下にある檻へと幽閉されたウィア

達の下へ2人の男女がやって来た。1人

は片目に黒い眼帯をつけ、片耳が千切れ

た強面の獣人族の男。そして、もう1人

は仮面で顔を隠したスタイルの良い獣人

族の女だった。

「っ!?眼帯の男!お前が"闇獣の血"のリーダーだな!アタイ達や軍団レギオンのみんなを解放しろ!」

「ふっふっふ。ここまで来て、逃す訳な

いだろう。面白いことを言うな。それに

お前の軍団レギオンのことなら、

"紫の蝋"の連中に言えば良かろう。

ま、既にお前の仲間はこの世にいないか

もしれないがな」

「くっ………………」

「……………ちょっとよいか?眼帯のお前

さんに1つ聞きたいことがある」

「眼帯、眼帯ってうるせぇな。俺にはウ

ルフって名前があんだよ」

「ウルフ?もしや、"隻眼"のか?」

「まぁ、そうも呼ばれてるな」

「ではウルフ殿。お前さん、ウィアを王

の間に連れてきた者ではないのか?確

か、あの時の男も眼帯を着けておった気

が……………」

「あれは双子の弟だ。あいつは右目、俺

は左目に眼帯をつけてる。ちなみに片耳

が千切れているのは俺だけだから、それ

でも見分けがつく」

「もしや、弟さんは"狼闘"ヴォルフ

か?」

「ああ、そうだ。副団長をしている。よ

く知っているな」

「有名だからな。いくら闇組織とはい

え、規模が大きくなれば、どこかしらか

ら個々の存在も漏れるものよ………………

つまり、こんな大それたことをしてタダ

で済むとは思わないことだ。いずれお前

達の全てが明るみになり、今までしてき

たことのツケが返ってくるだろう」

「はんっ。よしてくれ。年寄りの説教な

んざ別に聞きたくはない。なぁ、お前も

そう思うだろう?」

ウルフが隣の仮面をつけた女へ話を振

る。女はそれまで沈黙を貫いていたがこ

こで遂に言葉を発した。

「………………いいザマね」

「あん?それは俺に言っているのか?」

「違うわ。檻の中に囚われて何もできな

い哀れな姫によ」

「ああ……………なるほどな」

女の発言に対してニヤリとした笑みを浮

かべるウルフ。事情を知っている者にと

っては今の発言は理解できただろう。し

かし、彼らの関係性を把握していないア
 
ムール王にとっては何が何だかさっぱり

だった。

「……………その声はもしかして」

ところが、ウィアは違った。何か心当た

りがあるのか仮面の女を真っ直ぐ見つ

め、徐々に身体を震わせ始めた。

「久しぶりね、ウィア…………………別に

会いたくはなかったけど、あなたのこん

な無様な姿を見られたのは嬉しいわ」

女はそう言いながら、着けていた仮面を

外した。すると、その顔を見たウィアは

"やっぱり"という表情を浮かべ、口を

開いた。

「…………馬車の中で聞いたぞ。お前が

アタイを攫うよう依頼し、みんなが"紫

の蝋"に捕らえられた原因だっ

て……………」

「………………」

「なぁ!何でこんなことしたんだよ。ア

タイ達は仲間じゃなかったのかよ。ずっ

と一緒にやってきたじゃんか。お前にと

ってアタイ達はそんな程度の存在なのか

よ……………答えろよ、ディア!!」

仮面を着けた獣人族の女はなんとウィア
のクランの副クランマスター兼"獣の狩場ビースト・ハント"の副軍団長サブレギオンマスターだった。

「あなた達を仲間だと思ったことなんて

一度たりともないわ」

「………………そんな。アタイはお前のこ

とを」

「だって……………」

続く彼女の言葉はウィアの心を完全に打

ち砕く程のものだった。

「私は"紫の蝋"のスパイとして、あなた達のクランや軍団レギオンにずっといたんだもの」








―――――――――――――――――――――







「ディアは上手くやってくれたみたいだ

な」

「みたいですね。でも、びっくりしまし
たよ。まさか、あの"獣の狩場ビースト・ハント"の副軍団長サブレギオンマスターが俺達のスパイだった
なんて………………何故、俺達にも教えて
くれなかったんですか?」

「あいつは相当慎重な性格でな。万が一

のことを考え、スパイの件はお前達には

黙っておくよう言われてたのさ。だか

ら、このことを知っていたのは俺と最高

幹部の2人だけだ」

「でも、ギルドに登録した時にバレませ

んか?」

「あいつはうちにいる時は常に仮面を着

け、偽名を名乗っていた。だから、奴ら

の目も誤魔化せたんだ」

「なるほど。仮面……………って、ええ

っ!?まさか、うちで参謀を務めてくれ

ていたマスカレードさんが!?」

「そうだ。ってか、いちいちリアクショ

ンが大きいな」

「そりゃ驚きますって………………それに
してもマスカレード……………ディアさん
もスパイなんて危ない橋を渡りますね。
いくらで雇ったんです?"獣の狩場ビースト・ハント"を裏切らせるぐ
らいなんだから、相当な……………」

「何か勘違いしているようだから言って

おくが、ディアは最初からこちら側だ

ぞ」

「えっ」

「あいつは最初にうちに入り、自らの意志で"獣の狩場ビースト・ハント"のスパイを務めていたんだ」

「えっ、何で!?」

「詳しいことは話してくれなかったから

分からんが、あいつの心の奥底には深い

恨みや怒り、憎悪がある。そして、それ

は初めて会った時から変わらない。ま

ぁ、それが関係しているかは分からん

が」

「……………」

「お前も知っての通り、俺には特殊な固

有スキルがある。"紫蝋しろう"…………… 対象者にマイナスな感情が

あれば、その者の胸のあたりに蝋燭が見

える。そして、その感情の深さ・大きさ

が蝋燭に灯った火の揺れ具合で分かると

いうものだ。俺はその昔、とある街を彷

徨い歩いていた。すると、1人の美人な

鹿人種の女が目に入ったんた。下心から

その女に近付いた俺は手前であることに

気が付いた…………………その女の胸のあ

たりに蝋燭が見え、そこに灯った火が激

しく揺れていることに」

「そ、それって」

「ああ。女は何かしらの闇を抱えてい

る。俺は目的を変更して、女に近付い

た。そして、こう言ったんだ。俺の軍団レギオンに入らないか?と」

「なるほど。そんな過去が」

「女…………ディアは一つ返事で了承し

た。"ちょうどいい。私の目的を果たせ  

そうだ"と。ディアの目的には興味のな   

かった俺はその場で事情を聞くことはし 

なかったが……………もしかしたら、今回  

の件はあいつの念願だったかもしれない  

な」

「ではその為に今日までスパイを?」

「スパイというより生きる目的みたいな

感じだな、あれは。俺はこの固有スキル  

を持ってから今まで様々な人間の感情を

垣間見てきた。そんな中でもあいつに見

えた感情はとても深いものだった。それ

こそ、その想いを達成する為に生きてい

るかのような」

「何がどうなったら、そんなことに」

「それは分からんが生きてりゃ、色々と

あるだろ…………………このようにな」

「へ?一体何を……………っ!?」

男達が目の前を見るとそこには不敵な笑

みを浮かべる者がいつの間にか立ってい

た。

「談笑中のところ、悪い。"紫の蝋"

軍団長レギオンマスター

な?」

「"黒天の星"の幹部"十人十色"の1

人………………"朱鬼"カグヤか」

「そ、そんな…………」

「じゃあ、早速だが死んでもらうぞ」

「………………どうやら、覚悟を決めなけ

ればならないようだな」

軍団長レギオンマスターと呼ばれた

男はゆっくりと立ち上がると近くに置い

ていた武器に手をかけた。
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