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第13章 魔族領
第294話 魔王の過去
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私が目覚めたのは異様な場所でだった。
そこは周りを石造りの強固な壁が囲い、
様々な物が床に散乱している場所で嫌な
臭いが常に充満しており、とにかく生理
的に受け付けなかった。とにかくそこに
生活感はなかった。私はすぐにでもその
場から離れたくて、出口を探した。する
とその途中で奇妙なものが目に入った。
それは石造りの台座のようなものだっ
た。よく目を凝らしてみると人のような
形をしたものが寝かされているのが分か
った。実際にそれは魔族だった。生きて
いるのか、はたまた死んでいるの
か…………………私には皆目見当が付かな
かったが、とにかく一刻も早くその場所
から逃げ出したかった。そんな中、頭の
方隅に何かが引っかかり、ふと寝かされ
ている魔族の手元を見てみた。すると、
そこには魔道具が握られていた。なんと
そこにいた計7人の魔族全てに1つずつ
魔道具があったのだ。私は何故かその魔
道具がとても気になり、魔力を込めた。
その瞬間、魔道具は禍々しい魔力を放
ち、それと同時にとある記憶が頭の中に
流れ込んできた…………………それはその
魔道具を握っていた魔族の記憶だった。
そして、その記憶を見終わった直後、魔
道具は壊れて粉々になり、私はしばらく
の間、放心状態となった。しかし、いつ
までもそうしている訳にはいかない。私
は残り6つの記憶を見る為に魔道具へと
ひたすら魔力を込めていった。それから
どのくらいの時間が経っただろうか。気
が付くと私は涙を流し、心の中には様々
な感情が渦巻いていた。そして、私はあ
る決意と共にそこを飛び出したのだっ
た。
――――――――――――――――――
「なるほど……………それがお前の過去
か」
「ええ」
シンヤの問いにどこか遠い目をしながら
答えるモロク。その表情にはどこか陰り
が見えた。
「結局、その異様な場所というのは何だ
ったんだ?」
「……………そこは次期魔王達が眠る場所だったそう
よ。どうやら、様々な時代から魔王にな
りうる者達が連れて来られて、あの場所
にずっと眠らされていたみたい。私を含
めてね」
「ということはお前を抜いてあと7人だ
から、3500年先の魔王まで存在する
のか」
「いえ、それはないわ。だって、魔王は
私で最後なんだから………………」
「どういうことだ?」
「……………私がその場所を飛び出す直
前、床に落ちていたとある資料に目がい
ってそれを読んでみたの。そしたら、
色々と分かったことがあるわ。まず、魔
王が500年周期で現れる現象だけど、
あれは意図されてのことだったの。私達
をあの場所へと収容した研究者達は私達
を台座に寝かせ、ある魔法をかけた。そ
の魔法は約500年後に発動され、それ
によってあの場所に眠っている魔王が1
人目を覚ますの」
「今回みたいにそれ以外の者達は目の前
で眠っているという訳か」
「いえ、今回はイレギュラーだったみた
い。なんせ魔王が目覚める時はそこに魔
王以外は何も存在しないの。散乱した書
類も他の次期魔王達も台座も何もかも
が………………ただ強固な壁に囲われた場
所に1人横たわっているだけ」
「?」
「どうやら500年後の魔法が発動する
直前、異空間に全て送られてしまうみた
い。そうして魔法が発動して目覚めた魔
王がその場所を離れた瞬間、異空間に送
られた人や物が全て元通りになる。おそ
らく異空間に500年もの間、置いてお
くのには魔力が圧倒的に足りないからだ
と思うわ。だから、あの書類や魔族達を
見たのは私が初めてなの」
「その書類や魔族達を見られるのは都合
が悪いからってことか」
「きっとそうね」
「仲間に前回の魔王の登場は357年前
だと聞いた。お前がイレギュラーな存在
なのはそういうことか?」
「ええ。本来は500年後に目覚めるは
ずだったのにどういう訳か357年後に私は目覚
めた。そのおかげで異空間への転送が間
に合わず、私は真実を知ることができた
のだけれど」
「つまり、お前は研究者達のかけた魔法
で目覚めた訳ではなく、何か別の要因に
よって目覚めたと?」
「ええ。不思議なこともあるものね」
「……………お前が最後の魔王なのは真実
を知り、研究者達の思い通りにさせたく
ないと思ったからって訳か」
「それももちろんあるわ。でも、一番大
きな理由はそれじゃないの」
「何だ?」
「あの人達……………台座に眠る7人の魔
族達の記憶を見たからよ。あの人達がど
ういった経緯であの場所に連れて来られ
たかを理解した瞬間、私はこんなことは
もう繰り返してはならないと強く思った
の」
「それは"忌魔種"と関係しているの
か?」
「っ!?何故、それを!?」
「風の噂で聞いただけだ」
「そう……………あなたの言った通りよ。
"忌魔種"とは魔族の中でかなり異質な
存在で生まれた時から角が4本もあり、
他の魔族に比べて身体能力・魔力共に非
常に優れていることから、一目でそうだ
と分かるわ。そして、悲しいことに"忌
魔種"は昔から忌むべき種だとして迫害
され、酷い仕打ちを受けてきたの。私も
随分と惨いことをされてきたわ。死にか
けたことなんて数え切れないくらいよ。
当然、私以外の7人もそういう扱いを受
けて、最終的に研究者達の手に渡った
の」
「………………」
「もしも私が研究者達の思惑通りに目覚
めていたら、こうはなっていなかったと
思うわ。だって本来は周りに何もなかっ
たはずなんだから。でも、イレギュラー
が起きて私は途中で目覚め、真実を彼ら
の想いを知ってしまった。だったら、今
後は私以外の魔族達をこんな目には遭わ
せたくない……………魔王なんて存在はな
くなるべきなのよ」
「……………お前が各地を訪れて魔族達を
襲撃していたのは」
「7人がされたことの復讐よ。私が今ま
でに襲撃したのは7人に対して人道から
逸れた行為を平然と行い、迫害を繰り返
していた魔族達の末裔。もちろん、今の
時代の人達に罪はないわ。でも、その人
達の村や街が私達"忌魔種"を追い出し
た上で成り立っているものだとしたらと
考えるとどうにも許せそうになく
て………………それとこれは言い訳になっ
てしまうのだけれど、7人分の記憶を頭
に入れたことで同時に彼らの感情も流れ
込んできたの。そして、それは彼らに縁
のある地へと赴く度、強くなって語りか
けてくるの………………あの者達を殺せ。
あの者達は自分を死の淵へと追い込んだ
者の末裔。決して許してはならない
と……………それほどの怨嗟を彼らは抱え
ていたわ」
「………………」
「でも、彼らは全てが終わった後、必ず
後悔していたわ。"一体なんてことをし
てしまったんだ"。それと私に対して"
手を汚させてしまってすまない"っ
て………………」
「だが、溢れた水はもう元には還らな
い」
「ええ、分かっているわ。それと私は彼
らを責める気にはなれない。だって、ど
んな理由であれ実行したのは私だもの。
もしかしたら、従わないで無視すること
もできたかもしれない。だから、悪いの
は全部私なのよ」
モロクは俯きながら、ゆっくりと言葉を
紡いでいった。その様は触れれば今にも
壊れてしまいそうな程だった。
「ちなみに台座に寝かされていた魔族達
はその後、どうなったんだ?そいつらの
感情や意志はお前の中にいることは分か
ったが身体がどうなったかは聞いてない
からな」
「………………魔道具が粉々になった直
後、彼らの身体もまた粒子となって崩れ
ていったわ」
「まさか、魔道具とそいつらの命が紐付
けされていたのか?」
「そうみたい。だから、私の行動は罪滅
ぼしも兼ねていたのよ。ちなみに彼らの
感情や意志は既にもう私の中にないわ。
この国に入った直後に完全に消えてしま
ったから」
「なるほど」
モロクの言葉を聞いたシンヤは何事かを
考え込み、しばし目を瞑った。そして数
秒後、目を見開いたシンヤは不敵な笑み
を浮かべて、こう言った。
「………………とのことだ、ギムラの国の
民よ」
シンヤが見つめるその先には映像の魔道
具を持ったイヴが立っていたのだった。
そこは周りを石造りの強固な壁が囲い、
様々な物が床に散乱している場所で嫌な
臭いが常に充満しており、とにかく生理
的に受け付けなかった。とにかくそこに
生活感はなかった。私はすぐにでもその
場から離れたくて、出口を探した。する
とその途中で奇妙なものが目に入った。
それは石造りの台座のようなものだっ
た。よく目を凝らしてみると人のような
形をしたものが寝かされているのが分か
った。実際にそれは魔族だった。生きて
いるのか、はたまた死んでいるの
か…………………私には皆目見当が付かな
かったが、とにかく一刻も早くその場所
から逃げ出したかった。そんな中、頭の
方隅に何かが引っかかり、ふと寝かされ
ている魔族の手元を見てみた。すると、
そこには魔道具が握られていた。なんと
そこにいた計7人の魔族全てに1つずつ
魔道具があったのだ。私は何故かその魔
道具がとても気になり、魔力を込めた。
その瞬間、魔道具は禍々しい魔力を放
ち、それと同時にとある記憶が頭の中に
流れ込んできた…………………それはその
魔道具を握っていた魔族の記憶だった。
そして、その記憶を見終わった直後、魔
道具は壊れて粉々になり、私はしばらく
の間、放心状態となった。しかし、いつ
までもそうしている訳にはいかない。私
は残り6つの記憶を見る為に魔道具へと
ひたすら魔力を込めていった。それから
どのくらいの時間が経っただろうか。気
が付くと私は涙を流し、心の中には様々
な感情が渦巻いていた。そして、私はあ
る決意と共にそこを飛び出したのだっ
た。
――――――――――――――――――
「なるほど……………それがお前の過去
か」
「ええ」
シンヤの問いにどこか遠い目をしながら
答えるモロク。その表情にはどこか陰り
が見えた。
「結局、その異様な場所というのは何だ
ったんだ?」
「……………そこは次期魔王達が眠る場所だったそう
よ。どうやら、様々な時代から魔王にな
りうる者達が連れて来られて、あの場所
にずっと眠らされていたみたい。私を含
めてね」
「ということはお前を抜いてあと7人だ
から、3500年先の魔王まで存在する
のか」
「いえ、それはないわ。だって、魔王は
私で最後なんだから………………」
「どういうことだ?」
「……………私がその場所を飛び出す直
前、床に落ちていたとある資料に目がい
ってそれを読んでみたの。そしたら、
色々と分かったことがあるわ。まず、魔
王が500年周期で現れる現象だけど、
あれは意図されてのことだったの。私達
をあの場所へと収容した研究者達は私達
を台座に寝かせ、ある魔法をかけた。そ
の魔法は約500年後に発動され、それ
によってあの場所に眠っている魔王が1
人目を覚ますの」
「今回みたいにそれ以外の者達は目の前
で眠っているという訳か」
「いえ、今回はイレギュラーだったみた
い。なんせ魔王が目覚める時はそこに魔
王以外は何も存在しないの。散乱した書
類も他の次期魔王達も台座も何もかも
が………………ただ強固な壁に囲われた場
所に1人横たわっているだけ」
「?」
「どうやら500年後の魔法が発動する
直前、異空間に全て送られてしまうみた
い。そうして魔法が発動して目覚めた魔
王がその場所を離れた瞬間、異空間に送
られた人や物が全て元通りになる。おそ
らく異空間に500年もの間、置いてお
くのには魔力が圧倒的に足りないからだ
と思うわ。だから、あの書類や魔族達を
見たのは私が初めてなの」
「その書類や魔族達を見られるのは都合
が悪いからってことか」
「きっとそうね」
「仲間に前回の魔王の登場は357年前
だと聞いた。お前がイレギュラーな存在
なのはそういうことか?」
「ええ。本来は500年後に目覚めるは
ずだったのにどういう訳か357年後に私は目覚
めた。そのおかげで異空間への転送が間
に合わず、私は真実を知ることができた
のだけれど」
「つまり、お前は研究者達のかけた魔法
で目覚めた訳ではなく、何か別の要因に
よって目覚めたと?」
「ええ。不思議なこともあるものね」
「……………お前が最後の魔王なのは真実
を知り、研究者達の思い通りにさせたく
ないと思ったからって訳か」
「それももちろんあるわ。でも、一番大
きな理由はそれじゃないの」
「何だ?」
「あの人達……………台座に眠る7人の魔
族達の記憶を見たからよ。あの人達がど
ういった経緯であの場所に連れて来られ
たかを理解した瞬間、私はこんなことは
もう繰り返してはならないと強く思った
の」
「それは"忌魔種"と関係しているの
か?」
「っ!?何故、それを!?」
「風の噂で聞いただけだ」
「そう……………あなたの言った通りよ。
"忌魔種"とは魔族の中でかなり異質な
存在で生まれた時から角が4本もあり、
他の魔族に比べて身体能力・魔力共に非
常に優れていることから、一目でそうだ
と分かるわ。そして、悲しいことに"忌
魔種"は昔から忌むべき種だとして迫害
され、酷い仕打ちを受けてきたの。私も
随分と惨いことをされてきたわ。死にか
けたことなんて数え切れないくらいよ。
当然、私以外の7人もそういう扱いを受
けて、最終的に研究者達の手に渡った
の」
「………………」
「もしも私が研究者達の思惑通りに目覚
めていたら、こうはなっていなかったと
思うわ。だって本来は周りに何もなかっ
たはずなんだから。でも、イレギュラー
が起きて私は途中で目覚め、真実を彼ら
の想いを知ってしまった。だったら、今
後は私以外の魔族達をこんな目には遭わ
せたくない……………魔王なんて存在はな
くなるべきなのよ」
「……………お前が各地を訪れて魔族達を
襲撃していたのは」
「7人がされたことの復讐よ。私が今ま
でに襲撃したのは7人に対して人道から
逸れた行為を平然と行い、迫害を繰り返
していた魔族達の末裔。もちろん、今の
時代の人達に罪はないわ。でも、その人
達の村や街が私達"忌魔種"を追い出し
た上で成り立っているものだとしたらと
考えるとどうにも許せそうになく
て………………それとこれは言い訳になっ
てしまうのだけれど、7人分の記憶を頭
に入れたことで同時に彼らの感情も流れ
込んできたの。そして、それは彼らに縁
のある地へと赴く度、強くなって語りか
けてくるの………………あの者達を殺せ。
あの者達は自分を死の淵へと追い込んだ
者の末裔。決して許してはならない
と……………それほどの怨嗟を彼らは抱え
ていたわ」
「………………」
「でも、彼らは全てが終わった後、必ず
後悔していたわ。"一体なんてことをし
てしまったんだ"。それと私に対して"
手を汚させてしまってすまない"っ
て………………」
「だが、溢れた水はもう元には還らな
い」
「ええ、分かっているわ。それと私は彼
らを責める気にはなれない。だって、ど
んな理由であれ実行したのは私だもの。
もしかしたら、従わないで無視すること
もできたかもしれない。だから、悪いの
は全部私なのよ」
モロクは俯きながら、ゆっくりと言葉を
紡いでいった。その様は触れれば今にも
壊れてしまいそうな程だった。
「ちなみに台座に寝かされていた魔族達
はその後、どうなったんだ?そいつらの
感情や意志はお前の中にいることは分か
ったが身体がどうなったかは聞いてない
からな」
「………………魔道具が粉々になった直
後、彼らの身体もまた粒子となって崩れ
ていったわ」
「まさか、魔道具とそいつらの命が紐付
けされていたのか?」
「そうみたい。だから、私の行動は罪滅
ぼしも兼ねていたのよ。ちなみに彼らの
感情や意志は既にもう私の中にないわ。
この国に入った直後に完全に消えてしま
ったから」
「なるほど」
モロクの言葉を聞いたシンヤは何事かを
考え込み、しばし目を瞑った。そして数
秒後、目を見開いたシンヤは不敵な笑み
を浮かべて、こう言った。
「………………とのことだ、ギムラの国の
民よ」
シンヤが見つめるその先には映像の魔道
具を持ったイヴが立っていたのだった。
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