俺は善人にはなれない

気衒い

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第10章 セントラル魔法学院

第179話 下克上

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「ちくしょ~やっぱり2ーAは強ぇな。俺らD組にも少しはチャンスがあるかと思ったんだが結局、勝てなかったな」

「だな。1回でも負ければ、その瞬間に代表の夢は潰えてしまう。初戦の相手がA組なのは純粋に運が悪かったとしか言いようがない」

「だよな~いっそ、H組が相手だったら余裕で突破できていたんだろうな」

「……………」

「ん?どうしたんだ?」

「いや……………もしかしたら、その考えは間違っているのかもしれないぞ」

「は?一体、何を言って」

「あれを見てみろ」

D組の生徒が指を差した先には多くの生徒達が群がっていた。ざっと数えただけで2、30人はいる。職員室のすぐ近くの掲示板。そこに毎週のように貼り出されている学生新聞。彼らが一心不乱に見つめているのはその内容だった。遠くからでも分かる大きな文字と見やすい配置。それによって一目で何が一番伝えたいことなのかが分かるほど、その見出しは目立っていた。本来、職員室の周辺などは生徒達にとって、そこまで頻繁に訪れるような場所ではない。にも関わらず、これだけの生徒達が1つの場所に留まっているのには訳があった。

「お、おい…………この内容って本当かよ」

「捏造するメリットがないだろ。閲覧者を増やしたかったとしてもリスクが高すぎる」

その新聞の見出しには大きくこう書かれていた…………………"2ーH、2ーEに圧倒的な差を見せつけて勝利!下克上の始まりか?"と。






――――――――――――――――――――





「なめやがって!」

2ーAの担任であるキルギス・プーンは怒りから、読んでいた新聞をクシャクシャにした。それは教師用に配布された学生新聞で最近の出来事について、まとめられたものであった。特に大きく取り上げられているのは学院で最も盛り上がる行事、"学院選抜試験"のことである。それを見て、キルギスは非常に憤慨し、普段の彼の姿からは考えられないような教師としてあるまじき行為をしたのだ。それこそ今、自分のいる場所が多くの生徒や教師の目に留まるところだということを忘れるほど憎々しげな顔をしながらである。

「キルギス先生!走り込みが終わりました!あとは何…………」

「うるせぇ!今、俺はムシャクシャしてんだよ!少し黙ってろ!」

「は、はい!」

キルギスは自分の抱える生徒達を横目にしながら、考えを巡らせた。調子に乗った奴らを一体どうやって懲らしめやろうかと。

「ん?あれは…………」

とそんな中、彼は屋上の方に目をやった。するとそこにはたった今、横断幕を下ろそうと動いている者達がいた。

「確か、選管の者だったか」

"学院選抜試験管理班"。通称"選管"の者達だった。試験が不正や危険なく、公平に行われることに全力を尽くす者達のことで彼らは期間中、全ての試験が滞りなく進行しているか常に目を光らせている。試験官が1試合に神経を注ぐのに対し、彼らはそれら全てをくまなくチェックする。その範囲は生徒だけではなく試験官も含まれており、賄賂や出来レースなどの不正また明らかな妨害行為がないかの調査にまで及ぶ。もちろん、結託や癒着を防ぐ為に選管の者は試験官を務める教師以外から選ばれている。

「ちょうどいいところに次の対戦相手の発表か。どれどれ」

横断幕に書かれていたもの、それは学年ごとの次の試合の組み合わせだった。そして、それを見たキルギスは一言、

「ふんっ。今度こそ、奴らも終わりだな」

そう呟いた。彼が見つめる先。そこにはこう書かれていた………………2ーB対2ーHと。





――――――――――――――――――――






2回戦目の試合当日。2ーBと2ーHの試合では異様な光景が繰り広げられていた。というのも2ーBの陣地の地面には軽く亀裂が入っており、そこを境目として生徒達が半分ずつに区切られ分散させられていたのだ。これをやったのは遊撃手であるセーラである。彼女は試合開始と同時にシンヤからもらった相棒であるロングソードを振り下ろし、対戦相手を2つに分断したのだ。その後、H組の前衛が2つに分かれて、それぞれを強襲。今回は様々な状況でも戦えるように初戦とは違う戦い方にしたのだがもちろん、危ないと感じれば後衛からの支援を受けられるような体制はいつでも整っている。クリスも常に警戒を怠っていない為、まず穴はない。死角があるとすれば、倒しきれていない相手やトリッキーな戦術の対処だが………………

「"突剣乱舞"!!」

「おら、隙ができ…………ぐはっ!な、何!?」

「チャンスだ……………ぐふっ!」

「ふふふ。この戦術は見抜けまい。くらえ!必殺……………がびょ~ん!」

「逃げ…………られ………ない」

それもセーラのほぼ完璧なカバーにより、完封している。結果、2ーBも呆気なく陥落し、2ーHが勝利を収めることとなる。次回は最終試合。

「さて、次はどの戦術でいこうか」

喜びを分かち合う彼らを微笑ましく見つめながら、俺の思考は既に次へと進んでいるのだった。
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