俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第297話 石像

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「ん?ちょっとあんた」

「はい?何でしょうか?」

「仕事中、手を止めさせて悪いな。ちょ

っと聞きたいことがあるんだ……………こ

こって、つい2週間程前に魔王の襲撃を

受けた国だよな?」

「はい。そうですが」

「やっぱりそうだよな………………いや、

実は友人に面白いものがあるから、ぜひ

行ってくれと言われて遠路はるばる、こ

うしてやって来た訳なんだが」

「それはそれは……………長旅、ご苦労さ

まです」

「いやいや。それはそうと、何だこれ

は?本当に魔王の襲撃を受けたのか?」

「ええ。あの日のことは私もよく覚えて

おります。なにせ国中が大慌てでしたか

ら」

「そうだよな。にしては綺麗過ぎない

か?たった2週間でここまでになるの

か?それとぱっと見、魔族の数も多い。

これが国内に住む魔族の数だとしたら、

魔王の魔の手から逃げ延びた者がいるっ

てことか?」

「破壊された国内の建造物や公共物、そ

の他諸々に関しましてはとある冒険者の方々・・・・・・・・・がたった数分で修復して下さいました。そして、

魔王による死傷者の数ですが、なんと奇

跡的に0でした」

「0!?」

「ええ。とんでもないことですよね。ま

さに奇跡です」

「ほ、本当のことなのか………………ま

ぁ、それはいいや。しかし、破壊された

ものをこれほど綺麗にそれも数分で修復

するなんて聞いたことがないぞ。魔王に

よる被害だから、尚更とんでもないもの

だっただろうしな」

「ええ。特に国の中心部は酷かったで

す。ところどころ地面が陥没していまし

たし、石畳みの床は全て剥がされていま

した。さらにシンボルである噴水に至っ

ては上半分がなくなり、私共が駆け付け

た時には割れ目から水が四方八方へと飛

び散っている状態でした」

「へぇ~そりゃまた」

「そこ以外の場所も大なり小なり、被害

を受けていました。私共はせっかく新し

い体制になったというのに目先の復興に

頭が痛くなりかけたのですが、そこで冒

険者の方々が颯爽と現れて修復して下さ

ったのです。あれは凄い魔法だった

な~」

「間近で見たのか…………………ちなみに

どんな奴らだったんだ?」

「詳しくは吟遊詩人の詩を聴いて頂く

か、"魔王がやって来た日"という本を

読んで下さい。それらにはあの日のこと

が事細かに記されておりますので退屈は

なさらないかと」

「ちゃっかりしてるな。その本、この国

原産なんだろ?」

「ええ、もちろん。おかげ様で飛ぶよう

に売れております」

「だろうな。そういえば今更なんだが、

もう元の生活には戻れたのか?こんだけ

活気があるということは大丈夫そうだ

が」

「むしろ、以前よりもよくなりました

よ!この国は今、確実に変わり始めてい

ます。それも良い方向へと。私も騎士団

の一員として、これから警備の巡回に向

かうところなんです」

「っと、長々と悪いな!最後に1つだけ

教えてくれ!これだけは見ていった方が

いいものってあるか?」

「それでしたら、中心部に向かうといい

ですよ。そこに面白いものがありますか

ら」

「そうか!ありがとう!」

つい2週間前まで"ギムラ"と呼ばれた

国があった。その国では国民へ過度の圧

政を強いられ、王とは名ばかりのボンク

ラ息子が大臣の傀儡と化していた。これ

に対して国民達は1日も早く元の生活へ

と戻りたいと常に願い、日々を懸命に生

きていた。そんな中、突如魔王が襲来

し、その体制も終わりを迎える。国を私

物化し、好き勝手にやっていた王族や貴

族は一掃され、それと共に新たな国の体

制が確立されたのだ。

「お、ここが中心部か!ん?何だ、この

石像は」

そして、"ギムラ"は新しく生まれ変わ

り、それを象徴するものとして国の中心

部である"勇魔広場"には計5つの石像

が噴水を囲むようにして建てられた。そ

のうちの1体の石像から名前を拝借し、

今この国はこう呼ばれてい

る…………………異種族共生国家"ネーム

"と。







―――――――――――――――――――――







「おい!こいつらがあの魔王の襲撃を止

めた奴ららしいぞ!」

「知ってるよ。あれだろ?邪神を討ち、

世界を救ったとか言われてる冒険者と一

緒の奴なんだろ?」

「らしいな。いくら俺達があまり他人に

は興味のない魔族、それも冒険者ではな

いとしてもそれぐらいは頭に入ってるか

らな」

「にしてもこんなところまで"ギムラ"

での一件が届いているとは………………こ

りゃあ魔族領全体に知れ渡るのも時間の

問題だな」

「"ギムラ"じゃなく"ネーム"な」

「おう、そうだった。もう新しい国がで

きているんだったな」

「そうだぞ。ちなみに今、かなり話題の

国だから俺は今度行く予定だ」

「マジかよ!ずりぃな!」

「一番の目当てはやっぱり石像…………

それもモロク像だな。魔王の真実を吟遊

詩人から聞いた時から俺は彼女の大ファ

ンだ」

「そうか。俺は彼女のことは正直あまり

好きにはなれんな……………それよりもサ

クヤちゃんの方が気になるな」

「それって勇者じゃねぇか!この裏切り

者!」

「なんだと!」

「ちょっとあんたら!喧嘩なら店の外で

しな!こちとら、いい迷惑だよ!」

"ギムラ"での一件は本や吟遊詩人、観

光客を通じてどんどん魔族領の端から端

まで広がっていった。そこで挙がるキー

ワードは勇者、魔王、英雄、新国家など

など。基本、他者に興味を示さない魔族

であるがどういう訳か、この一件に関し

ては毎度話題に上る程、注目を集めてお

り、彼らの中で確実に何かが変わってい

た。それと同時に彼らは隠された魔王

の真実を知り、冒険者の間でしか轟いて

いなかった"シンヤ・モリタニ"という

名が一般の魔族達にも広く知れ渡ってい

ったのだった。
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