俺は善人にはなれない

気衒い

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第14章 獣人族領

第301話 はぐれ者

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「"はぐれ者"って知ってるか?」

その人はそうワシらに言った。その時、

この人は一体何を言い出したのだろうと

不思議に思ったものだ。いつも破天荒な

言動を繰り返してはいたが、その日の彼

はいつもとは少し様子が違っていた。

「特定の集団や社会に属さず、孤立した

者のことだ。どうやら、そういう奴は決

まった家や職業を持たず、あちこち彷徨

い歩いていることが多いらしい」

ワシらではなく、というよりもまるでこ

の世界ではない別のどこかへと想いを馳

せるように彼は遠くを見つめて言った。

「ことこれは人だけに限った話ではな

く、そういうのは生物・無生物問わず、

存在する。そして、そういった者には何

か役割のようなものが必ずあると俺は思

っている」

そこまで聞いても結局、何が言いたいの

か分からず、ワシは周囲を見回した。す

ると全員が同じようなことを思ったらし

く、すぐに目が合ったが誰1人としてそ

の真意が掴めず首を横に振った。そして

痺れを切らしたのか、その中の1人が思

い切って質問をした。

「結局何が言いたいんですか?」

これに対して、その人は自嘲の笑みを浮

かべてこう答えた。

「俺がその"はぐれ者"だってことだ」

「……………は?何を言ってるんです?あ

なたはこうして集団に属していて、それ

ばかりか俺達を引っ張っていってくれて

るじゃないですか」

その人は一瞬だけ悲しそうな表情を浮か

べた後、再び遠くを見つめて言った。

「いずれ分かる」

今まで一度も見たことがなかったその悲

しげな表情はいつまでも……………………

それこそ、こうして歳を重ねた今でも記

憶の底に残り続けていた。









―――――――――――――――――――――








「はっ!?い、今寝ておったのか」

どうやら知らぬ間に机に突っ伏して寝て

おったらしく、ずり落ちそうになってか

ら、ワシは慌てて飛び起きた。

「危ないところじゃった………………それ

にしても何故あのような夢を」

遠い昔の出来事が何故か今になって夢に

出てきたことに違和感を覚えつつ、ワシ

は中途半端なままになっている書類の精

査に再び取り掛かった。

「全く、シンヤの奴め。次から次に色々

とやりよるのぅ」

"コンコンッ"。

「すみません、マリーです。今、お時間

よろしいでしょうか?」

「っと、どうしたんじゃ?」

ため息半分、嬉しさ半分で書類を見つめ

ていたワシは不意に聞こえたノックの音

に驚きつつ、人気NO.1の受付嬢であ

るマリーへと返事をした。すると彼女か

らは予想だにしない答えが返ってきた。

「とある人がギルドマスターにお会いし

たいらしく……………」

「言っておったじゃろう?ワシは今、忙

しいのじゃ。応接ならば、また日を改め

て」

「それが昔の知り合いだから通してくれ

と聞かなくて………………あっ!?ち、ち

ょっと待って下さい!!」

マリーの慌てる声と共に勢いよく開かれ

た扉。

「久しぶりだな、ブロン」

「っ!?あ、あなたはっ!?」

「融通が効かないのは今も変わらねぇ

な」

そこにいたのはつい今しがた夢に出てき

た………………あの人だった。









―――――――――――――――――――――








フリーダムのクランハウス内の会議室。

現在、その場には重苦しい空気が立ち込

めていた。シンヤと幹部全員が揃いも揃

って険しい表情をしており、皆黙り込ん

で俯いていた。しかし、流石にずっとそ

のままでいる訳にはいかないと感じたシ

ンヤは報告者であるドルツへ向けて口を

開いた。

「今、何て言った?」

「だから、部下から先程報告があった。

俺達が魔族領へと行っている間

に………………」

そこまで言ってから軽く目を瞑ったドル

ツは少し間を空けて、こう言った。

「ラゴン夫妻が殺された。そして昨日、

ハーメルンが重傷を負い、"赤虎"ウィ

ア・ベンガルが何者かに連れ去られた」
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