俺は善人にはなれない

気衒い

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第10章 セントラル魔法学院

第177話 勇者

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私の名前は霧原咲夜。この間までどこにでもいる、ごくごく普通の高校生だった。何となく学校に通い、何となく授業を受けて帰宅するだけの毎日。特別満たされてはいないがつまらないという程でもない、そんな日々を送っていた。そして、その日もそれは同じはずだった。たった1つのことを除けば…………

「何、これ」

帰宅途中に突如、私の足元に出現した魔法陣のようなもの。それは私をその場に留まらせ、動けなくした。

「ち、ちょっと!動けないんだけど!」

徐々に発光し、かかる力が強くなっていく。私はどうにかその場を離れようともがいたが、やはり抜け出すことは出来なかった。

「だ、誰か!助けて!」

そこは人通りがあまりなく、学校からの近道だからと私がよく利用していた場所だった。その為、その時も誰かが通り掛かることはなく………………

「ちょっと待っ」

最終的に魔法陣が一際強く発光したタイミングで私は元いた世界からいなくなってしまった。




――――――――――――――――――――





次に目が覚めた時、私がいたのはとあるお城の中だった。というのも魔法陣の輝きが最も強かった時から目が覚めるまでの間の意識や記憶がなかったからだ。

「痛てて…………どこなんだろ、ここ」

若干痛む頭を抑えつけつつ、周りを見渡してみるとそこは中世のヨーロッパを彷彿とさせる城で煌びやかな装飾と長いカーペットが敷かれている。そして、今の今まで寝ていた場所には私を拘束していたのと全く同じ魔法陣があった。

「や、やりましたぞ、王様!」

「誠か!?」

「は、はい!無事、召喚に成功致しました!」

「よくやった、マドラス!これで我が国も安泰だな!」

突然、聞こえてきた大声に驚きながら、その方向へと目を向けてみるとそこにはいかにも偉そうな王冠を被った髭もじゃな男と大きな杖を持った老人が私を見て、ニヤニヤしていた。正直、気持ち悪い。

「ファンドランへようこそ、勇者様」

「勇者…………?」

「はい。勇者とはあなた様のことでございます。あなた様は数ある世界、数多の人々の中から勇者に選ばれ、この度、めでたく召喚されたのです!」

「はぁ…………」

「つきましては色々と説明しなければならないことがございます。が、その前にあなた様の使命、すなわち我々が召喚させて頂いた理由をまずはこの場で申し上げたいと思います」

「はい」

「単刀直入に申し上げますと…………勇者様には最近、復活したと思われる魔王を倒して頂きます」

「……………はい?」

「ちなみに拒否権はございません。というよりもいずれは必ずやらなればならなくなります」

「それは…………何故ですか?」

「拒否した時点でこの国に反逆したものと見做され、重い罰が下るからです。それと拒否の理由が魔王という強大な敵に対する恐怖心からだとしてもいずれは魔王と戦えるほど力をつけなければいけないのは変わりません。この世界は弱肉強食。力のない者は淘汰されていきます。仮に使命を放棄して、他国へと亡命したところで何の援助も力もない小娘がどうやって生きていけましょう。どう転んだところで魔王討伐に向けて訓練しなければならないのは決定事項。あと元の世界に戻りたいという理由で拒否しても結局は魔王を倒さなければなりませんよ?だって、元の世界へのたった1つの帰還方法が魔王を倒すことなんですから」

「そんな…………」

「ではこれから頑張って下さい。もう少し詳しい話はこの後でまた行います」

これが私の異世界転移の初日だった。





――――――――――――――――――――





あれから2週間。座学や実戦訓練を行い、この世界に対応するべく日々、奮闘していった。勇者だからなのか、一般の人と比べると成長が早いとは言われたがどちらも辛いことだらけだった。でも、そんな辛さは私にかけられた制約に比べれば、遥かにマシだった。というのも私は転移初日に制約の首輪なるものを付けさせられて、行動の自由を奪われたからだ。この国の王と私を召喚した宮廷魔術師のマドラス。この2人の命令に従わなければ、身体が動かなくなり、命令に背き続けるとその首輪が爆発する仕組みだった。ちなみに命令というのは座学・訓練の強制受講、国外逃亡の禁止、そして魔王の討伐だった。これら全てを完遂しなければ私に自由が訪れることはない。それを知った時、私は絶望した。先を見据えれば長い人生のはず。それがこんなところで潰えてしまうかもしれない。私は恐怖と焦りと不安で一杯だった。だからこそ、だろう。こんなことをしてしまったのは……………

「追え!逃すな!」

「どうした!?」

「勇者様が逃亡なされた!」

私は特別に許可された国外の森での訓練中、不意をついて兵士達の元から逃げ出したのだ。とはいっても命令に背き続けると首輪が爆発してしまう。

「はぁっ、はぁっ……………誰か」

回数なのか、時間なのか、その基準は定かではないが私に残された時間があと僅かということに変わりはなかった。
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