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第13章 魔族領
第275話 アニキ
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「数々の無礼、大変申し訳ございません
でした!!」
それはラミュラの婚約者との決闘を終え
たその日の夜のことだった。ラミュラと
モールの帰還祝い、それから俺達の歓迎
会を兼ねて開かれた宴が終盤に差し掛か
ろうかという時、俺は突然そう声を掛け
られたのだ。声の主を見てみるとどうや
ら件の婚約者の男のようだった。男はま
るで憑き物が取れたかのように晴れやか
な表情をしており、どこか誠意すら感じ
られる。加えて敬語と共に深く頭を下げ
られたことから、数時間前とは打って変
わった男の様子に俺は驚きを禁じ得ず、
思わず気になって訊いてみた。
「お前……………一体どういうつもり
だ?」
「えっ!?どういうつもりって、どうい
うことですか?」
「何を驚いた顔をしているんだ。明らか
に様子が変だろ。つい数時間前まで俺に
対して、そんな態度をしていなかったは
ずだ。あと何故か敬語にもなっているし
な」
「…………ああ~っ、何だ。そんなこと
ですか」
「そんなこと?」
「やだな~。あれは世間のことを何も知
らなかった数時間前の俺ですよ」
「は?」
「いや~、本当にあの時の俺はただの世
間知らずの子供でしたね。今思えば何て
狭い価値観、それから狭い世界で生きて
いたのか。いや~お恥ずかしい限りで
す」
「……………」
「ですがね、俺はアニキと戦ったことで
分かったんですよ!世界は広いってね!
こんな狭くて小さな里の中なんかじゃ、
到底見れない景色が外には広がっている
ってね!」
「……………アニキ?」
「アニキのあの斬撃を受けた瞬間、身体
中をとてつもない衝撃が駆け抜けたんで
す!いや~本当にありがとうございま
す!俺はアニキと出会えたことで大きく
変わりました!それから、失礼な態度を
取って、本当にすみませんでした!」
「いや、所々気になる箇所があって話が
あんま入ってこないからな?」
「流石はアニキ!俺の稚拙な言葉を全て
理解した上でもう疑問点を洗い出したん
ですか!?流石は気付きの鬼!全く、こ
の人には敵わねぇ~な」
「勝手に納得して自己完結するな。大
体、"アニキ"って何だ?」
「何を言っているんですか!俺を大きく
変えてくれた存在!そんなのアニキとし
か呼べないじゃないですか!よっ、世界
のアニキ!」
「あまり大声で叫ぶな。みっともないだ
ろ」
「アニキ…………こんなどうしようもな
い俺の為にそこまで……………まさか、大
声じゃなくても聞こえる距離で話せだな
んて」
「ダメだ、こいつ」
「ぐわっはっはっは。楽しそうにやって
いるな」
「お前の目は節穴か。これのどこが楽し
そうなんだ」
「あっ、里長!さっきぶりです!」
「おおっ!目を覚ましたか。どうだ?ど
こかまだ痛むところはないか?」
「そんなのある訳ないじゃないですか!
なんせ、アニキの一撃ですよ?ちゃんと
俺の身体のことを考えて、軽傷で済むよ
うにしてくれてますから!」
「いや?あれは適当に放った一撃だぞ?
それでも相当抑えはしたが、お前のこと
なんて1ミリも考えてはいない」
「へっ?じゃあ、なんで威力を抑えたん
ですか?」
「他の者や住居に被害が出るからだ。そ
れらに罪はないからな」
「流石はアニキ!心が広い!……………あ
れ?でも、そうなるとおかしいな。アニ
キは俺の身体を気遣った訳じゃないんで
すよね?じゃあ、何故俺はこうしてピン
ピンしているんですか?」
「あれじゃないか?そのうざったい程の
ポジティブさで痛みも感じないんじゃな
いか?あとついでに俺がお前に抱く嫌悪
感もな」
「そうなんですか!?それは凄いです
ね!……………あれ?何か今、サラッとと
んでもないこと言いませんでした?」
「はぁ。何なんだ、こいつは」
「ぐわっはっはっは。愉快愉快!!」
「里長!何がそんなにおかしいんです
か!」
「教えて欲しいか?だが、その前
に……………"狭くて小さな里なんか"で
悪かったな」
「ひえ~!?き、聞いてたんですか!?
ち、違うんです!それはつい口か
ら…………」
「は?お前、まさかそれだけ反省の弁を
述べておいて俺に出まかせを言ったんじ
ゃないだろうな?」
「ア、アニキ!?い、いえ!?そんな滅
相もない!そんな嘘なんて………」
「ん?つまり、本当のことだと?」
「ちょっ!?2人共、勘弁して下さい
よ!」
「ふっ」
「ぐわっはっはっは。冗談だ」
「あっ、酷いですよ?俺のこと、からか
ってたんですね!」
こうして他愛のない話が繰り広げられな
がら、夜は更けていく。そして、一夜明
けた次の日……………俺達は皆に惜しまれ
ながらもドラゴーラを後にした。ちなみ
に余談だが、ラミュラの元婚約者リスク
は最後の最後まで俺達の旅に同行しよう
とちゃっかり荷物まで準備して頼み込ん
できたのだが、もちろん面倒臭い為拒否
し続け、その後は絶対に追いついてこれ
ない速度で車を発進させたのだった。
でした!!」
それはラミュラの婚約者との決闘を終え
たその日の夜のことだった。ラミュラと
モールの帰還祝い、それから俺達の歓迎
会を兼ねて開かれた宴が終盤に差し掛か
ろうかという時、俺は突然そう声を掛け
られたのだ。声の主を見てみるとどうや
ら件の婚約者の男のようだった。男はま
るで憑き物が取れたかのように晴れやか
な表情をしており、どこか誠意すら感じ
られる。加えて敬語と共に深く頭を下げ
られたことから、数時間前とは打って変
わった男の様子に俺は驚きを禁じ得ず、
思わず気になって訊いてみた。
「お前……………一体どういうつもり
だ?」
「えっ!?どういうつもりって、どうい
うことですか?」
「何を驚いた顔をしているんだ。明らか
に様子が変だろ。つい数時間前まで俺に
対して、そんな態度をしていなかったは
ずだ。あと何故か敬語にもなっているし
な」
「…………ああ~っ、何だ。そんなこと
ですか」
「そんなこと?」
「やだな~。あれは世間のことを何も知
らなかった数時間前の俺ですよ」
「は?」
「いや~、本当にあの時の俺はただの世
間知らずの子供でしたね。今思えば何て
狭い価値観、それから狭い世界で生きて
いたのか。いや~お恥ずかしい限りで
す」
「……………」
「ですがね、俺はアニキと戦ったことで
分かったんですよ!世界は広いってね!
こんな狭くて小さな里の中なんかじゃ、
到底見れない景色が外には広がっている
ってね!」
「……………アニキ?」
「アニキのあの斬撃を受けた瞬間、身体
中をとてつもない衝撃が駆け抜けたんで
す!いや~本当にありがとうございま
す!俺はアニキと出会えたことで大きく
変わりました!それから、失礼な態度を
取って、本当にすみませんでした!」
「いや、所々気になる箇所があって話が
あんま入ってこないからな?」
「流石はアニキ!俺の稚拙な言葉を全て
理解した上でもう疑問点を洗い出したん
ですか!?流石は気付きの鬼!全く、こ
の人には敵わねぇ~な」
「勝手に納得して自己完結するな。大
体、"アニキ"って何だ?」
「何を言っているんですか!俺を大きく
変えてくれた存在!そんなのアニキとし
か呼べないじゃないですか!よっ、世界
のアニキ!」
「あまり大声で叫ぶな。みっともないだ
ろ」
「アニキ…………こんなどうしようもな
い俺の為にそこまで……………まさか、大
声じゃなくても聞こえる距離で話せだな
んて」
「ダメだ、こいつ」
「ぐわっはっはっは。楽しそうにやって
いるな」
「お前の目は節穴か。これのどこが楽し
そうなんだ」
「あっ、里長!さっきぶりです!」
「おおっ!目を覚ましたか。どうだ?ど
こかまだ痛むところはないか?」
「そんなのある訳ないじゃないですか!
なんせ、アニキの一撃ですよ?ちゃんと
俺の身体のことを考えて、軽傷で済むよ
うにしてくれてますから!」
「いや?あれは適当に放った一撃だぞ?
それでも相当抑えはしたが、お前のこと
なんて1ミリも考えてはいない」
「へっ?じゃあ、なんで威力を抑えたん
ですか?」
「他の者や住居に被害が出るからだ。そ
れらに罪はないからな」
「流石はアニキ!心が広い!……………あ
れ?でも、そうなるとおかしいな。アニ
キは俺の身体を気遣った訳じゃないんで
すよね?じゃあ、何故俺はこうしてピン
ピンしているんですか?」
「あれじゃないか?そのうざったい程の
ポジティブさで痛みも感じないんじゃな
いか?あとついでに俺がお前に抱く嫌悪
感もな」
「そうなんですか!?それは凄いです
ね!……………あれ?何か今、サラッとと
んでもないこと言いませんでした?」
「はぁ。何なんだ、こいつは」
「ぐわっはっはっは。愉快愉快!!」
「里長!何がそんなにおかしいんです
か!」
「教えて欲しいか?だが、その前
に……………"狭くて小さな里なんか"で
悪かったな」
「ひえ~!?き、聞いてたんですか!?
ち、違うんです!それはつい口か
ら…………」
「は?お前、まさかそれだけ反省の弁を
述べておいて俺に出まかせを言ったんじ
ゃないだろうな?」
「ア、アニキ!?い、いえ!?そんな滅
相もない!そんな嘘なんて………」
「ん?つまり、本当のことだと?」
「ちょっ!?2人共、勘弁して下さい
よ!」
「ふっ」
「ぐわっはっはっは。冗談だ」
「あっ、酷いですよ?俺のこと、からか
ってたんですね!」
こうして他愛のない話が繰り広げられな
がら、夜は更けていく。そして、一夜明
けた次の日……………俺達は皆に惜しまれ
ながらもドラゴーラを後にした。ちなみ
に余談だが、ラミュラの元婚約者リスク
は最後の最後まで俺達の旅に同行しよう
とちゃっかり荷物まで準備して頼み込ん
できたのだが、もちろん面倒臭い為拒否
し続け、その後は絶対に追いついてこれ
ない速度で車を発進させたのだった。
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