俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第123話 雑貨屋

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雑貨屋"D・ローズ"。ローズが店長を務め、灰組の組員達が店員をしているこの店はレストラン"ラ・ミュラ"の反対側にあった。雑貨屋というだけあって様々なものが売られており、日用品から嗜好品、非常時に使えるものなど、その種類は多岐に渡る。基本的には低価格・高品質を掲げているものの、人々が日常生活で必要といえばそうだが中々、手に入らないものは少し高めに設定してある。特に固形石鹸やボディーソープ、それからシャンプーや洗剤などはこの世界には存在しておらず、そういったものがそれに含まれる。初めてクランメンバーにそれらを作って渡してみた時の反応は今でも忘れられない。皆、驚き喜んで今では全員、食器洗いや風呂が楽しみでしょうがないみたいだ。で、せっかくだから傘下のクランにも配ってみるとこれが大好評で大金を出すから早く欲しいと毎日せっつかれるようになった。それほど日用品に対する欲求はあるのだ。その為、全事業の中でも客数・売り上げともに最も成果を出す結果となった。やはり、人間が生きていく上で必要なものは売れる。ちなみに一番売れているのが飲料・食料品で次が日用品、そして三番目が回復薬である。噂が噂を呼び、毎日とんでもない数の客が来店するようになり、店が広いとはいえ、満員になるのを防ぐ為、1人30分までの滞在を提示せざるを得ないほど忙しい。本来であれば、それだけの客を捌くだけのスピードや立ち仕事を続けるだけの持久力、それから長時間の仕事をこなす体力などは常人では中々、持ち得ない。しかし、彼女達は一流の冒険者という顔も持っている。それぐらいのことはお手の物だった。したがって問題となるのは別の部分である。それは単純な接客術や会計時での対応、商品への理解だ。雑貨屋を始める前から俺は1つ心配があった。それは大量に押し寄せてくるであろう客に対して戦闘を主な仕事とする冒険者が果たして、しっかりと対応できるのかということだ。俺はおそらく、ここが一番忙しくなると踏んでいた。なんせ、少し値は張るものの、日用品を筆頭に他では買えない商品がずらっと並んでいるのだ。これで売れないはずがない。雑貨屋をやりたいと一番に言い出したローズもそれは分かっているはずだ。勝算もなく思い付きだけで言った訳ではないだろう。だが、組員達にまでその大変さを理解させ、技術や知識を店員として満足のいくほどにまで成長させるのはかなりの根気がいる。そう思っていた。一方で彼女達に対しては絶大な信頼を置いていた為、もしかしたらオープン日までにとんでもない成長を遂げるのではないかという期待もあった。そして、今回はその期待の方に応える形となった。ローズは俺達と出会い、この世には悪い人間ばかりではないと学んだことでより多くの人々と触れ合いたいとの思いから、意欲的になり、今では店長として立派な立ち振る舞いができるようになっている。ケンタウロス族である組員達も外で他の種族の者達と店員として交わる機会があることは非常に好ましいと積極的に仕事を覚え、今では接客がとても丁寧かつ温かいと街の人々の間では評判らしい。そんなこんなで俺も1人の客として、それらの真偽を確かめるべく、こっそりと訪れたのだが………………

「あら?シンヤじゃない。もしかして、視察?」

速攻でバレた。まぁ気配も隠していなかったし、普通に歩いていたから見つかるのは時間の問題だったはずだが……………それにしても早くないか?

「そうだ。相変わらず、繁盛してるな」

「おかげさまでね……………何か買っていくの?」

「ああ。これとこれとこれ。あとはこれを……………お前達に。休憩中にでも食べろよ?」

「え!?いいの?」

「ああ」

「ありがとう!本当シンヤって、気が利くのよね」

「そうか?」

「そうよ」

「そんなことないぞ?俺はただ……………」

「ただ?」

「大切なお前達には疲れて倒れて欲しくないからな」

「大切!?そ、そんないきなり!?って、まさかプロポーズ!?う、嘘!?心の準備が」

「なんかどっかで見たことある反応だな……………妄想が飛躍しすぎてる」

「ふ~…………落ち着いて落ち着くのよ、ローズ。シンヤだって忙しい中、こうやって待ってくれてるんだから」

「いや、もう行くぞ。店員達にも軽く質問があるからな」

「ち、ちょっと待ちなさいよ!もうワタシのターンは終わり?」

「安心しろよ。帰ったら、ちゃんと相手をしてやるから」

「あ、相手!?一体、何の!?」

「落ち着け。客が見てるぞ」

「へ?」

その後、ローズは我を忘れているところをガッツリ見られていたことの気恥ずかしさから、そそくさと業務へと戻った。俺も俺とて視察の続きを行い、さっきの二の舞になるまいとなるべく簡潔に済ませ、さっさと店を出た。入り口を見ると相変わらず、長い列が作られており、それに対して軽く頷いた俺は次の目的地へと向かった。
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