俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第252話 七罪"傲慢"のヨール

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「ちょっと!しっかりしなさいよ~」

「っ!?ご、ごめん!」

ローウェルは突然、かけられた声によっ

て我に返った。今の今まで急に呼び覚ま

された過去の記憶に囚われて、しばらく

の間、呆けてしまっていたのだ。だが今

はそんな悠長なことをしている場合では

ない。なんせ今もなお、"新生人ニュー・タイプ"の攻撃から彼を守って

くれている者がいるのだから。

「助けてくれてありがとう!"艶魔"リ

ーム!」

「どういたしまして~もう大丈夫そうな

の~?」

「ああっ!だから、そこを代わって欲し

い!!」

「了解よ~それっ~」

「ぐががあっ!?」

武器を交えている中、気怠い返事をした

リームが一気に力を抜いて後ろへと下が

る。すると急に支えがなくなった"新生人ニュー・タイプ"は体勢を崩

し、つんのめる状態になった。そして、

そのタイミングに合わせて駆けていたロ

ーウェルは剣を大きく振り被り、強烈な

一閃をお見舞いした。

「"バスター・ソード"!!」

「ががあっ!?」

深く入りはしなかったものの、そこそこ

のダメージを与えることができたと感じ

たローウェルはそのままの流れで追撃の

一手を打つことにした。

「"斬首剣"!」

「ぐぎゃあ!!」

しかし、危機を察知した"新生人ニュー・タイプ"が回避を行ったことで

その一閃は空を切ることとなり、失敗に

終わってしまった。後には地面に転がる"新生人ニュー・タイプ"とそれ

を見下ろすローウェルが残った。

「よし。これなら、いけるぞ!!」

「後は自分でなんとかしてちょうだい~

もう助けには来ないからね~」

「ああ!」

「じゃあ、アタクシはあそこで踏ん反り

返ってる奴らの相手をしに行ってくるわ

ね~………………あ、そういえば」

「ん?なんだい?」

「あなたって、そこそこネーミングセン

スあるのね~」

「っ!?ありがとう!!」






――――――――――――――――――






「はぁ~世話になっちゃった

な…………」

リームが敵の幹部の元へと行くのを見送

ったローウェルは軽くため息をついた。

彼としては注目しているクラン、それも

いずれは模擬戦でもできたらと考えてい

た者相手に借りを作ったことで"お願い

"がしにくくなってしまったのを嘆い

た。と同時に助けられたこと自体は特に

プライドをへし折られたと感じることも

なかった。むしろ頼もしそうな背中を見

たことでクラン"黒天の星"全体のレベ

ルの高さが窺えて、嬉しく感じた程であ

る。

「っと!今はそんなことを考えている場

合じゃない!」

「ぐがあっ!!」

先程まで地面に倒れていた敵は既に復活

し、ローウェルへと高速で向かってきて

いた。身体に纏う魔力の濃さ、さらに身

体能力の高さから七罪の力が最大限に発

揮されていることは明白だった。だが、

ローウェルは全然負ける気がしなかっ

た。何故なら、力が身体の奥底から勝手

に溢れ出してくるのを感じていたから

だ。

「"迅剣ラピッド・ソード"」

「ぐがるるっ!!」」

すぐさま猛スピードで正面からぶつかる

2人。長剣と短剣が交わり、その衝撃で

地面は陥没し、近くの木々が倒れてい

く。明らかに常人の為せる技ではなかっ

た。

「はあっ!!」

「ぐがががっ!」

それから何度も何度もお互いの武器をぶ

つけ合った。一撃一撃は重く、受け止め

る方だけではなく、攻撃側の身体にもダ

メージが積み重なっていく。また余波で

舞い上がった土砂が容赦なく降り注ぎ、

そのせいで視界も悪くなっていった。

と、そんなことが10分程続いた時、突

然流れが変わり出した。

「"炎を纏いし剣ブレイズ・ソード"!!」

それは先程、発動したはいいものの敵に

ぶつけることが叶わなかった必殺技だっ

た。それを"新生人ニュー・タイプ"がよろけた一瞬の隙をついて発動

した訳だが、何故一度失敗した技を再び

使用したのか。ましてや、この大事な局

面においては悪手にしかなり得ないので

はないか……………そう誰もが思うところ

であろう。ところが、ローウェルはそう

感じてはいなかった。むしろ、ここで全

力を出さなければ、いつ出すというの

か。そう、力が溢れ出している最高潮の

状態は今この時しかないのだ。

「うおおおおっ!!"炎剣"!!」

「ぐごがぎあっ!?」

そこからのローウェルの勢いには凄まじ

いものがあった。"新生人ニュー・タイプ"に向かって、剣を何度も振り

下ろし、斬り続けたのだ。これにはいく

ら耐久力の上がっている"新生人ニュー・タイプ"といえど流石に参らざ

るを得なかったのだろう。苦しげな声を

何度も上げつつ、徐々に深い傷が刻まれ

ていった。そして、遂に最後の一撃が終

わった瞬間……………

「ぐおおっ!ちくしょー!痛ぇ!」

「はぁ、はぁ、はぁ」

新生人ニュー・タイプ"は地面

へと倒れ伏した。

「あれ?ちゃんと喋れたんだ」

「ぐっ、はぁ、はぁ。たった今、意識が

戻ったんだ。そんでこの有様よ……………

痛ぇ」

「はぁ、はぁ。かなり頑丈だね。もうあ

と1回ぐらいしか攻撃できないのに。こ

れは参った」

「それはコッチの台詞だ。せっかく意識

が戻って、イケ好かない剣士に一撃くれ

てやろうと思ったのによ……………はぁ、

こんなんじゃ動くことさえできねぇ」

「ふぅ~……………最期に言い残したこと

はある?」

「……………俺は七罪"傲慢"の力を手に

入れた最強の男、ヨールだ。覚えてお

け。お前のことは一生忘れねぇ」

「あっそう……………じゃあ、さような

ら」

「ちくしょー!お前だけは絶対に許さね

ーからな!」

ローウェルの振り下ろした剣は大声で叫

ぶヨールの首元へと向かった。そして、

事が終わると途端に辺りは静寂を取り戻

し、急に力が抜けたローウェルは地面へ

と倒れそうになる。しかし、直前で踏み

とどまり、なんとか持ち堪えると前を向

いて剣を杖代わりに歩き出した。彼の向

かう先、そこにはたった今、戦闘を終え

たばかりの同志達が集まり、クタクタな

笑みを浮かべているところだった。
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