俺は善人にはなれない

気衒い

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第13章 魔族領

第270話 顔見知り

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「なるほどな。お前はイヴの顔見知りだ

ったって訳か」

シンヤが目の前に座る白髪の少女へと向

かって言った。現在、応接室にはシン

ヤ・ティア・サラ・カグヤ・イヴ、そし

て奇抜な服装の少女の計6名がおり、な

かなかの緊張感が漂っていた。ことの発

端はカグヤがクランハウスをコソコソと

覗く怪しい人物を捕らえたところから始

まった。なんとその人物がイヴの知った

顔であったことから、何故そんな怪しい

行動を取っていたのか、その理由を聞い

てみようということになり、応接室へと

向かったのだ。そこにシンヤとサラが後

から合流し、たった今少女からおおよそ

の事情を聞き終えたばかりなのであっ

た。

「ただの顔見知りではない!私はイヴ様

の最も側にいたお世話係、ネームだ!イ  

ヴ様を心身共に支え、またイヴ様と同じ

時間を過ごしていた私も支えら

れ…………いわばお互いが支え合ってい

た関係だ!私達には切っても切れぬ信頼

関係があったんだ!そんな薄っぺらい関

係ではない!」

「側にいた・・。過去形だな?支

え合っていたというのなら、イヴが苦し

んでいた時もお前はしっかりと支えてい

たのか?」

「っ!?そ、それは…………」

「お互いを必要としていたのなら、イヴ

が母親に奴隷として売り払われた時、お

前は一体何をしていたんだ?どうして救

えなかったんだ?」

「……………」

「もしイヴが居なくなったことにすぐ気

が付かなかったとしても追いかけること  

はできた筈だ。たとえ行方が分からなく

なったとしてもそんなに信頼関係で結ば

れているのなら、どんな手を使ってでも

探し出す筈だ。だが、お前はそれすらし

なかった」

「わ、私はちゃんと…………」

「いくら情報収集や聞き込みをしていた

と言ってもそんなのは言い訳に過ぎな

い。イヴがお前の側から居なくなって、

どれだけ経っていると思っているんだ?

それだけの月日があれば、どんな危険な

目に遭っていたって不思議じゃない。仮

にイヴが命を落としてしまっていたとし

てもお前は胸を張って、先程のような戯

言を吐けるのか?」

「うっ…………そ、そんなこと言われて

も……………わ、私は……………うう

っ…………ぐずっ」

「泣くな。言っておくがお前は俺達から

したら、賊と一緒だ。クランハウスを覗

いた挙句、勝手に侵入しようとしたんだ

からな。この場合、どっちに正義がある

かは分かるよな?」

「ううっ………………ぐずっ……………は

い」

「シンヤ、迷惑かけてしまってすまん

の。こやつは悪い奴ではないんじゃが、

少し向こう見ずなところがあっての」

「ご、ごめんなざい~~~もう少じ考え

で行動じまず~~~」

「分かったから落ち着け。話を戻すぞ。

いいか?イヴの顔見知り」

「ぐすっ、はい。私はイヴ様のただの顔

見知りです」

「あぁ、もう面倒臭いからお前のことは

ネームって呼ぶからな?」

「はい。それで大丈夫です~~」

「最初とキャラが全然違うんだが」

「大丈夫です。あと少しで元に戻りま

す~~」

「こやつは泣いたり拗ねたりするとこう

なるんじゃよ。面倒臭くて、すまんの」

「こんな奴がお世話係って……………イヴ

の苦労が目に浮かぶ」

「ぐすっ……………よし。それで?話の確

認か?」

「切り替え、どうなってるんだ?まぁ、

深く聞くと面倒臭そうだから、それはい

いとして。先程、お前から聞いた事情と

やらを再確認させてもらうと………………

現在、イヴの生まれ育った国であるギム

ラがのっぴきならない状況に陥っている

んだったな?」

「ああ。ギムラは現在、イヴ様の兄であ

らせられるアドム様が治めている状態な

んだが、それがかなり無茶苦茶でな。国

民から多額の税を徴収し、それを国の為

には一銭たりとも使用せず、なんと全て

私利私欲で散財しているんだ。ある日、

何一つ変わらない国の状況を疑問視した

国民がアドム様に御目通り願った。する

とその国民は後日、とある宿屋の裏路地

にて無残な姿となって発見され

た…………おそらく反逆者扱いで亡き者

とされたんだろう」

「兄上が……………なんと…………」

イヴか険しい表情をしたのを見たシンヤ

は一呼吸置いたネームへと目で続きを促

した。

「しかし、問題はそれだけではない。ア

ドム様からは真面目に国政へと向き合う

姿勢が1ミリも感じられないんだ。まる

で操り人形のように大臣の言うことを聞

くだけでその大臣に国を任せきりにして

いる。さらには母君であらせられるイヤ

ーシィ様も何故か、それに従っている状

況……………全く、こんな時期だというの

に何を考えているのか。今は国が一丸と

なって、あの脅威・・・・に備えな

ければならないというのに。これじゃ

あ、国民からの信頼は得られないじゃな

いか」

「ん?こんな時期?脅威?それは何のこ

とを言っているんだ?」

「あっ!?そうか!ここは魔族領ではな

いから、まだ情報がここまで届いていな

いのか……………」

「?」

「……………そうだな。シンヤ達には聞い

てもらった方がいいかもしれない。短時

間しか話していないが信頼に足る人物だ

と分かったし」

「気安く名前を呼ぶな、イヴの顔見知

り」

「そ、そんなっ!?わ、私のことは名前

で呼んでいるのに」

「冗談だ。いいからさっさとその脅威と

やらを話せ」

「わ、分かった。今から言うことは他言

したとして、仲間内だけで留めてくれる

と助かる。これはシンヤ達だからこそ、

話す訳だから」

「了解。で?魔族領では今、何が起きて

いるんだ?」

「……………実は」

そこから30秒程、間を空けてからネー

ムはこう言った。

「1週間程前に……………魔王が復活した

んだ」
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