俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第282話 魔剣

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「着いたな」

「はぁ、はぁ、はぁ…………はい」

「ここがそうか」

シンヤの呟きにシャウロフスキーとネー

ムが反応を返す。現在、シンヤ達は幽閉

山の頂上にいた。あの後、入り口から寄

り道をすることなく、出てきた魔物をひ

たすら倒しながら、走り続けたシンヤ達

は約2時間程で頂上へと辿り着いてい

た。とはいってもシャウロフスキーに合

わせた速度で進んでいた為、シンヤ達に

とってはかなりゆっくりになってしまっ

たのだが、その分の見返りはちゃんとあ

った為、全くの無駄という訳ではなかっ

た。

「ち、ちょっとは休ませて下さい

よ…………」

「何を言ってる。お前、"魔王"を倒す

とか勝手に抜かしたんだろ?だったら、

このぐらいは乗り越えなきゃな」

「それにしたって滅茶苦茶ですよ!常に

全速力で走らされ、さらに疲れたら魔法

で強制回復されて、また全速力。本来、

山なんてゆっくりと時間をかけて登るも

んです。マラソンだって普通はしないの

にましてや全速力なんて……………そんな

ことを繰り返してたら、身体が壊れてし

まいます」

「どこからどう見たって壊れてないぞ。

それにそれだけ話せるなら大丈夫だ」

「それは皆さんが常に回復してくれてい

るからですよ!なんか途中から面白がっ

て、必要ないのに回復してくれているこ

ともありましたが」

「それだけ俺達はお前に比べると余裕が

あるってことだ。これに懲りたら文句を

言わず、ちゃんと精進するんだな」

「はぁ、分かりました。どうせ、僕はこ

の中じゃ下の下ですよ………………でも、

まさか巨人族であるヒュージさんまでも

があんなに余裕そうに走るとは思いませ

んでしたよ。あとリームさんも心なしか

幽閉山に馴染んでいる気がしましたし」

「あのぐらいできなきゃ、この中ではや

っていけやせんよ。お前さんもいずれこ

の域に到達する日がきやすよ」

「アタクシも魔族だから、やっぱり魔族

領の土地は過ごしやすいのかしら~」

「ひぇ~なんかお二方とも凄いです

ね…………あっ、そういえば、ドルツさ

んの短剣捌きも見事でした。なんかのシ

ョーみたいで。あとローズさんは何故、

杖で魔物を殴ってたんですか?」

「暇な時は短剣を弄ってるからな。そり

ゃ上手くもなるわな」

「え?杖って殴る武器でしょ?」

「やばい。この人達、凄いんだけど、や

っぱりどこかおかしい」

「シャウ、そろそろ現実逃避は終わり

だ。この先に進めば魔剣が眠る祭壇があ

る」

「は、はいっ!!」

シンヤの一言によって気を引き締め直し

たシャウロフスキーは再び動き出したシ

ンヤ達に置いていかれないよう、踏み出

した足にぐっと力を込めた。











「っと、ここが祭壇か」

魔剣を目指して進むシンヤ達の目の前に

突然、祭壇のようなものが現れたことで

彼らは思わず立ち止まった。見れば数1

0段の階段が続き、その先には何か文字

のようなものが刻まれた大きな石造りの

台座がある。その傍らには魔物の骨のよ

うなものが散乱し、左右に仄暗い炎を灯

した篝火が立ててあった。そして、台座

にはちょうど剣のようなものが刺さる窪

みがあり、そこに肝心の魔剣

が………………

「ないな」

「え~~~~~!?ぼ、僕の魔剣

が~~~!?」

「うるさい。まだお前のじゃないだろ」

「妙だな」

騒ぎ立てるシャウロフスキーを尻目に1

人考え込むネーム。一方のシンヤ達はこ

うなった理由におおよその見当が付いて

いる為、特に騒いだり考え込んだりはし

なかった。

「ティア、サラ………………やっぱりアレ

だよな?」

「ですね。そうとしか考えられません」

「まぁ、でも致し方ないですわ。この世
は何でも早い者勝ち・・・・・ですもの」

さりげなく3人で意味深な会話が繰り広

げられているのを聞き逃さなかったシャ

ウロフスキーは騒ぐのを止め、思い切っ

て質問した。

「師匠!アレって何ですか?どうして僕

の魔剣がないんですか?」

「……………刺さっているはずのものがな

い。となれば、答えは1つだ」

「ど、どういうことですか?」

「誰かが既に引き抜いてしまったってこ

とだ」

「っ!?そ、そんなっ!?どうして!?

魔剣は僕が手に入れるはずだったの

に!」

「はぁ…………お前は常にギャアギャア

うるさいな。少しは落ち着いていられな

いのか」

「で、でもっ!だって!」

「忘れたのか?俺達よりも前にここを目

指していた者がいたことを」

「………………あっ!幽閉山の入り口で出

会った少女の両親!」

「そうだ。ここに来るまでに彼らには出

会っていない。であれば、既に祭壇へと

辿り着いていてもおかしくはないんだ。

そして、俺達以外の奇妙な気配

が……………あそこにある」

シンヤが指を差した先。それは祭壇の傍

らに散らばる骨のすぐそばだった。しか

し、どこからどう見ても人や魔物がいる

訳でもなく、ましてや何かの生命反応な

どを確認できる訳でもない。ぱっと見は

何もない空間であった。

「"次元斬り"」

ところが、シンヤはそこに向かって刀を

抜刀し斬りつけた。すると何もなかった

はずの空間に裂け目が生じ、10秒も経

たない内にそこから何者かが転がり落ち

てきた。

「え~~~!?」

「ど、どういうことだ!?」

シャウロフスキーとネームが驚く中、た

った今落ちてきた人物は痛みに呻きなが

ら立ち上がった。

「ぐっ…………なかなか手荒なことをす

る」

「でも、おかげで助かったわ」

それは2人組みの魔族の男女だった。し

かもどことなく入り口で出会った少女に

似ている。2人は酷く衰弱している様子

で顔には疲れが表れ、傍から見ても心身

共に疲弊していることが分かった。

「お前達には聞きたいことがある………………"神浄ゴッド・ヒール"」

「こ、これはっ!?」

「身体や心の疲れがなくなっていく

わ!」

「これで少しはまともな会話ができそう

だな」

「あ、ありがとう見知らぬ御仁よ!まさ

か、あの空間から解放してくれるだけで

なく、こんなことまでしてくれるとは」

「本当にありがとう!」

「礼はいいから、まずは俺の質問に答え

ろ。お前達はここにあった魔剣を求めて 

やってきたんだな?」

「ああ、そうだ」

「事情があってね」

「ではもう既に引き抜いてしまったとい

うことか?にしてはどこにも見当たらないが」

「いいや。実は俺達が来た時には既に魔

剣はここにはなかったんだ。どうやら誰

かに先を越されていたらしい」

「それで途方に暮れてしまって……………

そんな時、たまたま魔剣が刺さっていた

窪みに手を触れたら、謎の空間に閉じ込

められてしまったのよ」

「なるほど」

「そ、そんなぁ~~」

シャウロフスキーが落胆する中、話を聞

いたシンヤ達は考え込んでいた。

「一体誰が……………」

誰からともなく発せられた小さな呟きは

しかし、突然吹いた風によって掻き消さ

れ、どこへともなく飛んでいってしまっ

たのだった。







――――――――――――――――――






「足りない……………」

月が淡く辺りを照らす頃。とある街の中

心に1人の魔族が立っていた。頭に計4

本の角が生えており、両目は紅く、妖し

げに笑う口元には鋭い歯が覗いている。

蒼く伸びた長髪を風に靡かせ、真紅に染

まったコートのような衣装を纏った彼女

は月光によって非常に映えており、今い
る場所がゴーストタウン・・・・・・・でなければ多くの者達の視線を釘付けにしていたことだろう。

「まだ足りないわ…………」

彼女は同じ言葉を繰り返し呟くとゆった

りとした足取りで街を後にする。その手

には黒く禍々しい魔力を放つ剣が握られ

ていたのだった。
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