俺は善人にはなれない

気衒い

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第10章 セントラル魔法学院

第161話 受付嬢

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私は冒険者ギルド フリーダム支部受付嬢のマリー。勤続4年目になる、まだまだ新人の受付嬢です。頼りになる先輩方と可愛い後輩達に囲まれ、公私共に充実した毎日を送っています。とはいっても最初の頃はそれはそれは大変でした。慣れない仕事と目まぐるしく変わる状況への対応で四苦八苦。毎日が失敗の連続で家に帰ってから反省することが日課となっていました。それと冒険者の方々からの少々行き過ぎたアプローチも私を苦しめる原因となっていました。ほとんどの方々が明るく和やかに挨拶をしてくれるのですが、一部の方が強引にぐいぐいと迫ってきて、やがてそれは力に物を言わせた脅迫みたいなことにまでなっていました。しかし、そういった事態はそのことを知ったギルドマスターの厳しいお言葉により、すぐに沈静化しました。そして、そんな状態がしばらく続いていたある日のこと、とある方々が冒険者登録の為、このギルドを訪ねてきました。私はこの先、一生あの光景を忘れることはないでしょう。そもそも新規登録の為にフリーダムにあるこのギルドを訪ねてくること自体が大変珍しいことなのです。というのもここフリーダムを拠点とする冒険者は大体が5年以上、ここに在籍している者がほとんどで大抵の方は王都や迷宮都市などに向かい、一攫千金を夢見るものです。言い方は悪いですが、それがなんだってこんな場所から冒険者生活をスタートさせるのか、私には理解が及びませんでした。さらに驚くべきことはまだありました。その方々の出立ちです。3人の種族の違う男女なのですが全員、美男美女。携帯する武器はそれぞれ違うものですが防具?はお揃いで吸い込まれそうなほど真っ黒な装いです。一見するとそこまで強そうな方々には見えないのですが人は見かけによらないと言いますし、とりあえずお話を聞いてみて、私ができる最大限の仕事をしようと張り切って臨もうとしました。しかし……………そんな矢先、彼らはギルドの扉を潜ってすぐに他の冒険者に絡まれてしまったのです。しかもその冒険者というのが少々厄介でして、ここでは有名なBランククランからスカウトされて入った為、自分の強さを過信して、思い上がっている天狗野郎なんです。依頼も受けず、自分よりも弱そうな者に対して高圧的に威張り散らす真昼間から飲んだくれている筋骨隆々のスキンヘッド男。それに加えて女癖が悪く、手当たり次第に声をかけまくっては力強くで言うことを聞かせていて、私もその被害に遭っています。私達、ギルド職員からだけではなく周りの冒険者の方々からの評判も最悪で裏では散々陰口を叩かれています。そんな男がまだ登録すらしていない彼らに絡んでいったのです。その男からしたら、自分の欲求を最大限に満たせる絶好のカモが来たと思ったんでしょう。私は心の中でご愁傷様と呟き、他の業務に取り掛かろうと思い、視線を彼らから逸らそうとしました。男に絡まれた時点でここにすんなりと辿り着くことはほぼ不可能でしょう。相手の要求を受け入れて従う他、道はありません。だとしたら、登録は今日ではなく後日。もしかしたら、冒険者という職業の厳しさを知り、現実を突きつけられることによって、心が打ち砕かれてしまうかもしれない。そうなったら私達が今後、出会うことはまずないでしょう。あぁ、可愛そうな人達。せめて、傷は浅く済ませ……………

「失礼。ギルドへの新規登録はいくら、かかる?」

「は、はい!?」

なんと彼らは男を無視して、一直線に私のところへと向かってきたではありませんか。えっ、どういうこと!?…………と、とりあえず質問には答えないと。

「と、登録料は銀貨1枚になります。またその際に身分証も一緒に発行させて頂きます」

私が答えるとその方、シンヤさんは何やら納得された様子で次にギルドの説明を求めてきました。私からしたら、戦々恐々です。後ろでは無視された男がひたすら暴言を浴びせ、今すぐにでも飛びかかってそうな気配を醸し出していましたから。いくら慢心野郎とはいえ、その実力は本物です。万が一、彼らに何かがあったら……………私は顔が青ざめていくのを感じ、焦りが伝わらないよう挙動に気をつけながら対応しました。

「ありがとう。俺はシンヤ・モリタニだ。これから、よろしく」

説明が全て終わり、ギルドカードを渡すと少しだけ微笑みながら、そう言ってくれたシンヤさん。その瞬間、何故かは分かりませんが彼らは今まで出会ってきたどんな冒険者とも違うと感じ、この先どんな風になっていくのか興味が湧きました。しかし…………

「よぅ、やっと終わったか?あんまり待たせんじゃねぇよ、新人」

私はすっかり忘れかけていました。先程から彼らがねちっこく絡まれているのを。あぁ、せっかく出会えた不思議な魅力のある冒険者。なんでこんなことに…………

「だから、無視すんじゃねぇ!俺様はかの有名なクラン愚狼」

彼らは一貫して無視するという姿勢を変えませんでした。その為、最終的に我慢が限界を迎えた男に斬りかかられてしまいました。誰もがその最悪な結末に目を逸らし、聴こえてくるものを拒絶しようと耳を塞ぎかけました。ですが……………

「うるさい、ゴミが」

シンヤさんの傍らの少女、ティアさんが一言そう呟くと一瞬のうちに男の首を刎ねてしまいました。思えば、この時から彼らの伝説は始まっていたのでしょう。相手が誰であろうが悪意や敵意を持って邪魔してくる者を排除する。それがおそらくは行動基準となり、その後もいくつも大挙を成し遂げました。私はとても嬉しいです。彼らと関わることができて、信じられないような光景を見せて頂いて………………

「おはよう、マリー。クランの新規メンバーが増えたんだ。悪いが登録してくれないか?」

「はい、喜んで!」


私は彼らを…………シンヤさん達をこの先どこまでも見守っていきたいと思います。生きている限り、どこまでも……………
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