俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第245話 慟哭

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「うりゃあ!」

「ううっ」

クーフォ達"朱組"が常駐するクラン支

部のある街、サド。現在、そこは火の海

に包まれていた。街中に一般人は1人も

おらず、全て"朱組"が責任を持って、

外へと連れ出している。事の発端は"聖

義の剣"のリーダーであるハジメが行っ

た世界中に向けての発言から1時間程が

経った頃だった。突然、サド近くの街道

から現れた白い修道服を着た集団はサド

の外壁をぶち破り、街中への侵入を開始

した。そして、手当たり次第に建物や設

備を破壊して回り、我が物顔で突き進ん

でいたところをウィアを筆頭とする"獣の狩場ビースト・ハント"のメン

バーが迎え撃ったという訳だ。ちなみに

ウィア以外のメンバーは全員が街中に散

らばって、敵を1人ずつ倒しにいってい

る状況であり、肝心のウィアはというと

"聖義の剣"の幹部………………の横にい

る"新生人ニュー・タイプ"の相手をしていた。

「くそっ!何でこの子に戦わせてるんだ

よ!お前が戦えよ!」

「嫌よ。何で私がそんな面倒臭いことし

なきゃならないのよ。というか、戦闘す

ることで服が汚れるのがどうしても無

理」

ウィアの意見を一蹴する敵の幹部。そも

そも何故、そこまで潔癖なのに"聖義の

剣"という汚れ切った組織に所属してい

るのか…………ウィアは疑問に思ったが

あえて口には出さず、別のことを話しだ

した。

「それにしてもよくこの街に堂々と入っ

てこられたな?ここはアタイ達が拠点に

してるって知らなかったのか?」

「誰がどこを拠点にしていようが関係な

いわ。どうせ、どこにいたって一緒だも

の。なんせ、世界中の者を1人残らず恐

怖のどん底に突き落としてやることに変

わりはないのだから」

「へ~そうか……………よ!」

「うがあっ!」

話をしている最中もウィアは気を抜かな

かった。幹部の連れている少女、"新生人ニュー・タイプ"は常にウィア

の隙を窺いながら、時に背後から、また

時に正面から攻撃を仕掛けてくるのだ。

その度にウィアの剣と少女の剣はぶつか

り、甲高い金属音を奏でる。こんなこと

が数回は起こっていた。

「でも、1つだけ誤算があったわ」

「へ~…………それはどんなことだ?」

少女の剣を受け止めながら訊くウィア。

汗を浮かべ声も震えている為、"新生人ニュー・タイプ"の力がいかに強

いのかが窺える。

「この街の住人達がいなくなっていたこ

とよ。まるで私達がここに来ることを最

初から知っていて、何処かへと逃げ出し

たかのように」

「それは……………不運だったな」

「あなた、何か知っているわね?まぁ、

そうでなきゃおかしいんでしょうけど。

私達を止めにきたのも早かったし、あま

り焦ってはいなかったみたいだから」

「どうだろう…………な!」

「ううっ!」

力を込めて少女を押し返すウィア。と同

時に両者は勢いよく後ろへと跳んだ。そ

の後、お互いに軽く肩で息をしながら、

呼吸を整え出した。

「まぁ、そんなことはどうでもいいわ。

それよりもその娘、かなり強いでしょ?

さっきも説明した通り、それが七罪の1

つ"嫉妬"の力よ」

「おい……………一体自分達が何をしてい

るのか分かってんのか?」

「奇跡の大発見でしょう?なんせ生前が

実力のある者程、七罪の力との親和性が

高く、より高度な者へと生まれ変わるこ

とができる。これによって亡くなった者

すら有効活用し、いずれは無敵の布陣を

構えることすらできるのよ?ほら、見て

みなさい」

「うあああっ……………ううう」

そう言われて幹部の指差した方を見るウ

ィア。そこには段々と呻き声が強くなっ

ていく少女がいた。少女が苦しくなる度

に力が増幅し、放つ魔力も濃くなってい

く。どう見ても普通の状態ではなかっ

た。

「段々と七罪の力に慣れ始めたのよ。言

っておくけど、この先はもっと速

く……………そして強くなるわよ」

それは幹部が言い終わるのとほぼ同時だ

った。ひとしきり呻いた少女は先程より

も明らかに速く動き、ウィアの後ろへと

回り込んだ。

「っ!?な…………」

「うがあっ!」

ウィアは驚きの言葉を吐く寸前で少女に

蹴り飛ばされた。これによって、左斜め

前方の壁に勢いよく激突するウィア。そ

の衝撃で壁は一気に崩れ出し、上から瓦

礫の山がウィアへと襲い掛かった。ここ

から、少女の蹴撃がどれほどの威力を誇

っていたのかが痛いほどよく分かる。

「呆気なかったわね。"赤虎"ってのも

案外大したことない……………っ!?」

それから約5分後。土煙が完全に晴れる

頃合いを見計らったのか、瓦礫の山がの

そっと動き出すと中から軽い擦り傷を負

っただけのウィアが姿を現した。

「誰が大したことないって?」

「あら。悪運の強い女ね」

一瞬だけ幹部の方を見たウィアはすぐさ

ま視線を静かに佇む少女へと向け、声を

張り上げた。

「おい、そこの女剣士!お前、何やって

んだよ!」

突然自身へと向けられた大声に戸惑う少

女。自然と剣を握る手の力も緩み、身体

が硬直しだす。こここらはウィアのター

ンが始まろうとしていた。

「アタイは今まで幾人もの猛者達と剣や

拳を交えてきた。一時期はそんなことを

繰り返す毎日だった。そんなある日、戦

闘の最中に相手の心情がある程度は読み

取れるようになっていたんだ。それでさ

っき、お前に蹴られた時に分かったよ。

お前………………本当はこんなことしたく

ないんだろ?」

「っ!?」

「ちょっと!あんた何を吹き込もうと」

「いいからお前は黙ってろ!!」

「なっ!?」

ウィアの発した殺気に硬直する幹部。そ

れはさながら虎に睨まれた草食動物のよ

う。彼女は口出しをすることはおろか、

その場を一歩も動く気が起きなかった。

「お前の心の声が聞こえてきたよ。嫌

だ、こんなことやりたくないっ

て……………だからだろ?アタイの背後に

回り込んで攻撃する時、剣士なのに剣を使わなかったのは・・・・・・・・・・・・・・・

「ううっ…………あああっ」

「で、あの蹴りだ。何だ、あれ?お前、

本気でやればアタイにもっとダメージが

入ってた筈だぞ。それなのにお前の脚、

かなり震えてたもんな」

「うううっ」

ウィアから言葉が発される度、少女の虚

ろだった表情が徐々に変わっていく。瞳

には光が、口には意志が、そして頬には

感情が宿り始める。少女の中で何かが動

き出した瞬間だった。

「辛いかもしれない。痛いかもしれな

い。だが、打ち勝て!身体の中の悪魔

に!自分の意志をしっかりと持って、そ

んな奴に乗っ取られるな!」

「うあああ…………ア、アタシは」

しかし、その直後だった。

「うがああああっ!」

一際強い魔力の奔流が少女を包み込むと

その数十秒後には元の虚ろな少女へと戻

ってしまう。これに幹部はほくそ笑ん

だ。所詮、ウィアのしていたことは無駄

なこと。結局、七罪の力に取り込まれた

者が自我を保つことなどあり得ない。ま

してや、七罪に抗うなどと……………とこ

ろが、次の瞬間、幹部は驚くこととな

る。何故なら、ウィアに全く動じた様子

がなく、それどころかまだ彼女の瞳に諦

めの色がなかったからだ。

「そんな顔してても分かるぞ、お前の言

いたいこと」

「う…………ああああっ!」

「だけどな、人に頼み事をする時はちゃ

んと口に出して本人に伝えるんだ!!」

物凄い勢いでウィアに迫る少女。それを

迎え撃つ為、その場を微動だにしないウ

ィア。2人がぶつかるのは時間の問題だ

った……………とその途中、距離にしてあ

と5m程といったところで少女の瞳から

突然、涙が零れ出し、苦しげな表情でこ

う叫んだ。

「アタシを……………アタシをここから助

けて!!」

「ああ!任せておけ!!」

それは少女の悲痛な叫びがウィアの元へ

と届いた瞬間だった。
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