123 / 416
第9章 フォレスト国
第123話 雑貨屋
しおりを挟む
雑貨屋"D・ローズ"。ローズが店長を務め、灰組の組員達が店員をしているこの店はレストラン"ラ・ミュラ"の反対側にあった。雑貨屋というだけあって様々なものが売られており、日用品から嗜好品、非常時に使えるものなど、その種類は多岐に渡る。基本的には低価格・高品質を掲げているものの、人々が日常生活で必要といえばそうだが中々、手に入らないものは少し高めに設定してある。特に固形石鹸やボディーソープ、それからシャンプーや洗剤などはこの世界には存在しておらず、そういったものがそれに含まれる。初めてクランメンバーにそれらを作って渡してみた時の反応は今でも忘れられない。皆、驚き喜んで今では全員、食器洗いや風呂が楽しみでしょうがないみたいだ。で、せっかくだから傘下のクランにも配ってみるとこれが大好評で大金を出すから早く欲しいと毎日せっつかれるようになった。それほど日用品に対する欲求はあるのだ。その為、全事業の中でも客数・売り上げともに最も成果を出す結果となった。やはり、人間が生きていく上で必要なものは売れる。ちなみに一番売れているのが飲料・食料品で次が日用品、そして三番目が回復薬である。噂が噂を呼び、毎日とんでもない数の客が来店するようになり、店が広いとはいえ、満員になるのを防ぐ為、1人30分までの滞在を提示せざるを得ないほど忙しい。本来であれば、それだけの客を捌くだけのスピードや立ち仕事を続けるだけの持久力、それから長時間の仕事をこなす体力などは常人では中々、持ち得ない。しかし、彼女達は一流の冒険者という顔も持っている。それぐらいのことはお手の物だった。したがって問題となるのは別の部分である。それは単純な接客術や会計時での対応、商品への理解だ。雑貨屋を始める前から俺は1つ心配があった。それは大量に押し寄せてくるであろう客に対して戦闘を主な仕事とする冒険者が果たして、しっかりと対応できるのかということだ。俺はおそらく、ここが一番忙しくなると踏んでいた。なんせ、少し値は張るものの、日用品を筆頭に他では買えない商品がずらっと並んでいるのだ。これで売れないはずがない。雑貨屋をやりたいと一番に言い出したローズもそれは分かっているはずだ。勝算もなく思い付きだけで言った訳ではないだろう。だが、組員達にまでその大変さを理解させ、技術や知識を店員として満足のいくほどにまで成長させるのはかなりの根気がいる。そう思っていた。一方で彼女達に対しては絶大な信頼を置いていた為、もしかしたらオープン日までにとんでもない成長を遂げるのではないかという期待もあった。そして、今回はその期待の方に応える形となった。ローズは俺達と出会い、この世には悪い人間ばかりではないと学んだことでより多くの人々と触れ合いたいとの思いから、意欲的になり、今では店長として立派な立ち振る舞いができるようになっている。ケンタウロス族である組員達も外で他の種族の者達と店員として交わる機会があることは非常に好ましいと積極的に仕事を覚え、今では接客がとても丁寧かつ温かいと街の人々の間では評判らしい。そんなこんなで俺も1人の客として、それらの真偽を確かめるべく、こっそりと訪れたのだが………………
「あら?シンヤじゃない。もしかして、視察?」
速攻でバレた。まぁ気配も隠していなかったし、普通に歩いていたから見つかるのは時間の問題だったはずだが……………それにしても早くないか?
「そうだ。相変わらず、繁盛してるな」
「おかげさまでね……………何か買っていくの?」
「ああ。これとこれとこれ。あとはこれを……………お前達に。休憩中にでも食べろよ?」
「え!?いいの?」
「ああ」
「ありがとう!本当シンヤって、気が利くのよね」
「そうか?」
「そうよ」
「そんなことないぞ?俺はただ……………」
「ただ?」
「大切なお前達には疲れて倒れて欲しくないからな」
「大切!?そ、そんないきなり!?って、まさかプロポーズ!?う、嘘!?心の準備が」
「なんかどっかで見たことある反応だな……………妄想が飛躍しすぎてる」
「ふ~…………落ち着いて落ち着くのよ、ローズ。シンヤだって忙しい中、こうやって待ってくれてるんだから」
「いや、もう行くぞ。店員達にも軽く質問があるからな」
「ち、ちょっと待ちなさいよ!もうワタシのターンは終わり?」
「安心しろよ。帰ったら、ちゃんと相手をしてやるから」
「あ、相手!?一体、何の!?」
「落ち着け。客が見てるぞ」
「へ?」
その後、ローズは我を忘れているところをガッツリ見られていたことの気恥ずかしさから、そそくさと業務へと戻った。俺も俺とて視察の続きを行い、さっきの二の舞になるまいとなるべく簡潔に済ませ、さっさと店を出た。入り口を見ると相変わらず、長い列が作られており、それに対して軽く頷いた俺は次の目的地へと向かった。
「あら?シンヤじゃない。もしかして、視察?」
速攻でバレた。まぁ気配も隠していなかったし、普通に歩いていたから見つかるのは時間の問題だったはずだが……………それにしても早くないか?
「そうだ。相変わらず、繁盛してるな」
「おかげさまでね……………何か買っていくの?」
「ああ。これとこれとこれ。あとはこれを……………お前達に。休憩中にでも食べろよ?」
「え!?いいの?」
「ああ」
「ありがとう!本当シンヤって、気が利くのよね」
「そうか?」
「そうよ」
「そんなことないぞ?俺はただ……………」
「ただ?」
「大切なお前達には疲れて倒れて欲しくないからな」
「大切!?そ、そんないきなり!?って、まさかプロポーズ!?う、嘘!?心の準備が」
「なんかどっかで見たことある反応だな……………妄想が飛躍しすぎてる」
「ふ~…………落ち着いて落ち着くのよ、ローズ。シンヤだって忙しい中、こうやって待ってくれてるんだから」
「いや、もう行くぞ。店員達にも軽く質問があるからな」
「ち、ちょっと待ちなさいよ!もうワタシのターンは終わり?」
「安心しろよ。帰ったら、ちゃんと相手をしてやるから」
「あ、相手!?一体、何の!?」
「落ち着け。客が見てるぞ」
「へ?」
その後、ローズは我を忘れているところをガッツリ見られていたことの気恥ずかしさから、そそくさと業務へと戻った。俺も俺とて視察の続きを行い、さっきの二の舞になるまいとなるべく簡潔に済ませ、さっさと店を出た。入り口を見ると相変わらず、長い列が作られており、それに対して軽く頷いた俺は次の目的地へと向かった。
3
お気に入りに追加
581
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
スキルハンター~ぼっち&ひきこもり生活を配信し続けたら、【開眼】してスキルの覚え方を習得しちゃった件~
名無し
ファンタジー
主人公の時田カケルは、いつも同じダンジョンに一人でこもっていたため、《ひきこうもりハンター》と呼ばれていた。そんなカケルが動画の配信をしても当たり前のように登録者はほとんど集まらなかったが、彼は現状が楽だからと引きこもり続けていた。そんなある日、唯一見に来てくれていた視聴者がいなくなり、とうとう無の境地に達したカケル。そこで【開眼】という、スキルの覚え方がわかるというスキルを習得し、人生を大きく変えていくことになるのだった……。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる