俺は善人にはなれない

第９章 フォレスト国

第１１８話 探偵事務所

３つの事業より開業が遅れること１週間。それぞれが結果を出し始め、上手いこと軌道に乗った頃合いを見計らい、同じくフリーダムの端であまり目立たないこの土地にまた１つ新たなサービスが誕生していた。その名も＂ドルツ探偵事務所＂である。ドルツが所長を務め、他の従業員は緑組の組員達で賄っている。業務内容は大きく分けて４つある。まず１つ目が素行調査だ。これは配偶者や子供をはじめとする親族や恋人の交友関係の把握・生活実態の調査がメインである。また雇用主からの依頼で被雇用者の勤怠状況の確認や副業規定違反の有無の調査、競合他店の関係者と接触を図っていないかなどの調査も行う。２つ目が浮気調査である。これは配偶者や婚約者の不貞行為の有無を調査し、証拠を確保することで場合によっては相手の住所や家族構成、職業・勤務先なども調査し、既婚・未婚等も確認することがある。とは言ってもこの世界では一夫多妻や一妻多夫が認められている。それでも尚、感情の収まりがつかないという者はいる。そういう者の為に用意された選択肢がこれである。そして、３つ目が行方調査だ。これは音信不通の親族や債務者などの居所を調査するもので探偵事務所を利用する者達の中では特に多いパターンがこれである。比較的、急を要する場合がほとんどで依頼者が焦って駆け込んでくるイメージである。最後は身元調査である。これは縁談相手の経歴や家族関係、職業などを把握するもので中にはストーカーや不審者などの住所や職業などの素性を調べて欲しいという依頼者もいる為、その調査もこれに含まれる。これらが主な業務内容になっているが例外として、どこかの国や貴族からの極秘の調査や口外できない裏での調査も一部請け負っている。ちなみにドルツだけでなく緑組の組員達も皆、しっかりとした指導が施されており、それぞれがいくつもの依頼を同時に１人でこなせるほど成長している。現在、開業してからまだ１週間しか経っていないが依頼者が途切れることはなかった。しかし、これまた人数制限をかけている為、１日で対応できるのは５０人となっている。いくら従業員達が有能であっても身体は１人１つである。時間的な制約と物理的な距離。これを考えると余裕を持って受理できる依頼の数がそれであった。ちなみにドルツを含めた従業員達は皆、探偵の仕事中は真っ黒なスーツをかっこよく着こなし街中を疾走している為、その姿を見た女性達の間では大きな話題となり、隠れファンが少しずつ増えてきているらしい。実際、探偵事務所に来る女性の依頼者が従業員目当てで依頼なんてなかったということもあったようだ。それにしても彼らの能力や熱意は凄いと言わざるを得ないだろう。ドルツ仕込みの探偵としてのコツやテクニックを仕事にまで発展させられるほどのセンス、それと仕事に対する熱量はそうそう他ではお目にかかれないものだ。しかし、それもこれも情報屋時代のドルツが根底にあってのものである。彼が今日まで築き上げてきた周りからの信頼度や功績。それがあるからこそ依頼者も安心して訪れることができるし、組員達も尊敬の念から、もっと頑張ろうとモチベーションを高く保ったまま、指導を受け、今では従業員として立派な立ち振る舞いができるようになっているのである。

「お、今日も頑張ってるな」

そんなことを考えていた俺がギルドの近くをたまたま通りがかると屋根の上を素早く移動する真っ黒なスーツを着た組員が目に入った。どうやら、今は仕事の真っ最中のようだ。上手く気配を消し、音を殺して移動している。よっぽどの実力者でなければ気付くことすら、できないだろう。尾行されているのが一体どんな奴なのかは分からないがこれだけは言える……………ご愁傷様です