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第9章 フォレスト国
第155話 出会い
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「世話になった」
「我々のもてなしは気に入って頂けましたかな?」
「ああ。とても素晴らしかった。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ助かったよ。ありがとう」
あれから、一夜が明けた。長老宅で寝泊まりをした俺達はもう里を出るつもりで来た時と同じ入り口の前にいた。既に俺達が出ることは伝えていた為、多くの者が見送りに駆けつけてくれている。
「またいずれ時期を見て、来させてもらう」
「ああ。いつでもお待ちしているよ」
「それと話は変わるんだが…………この里を俺の縄張りの一部としたいと思っている」
「な、なんと!?」
「お前達は皆、ある程度は戦えるだろう。だが、世界は広い。お前達よりも強い者、それも悪意を持った者にここが見つかってしまうということも考えられる。万が一にもここを襲わせるわけにはいかない」
「よ、よろしいので!?」
「ああ。とはいっても俺のは少々変わっているらしくてな……………」
その後、驚き慌てふためく里の者達にフォレスト国の城内でしたのと同じ説明をした。それが終わると皆、口々に"申し訳ない。一方的にこちらが恩恵を受けるのでは不公平だ"と言っていたが、俺からの希望であることを強く主張すると大人しく引き下がってくれた。
「また温泉と美味い飯をご馳走になれれば、それだけでいい」
「そんなんでよければ、いつでも」
「あと、これらも置いていく。通信の魔道具にクランメンバーが作った武器と食べ物だ」
「何から何まで、すまんな」
「その気持ちがあるのなら、次来た時も元気に迎えてくれよ?」
「ああ、もちろんだ。シンヤ達の無事も祈っているぞ」
「じゃあな。また来る」
「ああ!元気でな!カグヤ、もういなくなったりするなよ!」
「アタシなら大丈夫だ!みんな、ありがとな!」
再び訪れることを約束し、俺達は鬼人族の隠れ里"カナボウ"を出た。そこから最短ルートに戻るまでの間、車を運転していたカグヤは機嫌良さそうに鼻歌を歌っていた。最短ルート上に戻ってからはフリーダムへ向けて、イヴが爆速で車を走らせた。途中、とあることを思い出し、再び"スニク"へ寄ると皆、とても驚いた顔をしていたが快く迎え入れてくれた。とはいっても用事はすぐに済み、長く滞在することなく、フォレスト国の土産とニーベルが作った酒を置いて出発した。そして、再びフリーダムへ向けて車を走らせている時だった。とある光景を目にしたのは……………
――――――――――――――――――――
「お嬢ちゃん達~俺達に見つかってしまうとは運が悪かったようだね~」
「そ、そこを通しなさいよ!」
「それは無理な相談だな~」
「カーラ、落ち着いて!下手に相手を刺激しちゃダメだよ!」
「でも、こんなクズ達にビビってなんかいられないわ!」
「クズだと?おいおい、言ってくれるじゃねぇか…………殺すぞ」
「ひっ!」
「へへっあ!その表情が見たくて俺達はこんなことしてんだよ!悪いことは言わねぇ。観念しな」
「こんのぉ…………いい加減にしなさいよ!アンタ達なんか」
「いい加減にすんのはお前だ、嬢ちゃん」
「え…………」
その時だった。いつの間にか近付いていた大男が少女を背後から、斬りつけようとしたのは。仲間達が声を上げて逃走を促すよりも早く、その刃は少女目掛けて振り下ろされようとしていた。襲撃者達の目にも少女が突然のことに対応できず狼狽えている姿がはっきりと映り、この後の展開にニヤつきが止まらなかった。しかし……………
「"追愚者"」
「ギャー!」
「な、何だこれ!?」
「ぐはっ…………」
「痛…………ぐばらぁっ」
どこからともなく聞こえたその声と共に飛んできた黒い矢により、襲撃者達は次々と撃ち抜かれていった。それは大男も例外ではない。刃が少女に当たる直前、脇と太ももに矢が刺さりバランスを崩して倒れ込んだ。そして、そのまま動かなくなってしまった。生きてはいるものの、身体がうまく動かせないようだ。少しして少女達は安心すると一箇所に集まって、へたり込みながら無事を称えあった。
「い、一体何が起こったの…………」
「よ、良かったよ~助かった」
「神のご加護に感謝を」
「一体、誰が?」
「どちらにしても危なかったぜ。捕まったら、何をされていたか」
「この黒い矢…………放ったのは相当な使い手ですね」
「とにかく、早くここから離れ…………ちょっと待って!何か聞こえるわ」
少女達がそんな話をしているとすぐそばの森の方から突然、足音が聞こえた。直後、複数人の声も聞こえ、何者かがこちらに近付いてきていることに気が付いた少女達。あんなことがあった後だ。6人は皆、身を寄せ合って固まり、何が起きてもいいように警戒心を強めた。そして、ようやく姿を現した人物達を見て、少女達はひどく驚いた。
「流石だ。弓の腕前はピカイチだな、レーン」
「いえいえ。確かに里の中では上手い方でしたがシンヤ様に比べると自分などまだまだです」
「で、こいつらはどうすんだ?やっぱり、ギルドへ引き渡すのか?早く決めないとライアンの我慢が切れちまうぞ」
「ドルツの大兄貴!変なこと言わんで下さいよ!そりゃあ、シンヤ様に良いところを見せたいって気持ちはありますが」
「ライアンさん、あなたばかりズルいですよ!私だって、シンヤ様のお役に立つ機会を首を長くして待っていたんですから。ろくろ首だけに」
「私だって、とっくに羽ばたく準備はできていますよ!鳥種だけに」
「ぼ、僕だって!…………でも、行きで戦ったから、それはズルだな」
「私もつい先日、里の方々のお相手をさせて頂きました。しょんぼり」
「こやつら、元気じゃのぅ」
「まぁ、譲りたくないって気持ちも分かるわ」
「シンヤが同行してくれる機会なんて、そうそうないからな。張り切ってんだろ」
「落ち着け、お前ら。こいつらはどうせ、ギルドに…………」
「す、すみません!」
「ん?」
突然、現れたシンヤ達の会話に割って入った少女。シンヤがそちらを見やるとビクッとしながらも恐る恐る立ち上がり、毅然とした眼差しでシンヤを見据えていた。しかし、その膝は震え腰が若干引けていた。
「わ、私はカーラと申します。この度は危ないところを助けて頂き、誠にありがとうございます」
「この辺りは盗賊共が彷徨いている。それを分からずに通ったのか?」
「はい。言い訳にはなってしまうのですが、私達は近くの村から冒険者を志して、旅立ちました。そこの村は貧乏で周辺の情報を得られるだけのあてもなかったのです」
「装備の質が良くないのもそのせいか?」
「はい。これはたまに来る武器商人の方に一番安い装備を売って頂いて揃えたものです。また地図や食糧、その他の必需品もたまに来る行商人の方に売って頂きました」
「なるほどな」
「…………あの………失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「ん?あぁ、俺の名はシンヤだ。冒険者をしている」
「や、やっぱり!?こんなところであの英雄様に!?」
「…………で?それがどうかしたのか?」
「は、はい!じ、実はお願いしたいことがございまして…………」
「何だ?」
「大変厚かましいお願いではあるのですが、私達を英雄様の旅にご同行させて頂けないでしょうか?」
「……………」
「ぼ、冒険者ギルドのある場所に着いたら、すぐに離れます。どれくらいの年月が掛かるかは分かりませんが報酬もきっちりとお支払いさせて頂きます」
「……………」
「やっぱり、こんな依頼受けませんよね?英雄様達でしたら、もっと割りの良い…………」
「名前………」
「はい?」
「俺のことは名前で呼べ。これから一緒にいて、ずっとその呼び方は気色が悪い」
「は、はい!ではそのように…………って、あれ?ということは依頼を引き受けて下さるんですか?」
「いや、それは違う」
「?」
困惑する少女達に向けて、シンヤが散歩するような気軽さで次に言った言葉。それは彼女達をより戸惑わせ、頭を思考停止に追い込む程のものだった。
「今からお前達にはこの盗賊達を手に掛けてもらう。話はそれからだ」
「我々のもてなしは気に入って頂けましたかな?」
「ああ。とても素晴らしかった。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ助かったよ。ありがとう」
あれから、一夜が明けた。長老宅で寝泊まりをした俺達はもう里を出るつもりで来た時と同じ入り口の前にいた。既に俺達が出ることは伝えていた為、多くの者が見送りに駆けつけてくれている。
「またいずれ時期を見て、来させてもらう」
「ああ。いつでもお待ちしているよ」
「それと話は変わるんだが…………この里を俺の縄張りの一部としたいと思っている」
「な、なんと!?」
「お前達は皆、ある程度は戦えるだろう。だが、世界は広い。お前達よりも強い者、それも悪意を持った者にここが見つかってしまうということも考えられる。万が一にもここを襲わせるわけにはいかない」
「よ、よろしいので!?」
「ああ。とはいっても俺のは少々変わっているらしくてな……………」
その後、驚き慌てふためく里の者達にフォレスト国の城内でしたのと同じ説明をした。それが終わると皆、口々に"申し訳ない。一方的にこちらが恩恵を受けるのでは不公平だ"と言っていたが、俺からの希望であることを強く主張すると大人しく引き下がってくれた。
「また温泉と美味い飯をご馳走になれれば、それだけでいい」
「そんなんでよければ、いつでも」
「あと、これらも置いていく。通信の魔道具にクランメンバーが作った武器と食べ物だ」
「何から何まで、すまんな」
「その気持ちがあるのなら、次来た時も元気に迎えてくれよ?」
「ああ、もちろんだ。シンヤ達の無事も祈っているぞ」
「じゃあな。また来る」
「ああ!元気でな!カグヤ、もういなくなったりするなよ!」
「アタシなら大丈夫だ!みんな、ありがとな!」
再び訪れることを約束し、俺達は鬼人族の隠れ里"カナボウ"を出た。そこから最短ルートに戻るまでの間、車を運転していたカグヤは機嫌良さそうに鼻歌を歌っていた。最短ルート上に戻ってからはフリーダムへ向けて、イヴが爆速で車を走らせた。途中、とあることを思い出し、再び"スニク"へ寄ると皆、とても驚いた顔をしていたが快く迎え入れてくれた。とはいっても用事はすぐに済み、長く滞在することなく、フォレスト国の土産とニーベルが作った酒を置いて出発した。そして、再びフリーダムへ向けて車を走らせている時だった。とある光景を目にしたのは……………
――――――――――――――――――――
「お嬢ちゃん達~俺達に見つかってしまうとは運が悪かったようだね~」
「そ、そこを通しなさいよ!」
「それは無理な相談だな~」
「カーラ、落ち着いて!下手に相手を刺激しちゃダメだよ!」
「でも、こんなクズ達にビビってなんかいられないわ!」
「クズだと?おいおい、言ってくれるじゃねぇか…………殺すぞ」
「ひっ!」
「へへっあ!その表情が見たくて俺達はこんなことしてんだよ!悪いことは言わねぇ。観念しな」
「こんのぉ…………いい加減にしなさいよ!アンタ達なんか」
「いい加減にすんのはお前だ、嬢ちゃん」
「え…………」
その時だった。いつの間にか近付いていた大男が少女を背後から、斬りつけようとしたのは。仲間達が声を上げて逃走を促すよりも早く、その刃は少女目掛けて振り下ろされようとしていた。襲撃者達の目にも少女が突然のことに対応できず狼狽えている姿がはっきりと映り、この後の展開にニヤつきが止まらなかった。しかし……………
「"追愚者"」
「ギャー!」
「な、何だこれ!?」
「ぐはっ…………」
「痛…………ぐばらぁっ」
どこからともなく聞こえたその声と共に飛んできた黒い矢により、襲撃者達は次々と撃ち抜かれていった。それは大男も例外ではない。刃が少女に当たる直前、脇と太ももに矢が刺さりバランスを崩して倒れ込んだ。そして、そのまま動かなくなってしまった。生きてはいるものの、身体がうまく動かせないようだ。少しして少女達は安心すると一箇所に集まって、へたり込みながら無事を称えあった。
「い、一体何が起こったの…………」
「よ、良かったよ~助かった」
「神のご加護に感謝を」
「一体、誰が?」
「どちらにしても危なかったぜ。捕まったら、何をされていたか」
「この黒い矢…………放ったのは相当な使い手ですね」
「とにかく、早くここから離れ…………ちょっと待って!何か聞こえるわ」
少女達がそんな話をしているとすぐそばの森の方から突然、足音が聞こえた。直後、複数人の声も聞こえ、何者かがこちらに近付いてきていることに気が付いた少女達。あんなことがあった後だ。6人は皆、身を寄せ合って固まり、何が起きてもいいように警戒心を強めた。そして、ようやく姿を現した人物達を見て、少女達はひどく驚いた。
「流石だ。弓の腕前はピカイチだな、レーン」
「いえいえ。確かに里の中では上手い方でしたがシンヤ様に比べると自分などまだまだです」
「で、こいつらはどうすんだ?やっぱり、ギルドへ引き渡すのか?早く決めないとライアンの我慢が切れちまうぞ」
「ドルツの大兄貴!変なこと言わんで下さいよ!そりゃあ、シンヤ様に良いところを見せたいって気持ちはありますが」
「ライアンさん、あなたばかりズルいですよ!私だって、シンヤ様のお役に立つ機会を首を長くして待っていたんですから。ろくろ首だけに」
「私だって、とっくに羽ばたく準備はできていますよ!鳥種だけに」
「ぼ、僕だって!…………でも、行きで戦ったから、それはズルだな」
「私もつい先日、里の方々のお相手をさせて頂きました。しょんぼり」
「こやつら、元気じゃのぅ」
「まぁ、譲りたくないって気持ちも分かるわ」
「シンヤが同行してくれる機会なんて、そうそうないからな。張り切ってんだろ」
「落ち着け、お前ら。こいつらはどうせ、ギルドに…………」
「す、すみません!」
「ん?」
突然、現れたシンヤ達の会話に割って入った少女。シンヤがそちらを見やるとビクッとしながらも恐る恐る立ち上がり、毅然とした眼差しでシンヤを見据えていた。しかし、その膝は震え腰が若干引けていた。
「わ、私はカーラと申します。この度は危ないところを助けて頂き、誠にありがとうございます」
「この辺りは盗賊共が彷徨いている。それを分からずに通ったのか?」
「はい。言い訳にはなってしまうのですが、私達は近くの村から冒険者を志して、旅立ちました。そこの村は貧乏で周辺の情報を得られるだけのあてもなかったのです」
「装備の質が良くないのもそのせいか?」
「はい。これはたまに来る武器商人の方に一番安い装備を売って頂いて揃えたものです。また地図や食糧、その他の必需品もたまに来る行商人の方に売って頂きました」
「なるほどな」
「…………あの………失礼ですが、お名前をお伺いしても?」
「ん?あぁ、俺の名はシンヤだ。冒険者をしている」
「や、やっぱり!?こんなところであの英雄様に!?」
「…………で?それがどうかしたのか?」
「は、はい!じ、実はお願いしたいことがございまして…………」
「何だ?」
「大変厚かましいお願いではあるのですが、私達を英雄様の旅にご同行させて頂けないでしょうか?」
「……………」
「ぼ、冒険者ギルドのある場所に着いたら、すぐに離れます。どれくらいの年月が掛かるかは分かりませんが報酬もきっちりとお支払いさせて頂きます」
「……………」
「やっぱり、こんな依頼受けませんよね?英雄様達でしたら、もっと割りの良い…………」
「名前………」
「はい?」
「俺のことは名前で呼べ。これから一緒にいて、ずっとその呼び方は気色が悪い」
「は、はい!ではそのように…………って、あれ?ということは依頼を引き受けて下さるんですか?」
「いや、それは違う」
「?」
困惑する少女達に向けて、シンヤが散歩するような気軽さで次に言った言葉。それは彼女達をより戸惑わせ、頭を思考停止に追い込む程のものだった。
「今からお前達にはこの盗賊達を手に掛けてもらう。話はそれからだ」
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