俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第150話 戴冠式

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「管轄下に置くとは言っても俺達がお前達に特別な何かをさせることもないし、監視などもしない。また先程、フォレスト王が言っていたようにこの国の主導権を握ってどうこうするつもりもない…………実はつい1ヶ月程前に軍団レギオンを結成したんだ。で、話を聞く限り、軍団レギオンではどこかの土地や地域を縄張りとするのが通例みたいでな。それの最初をここにしようと思ったんだ」

「…………つまり、英雄達の強大な力が後ろ盾となって守ってもらえるってことか?」

「それって俺達にしか得がなくないか?」

王子達は思わずそう言った。そんなことをしてもらえる心当たりがなかったからだ。

「俺のことはシンヤと呼んでくれ。得?他の軍団レギオンも同じようなことやってんだろ?」

「ではシンヤと呼ばせてもらう……………で、軍団レギオンと縄張り内の土地の関係だが、はっきり言ってシンヤの言うようなこちらからしたら破格の条件でのものはほとんど存在しない。それだと一方が得をして、もう一方が損をしているからな。本来はお互いに得がなければならない。特に守ってもらう方はそれ相応の対価を支払わなければ見限られてしまうかもしれない。そうなると他国に攻め入られる原因にもなる。これは簡単に決めていい問題などではなく、もっと緊張感を持って…………」

「うるさい。俺がいいって言ったら、いいんだよ。つべこべ言わず守られとけ」

「「ええっ~~!?強引!!」」

「で、どうするんだ?」

「…………あ、よろしくお願い致します」

「とは言っても何もしないというのではこちらの気が済まない。月に一度、この国の名産品を贈らせて頂こう。これはシンヤがどんなに拒否しても無理矢理やるからな。絶対な!」

「はいはい…………じゃあ交渉成立だな。周りの貴族達も文句はないだろ?」

「「「「「こちらこそ、よろしくお願い致します!!!!!」」」」」

先程の瞬殺劇を見てしまった貴族達には首を縦に振る以外、選択肢がなかった。自分達の想像の遥か上をいく実力者達に守ってもらえるのだ。これほど心強いことはない。

「にしてもよくそんな決断をしてくれたな。シンヤの中で何かそこまでさせるほどのものがこの国にはあったのか?」

「ああ」

そう言ってリースの方を見たシンヤ。途端、顔が真っ赤になるリース。それを見た王子達や貴族達は"なるほどな"と心の中で呟いた。

「これで軍事力に関しては問題ないな。あとは金銭面でも困ったことがあったら、言ってくれ」

「流石にそこまでさせる訳にはいかない。そこは全力で上手くやろう」

「あとは…………そうだな。まだ言ってなかったことが3つある」

「何だ?」

「もうこれ以上は何を言われても驚かんぞ」

「まず、リースについてだが…………本当の性別は女だ」

「「………………は??」」

「次にここまでのやり取りは全て映像の魔道具によって、この国のありとあらゆる場所で映し出され、誰でも視聴できるようになっている。事前に告知もしておいたから、おそらく多くの国民が見ているはずだ」

「「おいおいおい!」」

「そして、最後にこの後のことだ。ちょうど城の前に沢山の国民が駆けつけてくれている。だから、これからバルコニーに出て、そこで戴冠式を執り行う予定だ。あ、ちなみに抗議は認めんぞ」

「待て待て待て待て!」

「とんでもない報告に頭がついていかないんだが!?というより、国王はこれを知って…………」

そんな疑問が浮かんだ王子達に対して、フォレスト王は

「もちろんだ」

サムズアップとドヤ顔で以って答えてみせた。

「「まさか、グルなのか!?」」

「お~い、騒いでないでさっさと移動するぞ?」

「「お前はもう少し他人の話を聞け!!」」




――――――――――――――――――――




王城前は騒然としていた。王の間で行われた一部始終を見ていた国民達は各々が浮き足立ち、興奮気味に周りの者と会話をしながら、その時を今か今かと待ち望んでいた。王子達の取り繕っていない本心や理想、王と女王の器の大きさ、世界を救った英雄の登場、そして何より今回、一番の功労者であるリース王・女・の想い……………それらを体感した国民達は様々な感情が渦巻き、一刻も早く彼らをお目にかかりたいと心が叫んでいた。

「あ、お出でになられたぞ」

誰が呟いたのか、その言葉はたちまち伝染し、気が付けば皆、件の場所を見上げていた。そこにいたのは先程まで王の間にいた全員だった。

「皆の者、お待たせしてすまない。これより、戴冠式を執り行いたいと思う」

「「「……………」」」

今すぐにでも叫び出したい衝動に駆られるが戴冠式は最も神聖な行事。それの邪魔をすることは激情の中であっても流石に憚られた。

「フォレスト国、第15代目国王アース・フォレストの名において、ここに宣言する。第一王子ディース・フォレストおよび第二王子エース・フォレストを第16代目国王とする。この国に生きる全ての者達に樹神ユグドの加護があらんことを………」

数秒の静寂の後、2人の王は声を揃えて言った。

「「甚く光栄に存じます。王として、誰にも恥じることのない国作りができるよう、精一杯務めさせて頂く所存でございます」」

「「「「「うおおおおおっ~~~~!!!!!」」」」」

瞬間、国全体が歓声を上げたと思うほどの声が上がり、凄まじい地鳴りがした。国民達の反応は実に様々だった。涙を流す者、歓喜のあまり抱き合う者、興奮して踊り出す者など。共通していることといえば誰もがこの瞬間を喜んでいるということである。

「皆の者、聞いてくれ」

そんな中、国民達を見渡しながら新たな王であるディースが口を開いた。この一言はとても効果的だった。一体誰が新王の言葉を遮れようか。これによって国民達は一斉に口を閉じることとなった。

「第16代目国王に就任したディース・フォレストだ。王の間でのやり取りを見ていた者は知っていると思うが……………私はつい先程まで全く別の理想を思い描いていた。今、思うとなんて自分勝手で傲慢で横暴なのだろう。そんなことにも気が付かなかった。私はとても大切なものを見失っていたんだ。最初から本心を隠し、できもしないと蓋をした。そして、いつしかその本心すら忘れ去っていた……………だが、寸前で目を覚ますことができた。それは一度外れた道から元の正しい道へと戻してくれた者がいるからだ。その者のおかげで私は今、ここに立つことができている」

国民達はただただ黙って新王の言葉に耳を傾けた。また一言一句聞き逃すことのないよう、真剣な眼差しで見つめていた。

「続いて第16代目国王に就任したエース・フォレストだ。私もディース同様、本当の理想がいつの間にか偽物の理想とすり替わり、王に就任した暁にはとんでもない国家を作り上げようとしていた。しかし、それも寸前で踏み止まることができた。私の本心に心を込めて訴えかけ、本来の理想を思い出させてくれた者がいるからだ。私が今、ここに立っているのはその者のおかげだ」

直後、目を閉じた2人の王。そこから数秒程経ち、再び目を開けるとこう言った。

「「私達はこの国を平和で皆が幸せに笑い合いながら暮らせるものにするとここに誓おう!!」」

「「「うおおおおおっ~~~!!!」」」

「「「ディース国王様~~~!!!」」」

「「「エース国王様~~~!!!」」」

そして、皆が沸き立つ中、興奮冷めやらぬうちにとばかりに新王達はとある者を国民達から見やすい場所へと連れ出した。

「ち、ちょっと!」

「「この者が一番の功労者だ!!」」

「「「うおおお~~~リース様~~~!!!」」」

連れ出されたのはリースだった。本人はあまり納得のいっていない顔をしているが国民達へは笑顔を振り撒いた。

「リース様~!お聞きしたいことが!」

「何でしょう?」

そんな中、1人の国民が質問を投げかけた。それに対してリースは笑顔を向けながら、すぐさま反応を返した。

「ディース様とエース様が国王となられた今、リース様はどうされるおつもりですか?」

瞬間、ピリつく現場。第三者から見た時にリースは後継者争いに敗れた立場だ。だからこそ、そこは繊細な部分であるはずだし、誰もが聞きたいが聞けないと諦めかけていたのだ。

「ん?僕?僕はこの国の王になるつもりはなないよ?それから、この国にも永住する気はないから。ね?シンヤ?」

「あぁ~~っと。悪い、お前ら。この国守ってやるから、リースを俺にくれ」

しかし、あっさりと答えたリースとその後のシンヤの発言も含めて国民は呆然とした。しかし、それも数十秒。しばらくすると再起動した国民達は声を揃えてこう言った。

「「「「そんなあぁ~~~!!!」」」」

この日のことはこれまでのフォレスト国の長い歴史の中で最も大きな出来事として語り継がれていくこととなる。そして、この光景をリアルタイムで見ていた者達にとっては一生忘れることができないだろう……………リースのとても晴れやかで美しい笑顔と共に。
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