俺は善人にはなれない

気衒い

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第9章 フォレスト国

第116話 事情

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「本当にすまん!知らなかったとはいえ、こんなことになって……………」

「い、いや…………隠していた僕も悪いし」

「いや、リースは悪くない。何か事情があっんだろ?それならば、俺がもっと早く気付くべきだった」

「たとえシンヤとはいえ、隠しているのに気付かれるのはまずいんじゃ…………」

「まずいのは無関係な者達に気付かれることだろ?俺ならばその秘密を共有して、何か力になれることがあるかもしれない。協力者は少しでもいた方がいいだろ?」

「で、でもただでさえ迷惑をかけているのにそんなことまで…………」

「迷惑なんてことはないし、お前の為だったら、そのぐらいはやってやるさ」

「シンヤ……………」

「まぁ、お前が嫌なら控えるがな」

「そ、そんなことない!その申し出はとても嬉しいよ!………………でも、どうして僕の為にそこまで?言っちゃ悪いけど僕達はただの依頼人と請負人の関係でしかないでしょ?出会ってまだそんなに経ってないし。むしろ、こうして依頼とは関係ないところでお世話になってる僕の方が恩返しとして何かするのなら分かるんだけど………………」

「……………確かに事実だけを見ればそうかもしれない。だが、これは感情の問題なんだ。お前とこれまで話をしてそこから人柄を少なからず知って、一緒に生活をしていく中で色々と分かってくることもあって……………一言で言えば、俺はお前のことが好きになったんだ」

「え!?」

「実はこれまでもそういうことがあった。フリーダムで出会った奴隷商人のミームもそこまで会話をしていなかったにも関わらず、その人柄や考えに惹かれ好きになったんだ。もしかしたら、初めて会った時から気に入ってたのかもしれないが」

「あ、"好き"ってそういう意味の…………」

「ん?どうした?」

「い、いや何でもない。そうなんだ……………はぁ」

「だから、リースのこともクランハウスにやって来た初日の段階から、気に入ってたんだ。これに関してはハッキリとした根拠がある訳ではなく、感情の問題なんだ。そこに理屈なんて入り込む余地はない。ただ俺がリースの為にできる限りのことをしてやりたい。それだけなんだ」

「何かそこまで言ってもらえるのはとても嬉しいけど、本当にいいのかな?僕はそんな大層な人間じゃない。確かに一国の王・女・ではあるけど、世界を救った英雄にそこまでしてもらう程の者じゃ……………」

「俺にとって特別な人間…………それだけじゃ駄目か?」

「っ!?シ、シンヤ!そ、そんな言い方されちゃ……………ズルいよ」

「?」

「はぁ~みんな苦労してるんだろうな…………冒険者としては超一流なのに」

「さっきから、どうした?時々、胸を押さえて苦しそうな顔をしているが」

「何でもないよ。きっと説明しても僕の気持ちを打ち明けるまでは理解してもらえないだろうし…………」

「そうなのか?」

「うん」

「そういえば、どうして男の振りなんてしていたんだ?こんなこと聞いていいのかは分からないが」

「別にいいよ。ってか、協力してもらうんだったら、むしろこっちが聞いてもらう立場なんだけどね。で、理由なんだけど……………一言で言えば、国の為だよ」

「国の為?」

「うん。実は僕、国王の隠し子なんだ。とは言ってもそれが分かったのは僕が8歳の時なんだけど。当時、僕は一般家庭の子供として母と2人で細々と暮らしていたんだ。でも、ある日お城の兵士が突然、家を訪ねて来て母と軽く話をして帰っていったんだ。その直後、母から国王との関係、そして僕のことを聞かされたんだ。曰く、国王がお忍びで訪れていた食堂の給仕係りが母で軽く話をする内にお互い、惹かれあって後に僕が誕生したと…………そして母はこうも続けた。国王が僕を第三王女として迎え入れたいと言っている。でも母的には普通の一般人がいきなり第三王女として現れたら、城の人間も国民も皆が困惑することになるのではないか…………と。そこで2人で話し合い、出した結論が性別を偽り、第三王子として生きていくということだった。いくら8歳とはいえ、それまでの人間関係から、僕がそのままの状態で王族として生きていけば、いずれ素性がバレてしまいかねない。そうなると母や僕、親しい者達へ何らかの被害が出てしまうかもしれない。それだけは避けなければいけなかった。だから、僕はそこから男として生きていくことを決意したんだ」

「………………」

「ちなみに僕のこの事情を知っているのは国王と母、そして執事のセバスだけだ。お兄様達でさえ、僕の本当の性別を知りはしない」

「そうか」

「ごめん。説明が長くなった」

「いや、とても短く感じたぞ。こうして、リースのことが知れて良かった」

「だから、そういう台詞をサラッと言われると…………」

「?」

「はぁ…………何でもない」

「……………とりあえず、これでリースの事情は分かったし、これからどうしていけばいいかも大方、見えてきた」

「ほ、本当!?」

「ああ。だが、その前にまずはやることがある」

「?」

「今はこの時間を堪能しよう。せっかく風呂で身体を休めてんだ」

「そうだね……………じゃあさ、隣に行ってもいい?」

「ああ。別にいいが……………」

俺達は少し離れたところで湯に浸かっていた。いくらタオルを巻いているからといって、リースを無理矢理、ここに引っ張ってきた手前、これ以上不快な思いをさせる訳にはいかなかったからだ。恋人でもない女性の入浴姿を直視する訳にはいかない。だからこそ、こうして離れた場所で入浴しながら話をしていた訳なのだが……………

「はぁ~それにしても気持ちいいよね~」

「ああ、そうだな」

どういう訳か、リースはその後俺の隣にピッタリとくっついて離れようとはしなかった。そして、それは俺が湯から上がるまで続くのだった。
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