俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第283話 ギムラ

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「ん?騒がしいな。一体何なんだ?」

アドム・クリプト王は忙しなく動き回る

兵士達を見て、眉を顰める。最近は考え

事が多くて非常にピリピリしていた為、

ちょっとしたことが癪に障る彼はただ黙

って、その様子を見過ごすことができな

かったのだ。すると、それを見た大臣は

すかさず近くにいた兵士を呼び止めて事

情を聞いた。

「…………何っ!?それは誠か!?」

「はい。入門審査を担当している者に聞

いたので間違いはないかと」

「ちょっと!コソコソと話していないで

私達にも聞かせてちょうだい!」

突然、アドムのそばから聞こえた声は彼  

の母であるイヤーシィのものだった。彼

女は何をそんなに焦っているのか、わた 

わたとしながら大臣を縋るような目で見

つめていた。

「落ち着いて下され。そう焦らずともす

ぐにお伝え致します」

「そ、そう。なら、いいわ」

「母上、どうしたのです?今日はいつに

もまして情緒が不安定ですが」

「何か嫌な胸騒ぎがするの

よ…………………私達のこの平和な日々が

突然、何かに壊されてしまうよう

な………………そんな気がするの」

「それは本当ですか?母上の嫌な予感は

やけに当たるから怖いんだが」

「イヤーシィ様、アドム様、ご安心下さ

い。御二方のご心配は杞憂にございま

す」

「へ?そ、それは本当なの?」

「ん?どういうことだ?」

「実は長い間、消息を絶たれていたあの

御方が先程とうとうギムラにお帰りにな

られたとのことです」

「あの御方?」

「それは一体誰なんだ?」

「御二方の大切なもう1人のご家族であ

らせられる…………………イヴ様にござい

ます」







――――――――――――――――――







「っ!?今、軽く背筋がゾクっとしたん

じゃが」

「ん?今頃、城で奴ら・・がお前

について話し合っているんじゃない

か?」

「そうかのぅ?」

「少なくともお前がこの国にいることは

耳に入っているはずだ。お前の正体が分

かった時のあの入門審査官の慌てようと

急いでどこかに行く様子を見たら、その

後の展開が容易に想像つくしな」

「えっ!?師匠!それはつまり、僕達の

潜入がバレているってことですか!?」

「ちょっと馬鹿シャウ!アンタ、少しは

静かに話せないの?」

「ふぇ~す、すみませんローズさ

ん~!」

「シャウに関してはウチもお手上げアル

ね」

「駄目だこりゃ」

ローズに叱られたシャウロフスキーを見

ながら、諦めた表情をするバイラとアゲ

ハ。現在、シンヤ達はギムラにある冒険

者ギルドにおり、道中で狩った魔物の中

で討伐依頼が出ているものを中心に買い

取りをしてもらっていた。

「おい、あれ」

「ああ、間違いねぇ。奴ら、人族領にい

たはずだが、こんなとこまで一体何の用

なんだ?」

「すげぇ、本物だ。初めて見た」

「それよりも奴らから出てくる魔物がや

ばすぎる。ドラゴンゾンビにボーンキン

グ、キメラナイト、マンティコ

ア………………どれも討伐依頼でいったら

Sランク以上だぞ………………って、"暗黒ブラック王竜キングドラゴン"!?あの幽閉山の主まで出てく

るって一体どうなってやがんだ!?」

「まぁ、奴らのランクでいえば当然だろ

うな。見てみろ。奴ら、一切の隙がね

ぇ。逆になさすぎて、じっと見ていると

隙だらけにも見えてくる程だ。まぁ、と

にかく噂は本当だったってことだな」

「いいや!俺は信じねぇぞ!聞けば、幹

部に魔族はたった1人。リーダーに至っ

ては種族の中で最も弱い人族だっていう

じゃねぇか!たかだか魔族でもねぇ奴ら

があの邪神を倒せるとは到底思えねぇ」

「お前の気持ちは分かったけど

よ……………だから、何だってんだよ」

「つまり、許せねぇってことだ!今か

ら、奴らに俺達魔族の強さを分からせて

くるぜ!」

「頼むからやめてくれ。お前1人のせい

で魔族全体の品格が下がっちまう」

「はぁ?まさかとは思うがあんな奴らに

俺が負けるとでも思っているのか?」

「さっきチラッと見えたんだが、あそこ

にいる"黒締"のギルドカードは見たこ

ともない色をしていた。おそらく、あれ

が世界初といわれるEXランクの証なん

だろう」

「だから、何だよ」

「はぁ……………お前は何も分かってねぇ

のな。つまり、ランクや強さに関しての

噂は本当であそこにはSSランク以上の

奴らしかいないってことだ………………な

んかよく分からん奴が2人程混じってい

るが」

「ふんっ。そんなことぐらい知ってる

わ!どれも記事や魔道具で見た顔ばかり

だしな。だが、それでも俺は信じられね

ぇのよ。魔族でもねぇのに世界を救った

だと?寝言は寝て言え」

「確かに純粋な種族ごとの強さでいくと

魔族はトップだ。だが、その前に魔族は

基本的に自分を最優先にする。強さ云々

の前に誰かの為に何かをすることなんて

少ないだろ。ましてや世界を救うなんて

俺達魔族が考えたと思うか?」

「うるせぇ!正論はいいんだよ!とにか

く、俺は納得がいかねぇ!止めるな

よ?」

「あ~あ、こりゃ知らねぇぞ………………

瞬殺されたな」

「おいおい、それはもちろんあいつらの

ことだよな?」

「どれだけ幸せな脳みそしてるんだよ。

まぁ、俺はお前がどうなろうと知ったこ

とではないがな…………………なんせ魔族

は自分が最優先だ」







――――――――――――――――――






「あ、アドム様っ!た、大変です!」

王の間の扉を勢いよく開き、1人の兵士

が駆け込んでくる。あまりに突然のこと

に中にいたアドム、イヤーシィ、大臣の

3人は驚き、その他の貴族達は鋭い目を

兵士へと注いだ。

「無礼者!王の間にノックもしないで駆

け込んでくるとは何事だ!」

「教育係はどこにいる!」

「全く、これだから平民は…………」

それぞれが思い思いに発言する中、兵士

はそれにも構っていられないほど焦って

いるのか、汗をダラダラと流しながらア

ドムへ向けて言葉を発する。

「緊急事態につき、無礼をお許し下さ

い。取り急ぎお伝えしなければならない

ことがございます」

「一体どうしたというんだ、そんなに焦

って」

「もしかして、伝えなければならないこ

とって"イヴ"のこと?それならば、1

時間以上前に既に聞いているわよ?」

「イヤーシィ様、全くその通りでござい

ます。全く、いきなりやって来たから何

かと思えば……………」

兵士の言葉にアドム、イヤーシィ、大臣

はそれぞれ反応を返す。すると兵士は何

の話をしているのか分からなかったの

か、不思議そうな顔をしつつ、一旦冷静

になろうと深呼吸をしてから、再び口を

開いた。

「お伝えしたいことというのは他でもあ

りません」

その場の皆が見守る中、兵士は確実に伝

わるようにゆっくりとかつしっかりと言

葉を紡いでいった。



「たった今、魔王が………………ここギム

ラにやって来ました」
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