俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第304話 名の知れた男3

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「じゃあ行ってくる」

「シンヤさんのことは私達に任せて下さ

い」

「この3人での行軍は邪神討伐以来です

わね」

会議室での話し合いから数日後。シン

ヤ・ティア・サラはクランハウスの玄関

先にいた。そして、そこには代表してカ

グヤが見送りに来ていた。

「例の件、任せた」

「ああ。昨日のシンヤの言葉を聞いたあ

いつらは張り切って、早速動き出した

ぞ」

「そうか。出来た仲間だな」

「それだけみんなが今回のことを許せな

いって思ってるんだよ………………あ、そ

れとシンヤ」

「ん?」

「アタシらの分まで奴らを叩き潰してく

れ」

「ああ。完膚なきまでにな」









―――――――――――――――――――――




 


「お、お前ら何なんだよ!」

とある軍団レギオンハウスへと連

れて来られた1人の少女が警戒心を顕に

して叫ぶ。そこにはその少女だけではな

く多くの者達が無理矢理、手錠を嵌めら

れて連れられていた。そして、その者達

全員がもれなく獣人族だった。

「アタシらを一体どうする気だ!!」

「だから、言っただろう?お前らは人質

だって」

「こんなことをしてタダで済むと思って

いるのか!お頭が黙っていないぞ!」

「そのお頭もまた人質に取られたから、

お前らはここにいるんだろう

が………………いいねぇ~。お互いがお互

いを人質とする関係。それにしてもお頭

さんも可哀想だな。部下がリーダーなし

では何もできない無能集団で」

「くっ……………」

「あ、分かっていると思うが余計なマネ

をすれば、お頭さんが大変な目に遭うか

らな………………まぁ、そう脅されてこう

してノコノコと連れられて来る訳だから

重々承知しているか」

「お前ら、絶対に許さないからな」

「はっ!好きなだけ吠えてろ。その威勢

がいつまで保つか楽しみだな」

「くそっ!この手錠さえなけれ

ば……………」

「あ、そうそう。こんなところに連れて

こられた哀れな人質共おまえらにいいこ

とを教えてやるよ」

「いいこと?」

「そうだ。まず、お前らの大切なお頭さ

んを連れて行った奴らだが……………なん

とあの"闇獣あんじゅう"のメンバーだ」

「何だって!?」

「この件には闇組織が関わっている。
あ、ちなみに俺達は"闇獣あんじゅう"のメンバーじゃない
ぜ。このマークを見て分かる通りにな」

「っ!?そ、そのマークは!……………ま

さか、お前ら」

「ご想像の通りだ。つまり、"闇獣あんじゅう"と俺達は
手を組んだ………………いや、正確には違
うな。あいつらの背後バックに俺
達がついたということだ」

「そ、そんな……………」

「おっと、衝撃的な事実はまだまだ続く

ぞ。そもそも大金を払ってお頭さんの誘

拐を奴らに依頼し、お前達がこうなって

しまっている原因を作ったのは他でもな

い…………………だ」

「っ!?う、嘘だ!そんな訳ない!あの

人がそんな」

男の言葉に少女…………シーフォンは手

錠を激しく打ち鳴らしながら叫んだ。

「分かるぜ。世の中には信じたくないこ

ともあるよな………………だが、これは現

実だ。分かったら、諦めて大人しくして

な」

「そんな………………まさか」

シーフォンは呆然となり、その場に座り

込んでしまった。そして、それは何も彼

女だけではなかった。男からもたらされ

た現実を聞いてその場にいたほとんどの

者は力が抜けて、倒れ込んでしまったの

だ。

「………………何か事情があるはず」

後にはただシーフォンの小さな呟きが静

かな空間に響き渡っていた。








―――――――――――――――――――――





シンヤ達がクランハウスを出発する2日

前の夜遅く。玄関の前にとある書類が封

筒に入って落ちていた。それを拾ったシ

ンヤは急いで幹部達を会議室に集めて、

中を確認していった。こういった封筒や

届け物には罠が仕掛けられている可能性

がある為、幹部立ち会いの下、開けるの

がルールとなっていたのだ。

「これは…………」

封筒の中身を取り出してみるとそこには現在、"獣の狩場ビースト・ハント"がとある軍団レギオンに狙われ、メンバーが次々と連れ去られているという情報とその軍団レギオンが所有する主な軍団レギオンハウスまたはクランハウスの場所が記された書類が入っていた。

「ドルツ」

「分かった。今すぐに調べる」

そこからの動きは早かった。ドルツ達緑
組がくだん軍団レギオンの主な情報を数十分で調べ上げ、シンヤはその日のうちにブロンの元を訪れて、
書類に記載されていた軍団レギオンハウスとクランハウスの場所が合っているかどうかの確認をした。すると……………

「ワシも彼らの拠点は少ししか知らん

が、それは合っておるな。であれば、そ

れ以外のも合っておるじゃろう」

そして、差出人が気になると言ったブロ

ンの為にシンヤが封筒を裏返すとそこに

は………………"キョウ"と小さく書かれ

ていた。

「"キョウ"?」

「ふむ。聞いたことがあるの。おそらく

時々、各地に現れる浮浪者のことじゃ

な。皆、その者のことを説明する時は口

を揃えてこう言うらしい………………"名

の知れた男"と」

「"名の知れた男"?」

「名前以外、素性が分からんかららしい

の」

「何だ、それ」

不思議に思ったシンヤがクランハウスに

戻り、ドルツにその男のことを聞いてみ

ると………………

「"キョウ"?ああ、そいつなら"名の

知れた男"として各地で噂にはなってい 

るな」

結局、ブロンと同じ答えが返ってきた

為、謎は深まるばかりだったがしかし、

有力な情報をくれたその男にシンヤは心

の中で感謝をしたのだった。









フリーダムから一番近い森の中。そこか

らフリーダムを見つめる男がいた。薄汚

れたローブを纏ったその男はニヤリとし

た笑みを浮かべると担いでいた魔物を地

面に下ろして、集めた薪に火をつけた。

「求めたいものが……未来があるのな

ら、足掻けよ小僧共」

数十分後、火事を心配したフリーダムの

門番が駆け付けるとそこには火が消えて

燃えかすとなった薪の跡があるだけだっ

た。もちろん、男の姿はどこにもなかっ

た。
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