俺は善人にはなれない

気衒い

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第12章 vs聖義の剣

第231話 保険

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「"碧い鷹爪"がやらかしたらしいな」

「ああ。今じゃ、上も下も大騒ぎだ。中

にはそんな混乱に乗じて、下克上を企て

ようとする奴もいるって話だ…………い

や、既に対抗戦や|軍団戦争《レギオ

ン・ウォー》を申し込まれたところもあ

ったな」

「"黒の系譜"め、やってくれたな。俺

達が与し易い存在だと舐められてるって

ことじゃないか」

「まぁ、勘違いする奴らも出てくるだろ

うが、それも数日で治まる。なんせ、上

には上がいるからな。"碧い"のは上に

含まれてはいなかったが」

「"碧い"ではなく、ただ"青い"だけ

だったってことだな」

「上手いこと言うじゃないか」

「へへっ……………お、マスターが来たみ

たいだな」

「よし、じゃあそろそろ向かうか」

「ああ」

「俺達はあいつらとは違う。最後に残っ

ているのはこの"紫の蝋"だ………………

保険もあるしな」







――――――――――――――――――





「売上は?」

「順調です」

「やっぱり、あそこでの宣伝が功を奏し

たか」

「はい。軍団戦争レギオン・ウォー

以前よりも数倍伸びています。とはいっ

ても元々の売上もとても高水準でした

が」

「誘いに乗って正解だったな。新しく縄

張りまで増えたし」

「本当によろしかったんですか?あの条

件で」

「ああ。ハーメルンに言ったことは嘘じ

ゃない。力で支配したり、相互扶助なん

て関係はありきたりすぎる。俺はただ気

軽に行きやすい場所が増えればいい」

「まぁ、結果的にそのお考えの方が良い

と私も思います。今まで縄張りになった

ところからは定期的に色々なものを頂い

ていますし、良い関係が築けているか

と」

「そうなんだよな。あいつら、断ってる

のに送ってきたりするだろ?まぁ、最近

ではもう諦めてるが…………………この間

もふらっと訪れたら、帰り際に沢山渡さ

れたよ。是非持って帰ってくれって」

「変に力で支配せず、何も求めてこない

者に対しては逆に何かしてあげたいとい

う気持ちが芽生えるんでしょう。という

よりもせずにはいられないんです。だっ

て、それしか感謝を伝える方法がないん

ですから」

「感謝なら言葉で貰ってる」

「それでは到底満足できないのが与えら

れた者の宿命です。だから、その人の力

になりたいと自分にできることを見つけ

て実行するんです。という訳でシンヤさ

ん、これから覚悟して下さいね」

「?」

「新たに縄張りとなったのがどれだけの

数だと思いますか?」

「…………まさか」

「人の好意を無下にしてはいけません

よ」

「勘弁してくれ」

「邪神にすら勇敢に立ち向かったお人に

こんな弱点があるとは」

「俺は感謝とかされるのは苦手なんだ。

どんな顔をしていいか分からん」

「まぁ、それは生い立ち上、仕方がない

として……………普通でいいと思います」

「それが一番難しいんだ」

「ふふっ」

「ティア、楽しそうだな」

「はい。いつもの凛々しい顔も素敵です

が、やっぱり困ったような顔も好きで

す。というより、あなたの全てが好きで

す」

「……………不意打ちだな。それに直球

だ」

「はい。このぐらいしないとシンヤさん

は揺らぎません」

「……………俺もティア、お前の全てが好

きだ。というより、愛してる」

「ふえっ!?」

「凄いリアクションだな」

「ち、ちょ、ちょっと待って下さい!魔

道具で録音しますから!是非、もう一度

お願いします!」

「落ち着け。いつも気持ちは伝えている

だろ。どうしたんだ」

「な、なんか今のはいつもと違う感じが

したんです!すっごくキュンときたんで

す!だから、もう一度お願いします!」

「分からん。女心、難しすぎるだろ」








――――――――――――――――――








「はい。こちら、お願い致しますわ」

「はい。確かにお預かり致しました。で

は後ほどギルドマスターにお渡ししてお

きます」

「ありがとうございますわ」

「あの~ところで」

「はい?」

「サインをもらってもよろしいでしょう

か?あと、よろしければ握手も!これだ

けの有名人がいらっしゃることはなかな

かないので…………ほら、私だけではな

く、この場にいる全員が同じ気持ちなん

です!」

「申し訳ないけど、私達はあまり時間が

ありませんの。だから、ギルドマスター

にも会わず、こうして貴方にお渡した次

第ですわ」

「で、でも!」

「では失礼致しますの」

とある国の商業ギルド本部。その受付で

用事を済ませたサラとアスカ、それと"

十長"の1人であるバイラはすぐに外へ

出た。彼女達が3人だけでこんな場所へ

とやってきたのには訳がある。

「あの、何故私達3人が選ばれたんでし

ょうか?」

「それはウチも気になるアル」

「総合的に判断してのことですわ。商業

ギルドへと書類を出したことの証人とし

て最低3人は必要だとシンヤさんが仰っ

たんですの。そこで"二彩"、"十人十

色"、"十長"の中から1人ずつ選ぶこ

とになりまして、事務的な作業や頭を使

うことに向いている者の方がいいだろう

ということで私達になったんですの」

「事務的な作業……………」

「頭を使う…………」

「アスカは以前いた世界での学歴があり

ますし、バイラは商人を目指していただ

けあって数字や商売にも強い」

「「サラさんは?」」

「私は……………言える訳ありませんわ。

最近ティアばかり大役をもらっていて、

その対抗意識でとか…………ボソッ」

「「サラさん?」」

「な、なんでもありませんわ!とにか

く、これで書類も出しましたし、一件落

着ですわ」

「そうですね」

「それにしても念には念すぎるアル」

「物事には何が起こるか分かりません

わ。慎重すぎるくらいでちょうどいいで

すの」

彼女達が商業ギルドを訪れた理由、それ

はある書類を提出する為だった。その内

容とは事業計画書であり、シンヤ達が展

開している事業の概要とそこに至るまで

の過程と動機、展望までを綴った書類

だ。もちろん、どのように商品を作って

いるのか、サービス提供の裏側など外に

出したくない企業秘密は載せてはいな

い。では一体何故そんなものをわざわざ

提出したのか……………理由は保険であっ

た。このまま事業を展開し続けていると

どこかでいちゃもんをつけてくるところ

が現れるかもしれない。それを防ぐ為、

事前に商業全体に強く出れる商業ギルド

へと書類を提出しておくことでもしもの

時はシンヤ達が正規で事業を行っている

と証明してもらおうと考えたのだ。それ

と商業ギルド自体がシンヤ達に圧力をか

けないよう牽制をしたという面もある。

どちらにせよ、これで大手を振って好き

なことができる。だが、これだけでは終

わらない。シンヤは保険をまだまだ打っ

てあった。

「それが冒険者ギルドと武器・防具店へ

の契約書の提出ですわ」

「あれにも最初は驚きましたね」

「でも、あり得ることアル」

シンヤ達の事業の中で飛び抜けてトラブ

ルが起こりそうなものが1つあった。そ

れは"鍛冶場ノエ"…………ノエが店主

を務める武器・防具店である。彼女の店

は他にはない特徴があった。それは一般

職の者でも武器を買うことができるとい

う点だ。通常、武器・防具店では衛兵や

兵士、冒険者などの戦闘を生業とする者

にしか売ってはならないという暗黙の了

解があった。何故なら、武器の扱いを知

らない一般人が人を殺めるもしくは傷つ

けようとする悪意で買うのを防ぐ為だ。

安易に売ってしまって、何かがあってか

らでは遅い。だからこその危機意識だ。 

ところが、シンヤ達の店ではそれを良し

としてしまっている。当然、その部分に

嫌な顔をする店もあるし、ギルド側も不

安になるだろう。そこでそのどちらにも

契約書を提出することにしたのだ。内容

はノエの店で買われた武器によって何か

トラブルが起きた場合はシンヤがしっか

りと責任を取ること、また店内におい

て、他の武器・防具店の宣伝を積極的に

行うことでこちらに敵対する意思がない

ことを分かって欲しいというものだっ

た。ちなみにそれだとハイリスク・ロー

リターンな商売となりそうなものだが、

決してそうはならない。ノエの店の入り

口には特殊な魔道具が設置されており、

悪意を持って買おうとする者には速やか

に退店してもらうシステムになっている

からだ。これによって、今まで一度もト

ラブルが起こったことはない。

「これで私達にゴチャゴチャ言う輩はい

なくなりますわ」

「いたとしてもほとんどが嫉妬からくる

負け惜しみですよね」

「なんでも先に始めた者勝ちアル」

彼女達は足早に拠点へと急ぐ。原因は任

務を終えた後のシンヤからのご褒美を期

待してのものだった。
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