俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第145話 3人目

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「真意…………でございますか?」

突然、告げられた予想外の言葉にエースはたじろぎながらも何とか反応した。王の間を包む並々ならぬ緊張感は依然続き、端にいる貴族は何故か嫌な予感がして大量の冷や汗を流し、渇いてくる口内を潤す為に生唾を飲み込んだ。王の脇に控える側近も表情が強張り、自然と武器を持つ手に力が入った。一方、そんなことは露知らない王と女王はただただ悠然と玉座に腰掛け、王子達の様子をつぶさに観察している。

「そうだ。そろそろ後継者を決めなければならないからな……………そこでこの機会に一度、お前達の真意を問いておこうと思ったんだ。国王となったお前達はどんな国家を目指し、そこには一体どんな想いがあるのかを。いわば、公約を掲げて欲しいんだ。ワシの前ではっきりとな」

「「……………」」

いきなりすぎる言葉に表情が険しくなる王子達。貴族達は驚き慌てふためきながら王を見つめ、側近は怪訝な顔で王を一瞥した。女王はそんな状況を優しい穏やかな表情で見守りながら、これから起こることを見届けようと姿勢を正した。

「……………お父様、あなたはいつも急すぎる。今回の後継者決めのことだって…………」

「エース、今は王子として公の場でお前に接している。そういう時はワシのことを何て言うんだったか?」

「はっ!?し、失礼致しました!"フォレスト王"!あまりに突然のことすぎて、つい…………」

「パニックになってしまったか?まぁ、言い訳だな。王ともなれば、もっとイレギュラーなことが沢山ある。その度に言い訳などしていても国民は納得せん。とにかく、今のは減点対象だな」

「そ、そんな…………」

「ふんっ、馬鹿め。調子に乗って発言するから、こうなる。俺みたいに様子を窺っていればいいものを」

「ぐっ……………」

「暢気に優越感に浸っているがお前も減点だぞ、ディース」

「なっ!?何故ですか!?わ、私はこいつのように余計なことは発言していないではありませんか!」

「他者の失態、それも実の弟のを嘲笑うような者は国民を想うことなど到底できんからな。それとお前は一番最後に到着したにも関わらず、悪びれもせず堂々としていた。大方、自分の方が兄貴だからと勝手なルールを設け、遅れてもいいと驕っていたのだろう。はっきり言うがお前はエースよりもただ早く産まれただけでそこに地位の差はない」

「だ、だったら何故"第一"という肩書きがあるのですか!差を生む為ではないのですか!」

「それは便宜上のもので何もお前の方が偉いという訳ではない。"差別"ではなく"区別"だ」

「ぐっ……………で、でしたら違う部分に異議を申し立てます!私が悪びれずに堂々としていたとのことですが、フォレスト王は今すぐ王の間に来いと仰っただけでそこに詳しい集合時間はありませんでした!なので、私がペコペコとする理由など何一つ……………」

「お前は国民に一大事が起こった時にもそのような御託をつらつらと並べるのか?時間の指定がないからなんだ?ワシは今すぐ来いと言ったのだ。であるならば、準備を簡潔に済ませ、一秒でも早く行動するのは当たり前のことだ。そんなこともできないような者に国など到底任せられんな」

「くっ……………」

「……………とこれらが現時点でのお前達の評価な訳だが、今からはさらに公約まで聞かせてもらう。これで分かっただろう?もう既に審査は始まっているのだ。心して掲げよ。ただし、ワシの目を気にして嘘などついても無意味だからな。そんなことをしたところでワシの目は誤魔化せんし、何より国家を運営していく上でいずれ必ずボロが出てくるからな」

「「………………」」

「さて、ではいよいよお前達の真意を聞かせてもらおうか」





――――――――――――――――――――




「私、ディース・フォレストの目指す国家は武装国家にございます。平和に毎日変わらぬ暮らしを続けていくだけではいつか他国から襲撃を受けた際、とてもではないが太刀打ちなどできません。そこで今一度、武力を持ち対抗する術を確保することの重要性を国民へと投げかけ、私が王の座に就いた暁にはフォレスト国を完全なる武装国家へと様変わりさせてみせましょう。しかし、それには多額の費用や人手が要ることでしょう。問題はその捻出先ですが………………これは主に国民にございます。具体的に申し上げますと税金を一時的に高くし、まだ身体の動く国民また滞在している冒険者を兵士として活用するつもりでございます。もちろん、最初のうちは反発がいくらかあることは承知の上です。ですが、これは国家存続の為になくてはならない通過儀礼のようなものなのです!ネガティブな感情を抱いていた国民もいずれは分かることでしょう。私がいかに国や民を想い、行動しているのかを………………」

「なるほどな…………よし、分かった。じゃあ次はエース、お前の番だ」

「かしこまりました。私、エース・フォレストの目指す国家は法治国家にございます。これはフォレスト国にいる全ての者は法の下、生きていかなくはならないという考え方でございます。私が王の座に就いた暁にはフォレスト国を完全なる法治国家へと様変わりさせてみせましょう。具体的には国民の言動の全てを監視し、それが法に触れるようなものなのかどうかを逐一チェックさせて頂きます。一度問題を起こすとブラックリストに登録され、監視・チェックされた言動が上へと報告される仕組みでございます。とはいってもそんな国家にする為にはやはり多額の費用や人手が要ることでしょう。それは国民またこの国に滞在中の冒険者によって賄うつもりです。もちろん、最初のうちは反発がいくらかあることは承知の上です。ですが、これは国家存続の為になくてはならない通過儀礼のようなものなのです!ネガティブな感情を抱いていた国民もいずれは分かることでしょう。私がいかに国や民を想い、行動しているのかを………………」

「……………お前達の真意はよく分かった。そして急ではあるのだが、今この場で3人目の後継者候補の真意も問いてみたいと思う」

「3人目…………だと!?」

「ま、まさか…………」

「何を驚いている?ワシは初めから3人の中から後継者を選ぶと言っていただろう?」

「で、ですがあいつは…………」

「待たせてすまんな。少々時間を食った。もう出てきてもいいぞ」

「はい、フォレスト王!」

その人物は全員に見守られながら、王の間の中心に突如として姿を現した。その様はまるで何もない虚空からいきなり現れた妖精か何かのように感じられた。透き通る声、線の細いしなやかな身体、中性的で誰もが目を留めるほど綺麗な容姿。窓から差し込む光によってより神々しさの増したいでたちはこの場にいる誰よりも目立っていた。

「リース・フォレスト、ただいま参上仕りました。皆々様、今日に至るまでご心配・ご迷惑をお掛けし大変申し訳ございませんでした。私はこの通り、至って健康体にございます」

3人目の後継者候補、リース・フォレスト。彼女の自信に満ちた立ち振る舞いはこの場にいる多くの者を圧倒していた。
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