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第8章 動き出す日常
第108話 戦闘訓練
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「うわ~凄い!ここは?」
「クランハウスの地下を改造して、戦闘訓練の場所にしたんだ」
「へ~…………じゃあ、あそこで戦っている人達が………」
「うちのメンバーと傘下のクランメンバーだな」
ノエのところを後にした俺達が次に向かった場所はクランハウス内にある戦闘訓練場だった。ここには弓矢の練習に使う的や試し斬り用の人形、また回避に使用する遮蔽物など様々な訓練ができるよう色々と完備してある。といってもここの管理担当者はカグヤで俺も逐一チェックしている訳ではない為、いつの間にか知らない設備が増えていることもあるが彼女が必要だと思ったのならば、それは間違いないだろう。戦闘に関して言えば、"十人十色"筆頭であり、クラン内で4番目に強い。当然、戦闘に関する知識も豊富であり、ティアやサラのチェックもある。だから、ここにある全ての設備は必要なものばかりなのだろう……………と目線の先にちょうど件の人物がいた為、俺は声を掛けることにした。
「お疲れさん、カグヤ。見回りか?」
「お、シンヤか!お疲れ!そうだ。無茶する奴がいるかもしれないからな。特に傘下のクランのメンバーは妙にやる気が凄くてな……………と、そちらの少年は?」
「ああ、こいつはリース。1ヶ月程、クランハウスで生活を共にすることになった。よろしく頼む」
「リースです!よろしくお願いします!」
「よろしく!…………ん?なんかどこかで見たことがあるような」
「以前、シリスティラビンの上級ダンジョンに行っただろ?そこで俺達に突然、絡んできた坊ちゃんだ」
「ん?……………ああ、あれか!へ~久しぶりだな」
「そ、その節は大変申し訳ございませんでした!」
「気にすんなよ!シンヤとこうして一緒にいるってことはもうとっくに許されてんだ……………だが、次はないからな?」
「ひっ!は、はい!気を付けます!」
「おぅ!」
「で、いきなりで悪いんだが見学させてもらってもいいか?今、こいつを色々なところに案内していてな。どうやら、ここにも興味があるみたいだからな……………だろ?リース」
「うん!生でこんなところを見れるなんて中々ないよ!お城の中でも兵士の訓練は見たことないから」
「…………ということなんだ。カグヤ、大丈夫か?」
「問題ないぜ!ちょうど始まるみたいだからな。見ていくといい」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
――――――――――――――――――――
「"黒天の星"蒼組副長のアルスだ」
「"威風堂々"幹部のラストだ!今日はよろしく頼む!」
「ああ。じゃあ早速だが、打ち込んでこい」
「分かった!…………はっ!」
「はいよっ」
「っ!!重いっ!」
「踏み込みが甘いぞ!もっと重心を意識して、自分の身体を自然な形で動かすんだ!」
「くっ…………こうか!」
「もっとだ!動きの流れに身を任せろ。効率的に最小限の労力で威力を出すよう常に意識するんだ……………といってもそれが出来てない冒険者がほとんどだろうがな」
「自然に…………重心を意識して…………なら、こうだ!」
「おっ、少しはマシになったな。お前、センスあるな!」
「そ、そうか!よし」
「そこで気を抜くと足元を掬われるんだよな…………ほっ!」
「ぐはっ!…………容赦ねぇな」
「当たり前だろ!敵はこちらの事情や身体を心配して待ってはくれないぞ!それがたとえ魔物であっても人であってもだ…………これは実戦を想定した訓練だ。お前もこの間の教徒との戦いでそれを思い知っただろう?」
「………………」
「俺達、冒険者はいつどんな時にどんな目に遭うか分からない。皆、それを理解した気になっているだけで本当の意味で理解してはいない。現にこうして講釈を垂れている俺ですら、この間まではただの世間知らずのガキだった」
「そうなのか?副長だから、てっきりキャリアが長いのかと」
「俺が"黒天の星"に入ったのは……………もっと言うと冒険者になったの自体が1ヶ月前だ。それまでは確かに毎日大変だった。食を確保して、家族を守らなければならなかったからだ。このクランに入ってからはその苦労はなくなったが代わりにもっと大変なことが待っていた。それが冒険者としての活動だ。それはこれまで漠然と抱いていたイメージを軽々飛び越える程の力を求められる職業だった。魔物の討伐や盗賊との戦い、いつどんな敵が襲ってくるか分からない世界……………そういったものを全てこの1ヶ月間、みっちりと叩き込まれた。結果、自分で言うのもなんだが俺は一回りも二回りも成長した。精神的にも肉体的にも強くなった今なら分かる。以前の自分がどれだけ世間知らずだったかを。そして、そうなったからこそ"十長"や幹部以上の方々の強さがどれだけ化け物じみているのかも分かった。……………お前も確かシンヤ様に影響されて、もっと強くなりたいと思ったんだろ?」
「ああ…………あの人には感謝している。こうして生まれ変わるキッカケを与えてもらったからな。しかも今では俺達はその人の傘下だ。こんなに嬉しいことはない。本当にとんでもなく大きな人だ」
「当たり前だ。シンヤ様はいずれこの世界の歴史に名を残す御方だ。それは会って会話した者ならば、誰もがそう思うだろう。まぁ、本人は相当自己評価が低く、なおかつそんなご大層な人物になりたくはないと思っているだろうが……………でも、周りがほっとかないさ」
「だろうな。必ずトラブルや大きな出来事の渦中にいそうだ」
「なんだかお前とは話が合いそうだな」
「だろう?だから…………もう少し手を抜いて訓練してくれないか?」
「それは出来ない相談だな!はっ!」
「くっ!少しくらいいいだろうが!」
――――――――――――――――――――
「あれはアルスと…………」
「"威風堂々"のラストだな。何やら時折、話しながら剣を交えているようだが…………ん?今、何か通じ合っていたな」
「う、うわ~!凄い!剣のスピードが速すぎて、ついていけないよ!」
「まぁ、モールが副長に選ぶくらいだからな。あれぐらいは出来て当然だろう……………っと、そういえば今日は蒼組がここを使う番だったか?確か、組員が交代制で使ってたよな?」
「ああ。モールや他の組員達も"威風堂々"のメンバー達を指導しているぞ」
「そうか。じゃあ、ついでに俺も参加するかな」
「なっ!?じ、じゃあアタシと模擬戦をしてくれよ!こういう時ぐらいじゃないと二人きりで出来ないから」
「まぁ、周りに大勢いるけどな」
「揚げ足を取るなよ!で?いいのか?」
「ああ、構わない…………リース、少し待たせるがいいか?」
「うん!僕もシンヤが戦うところ見たい!」
「分かった。じゃあ、やるか」
その後、久しぶりにカグヤと少しだけ激しい模擬戦をしているとそれに気付いた周りの者達が一斉に集まって、観戦していた。中には必死に何かを書き殴っている者もおり、皆興奮状態で盛り上がっていた。そして、模擬戦が終わった瞬間、俺の元にやってきて色々と話しかけてきた為、全てに答えていると皆満足した顔で再びそれぞれの訓練へと戻っていった。これは後で聞いたことだが、その日の訓練はこれまでで一番活気に満ち溢れ、身につくものも多かったみたいだ。カグヤからは定期的に訪れて欲しいと言われたから、暇が出来たら行くと答えておいた……………余談だが、訓練場を後にする時、リースとの距離がより縮まっていることに気が付いた。それに対して、なんだか釈然としないものを感じつつ、俺達は次の場所を目指した。
「クランハウスの地下を改造して、戦闘訓練の場所にしたんだ」
「へ~…………じゃあ、あそこで戦っている人達が………」
「うちのメンバーと傘下のクランメンバーだな」
ノエのところを後にした俺達が次に向かった場所はクランハウス内にある戦闘訓練場だった。ここには弓矢の練習に使う的や試し斬り用の人形、また回避に使用する遮蔽物など様々な訓練ができるよう色々と完備してある。といってもここの管理担当者はカグヤで俺も逐一チェックしている訳ではない為、いつの間にか知らない設備が増えていることもあるが彼女が必要だと思ったのならば、それは間違いないだろう。戦闘に関して言えば、"十人十色"筆頭であり、クラン内で4番目に強い。当然、戦闘に関する知識も豊富であり、ティアやサラのチェックもある。だから、ここにある全ての設備は必要なものばかりなのだろう……………と目線の先にちょうど件の人物がいた為、俺は声を掛けることにした。
「お疲れさん、カグヤ。見回りか?」
「お、シンヤか!お疲れ!そうだ。無茶する奴がいるかもしれないからな。特に傘下のクランのメンバーは妙にやる気が凄くてな……………と、そちらの少年は?」
「ああ、こいつはリース。1ヶ月程、クランハウスで生活を共にすることになった。よろしく頼む」
「リースです!よろしくお願いします!」
「よろしく!…………ん?なんかどこかで見たことがあるような」
「以前、シリスティラビンの上級ダンジョンに行っただろ?そこで俺達に突然、絡んできた坊ちゃんだ」
「ん?……………ああ、あれか!へ~久しぶりだな」
「そ、その節は大変申し訳ございませんでした!」
「気にすんなよ!シンヤとこうして一緒にいるってことはもうとっくに許されてんだ……………だが、次はないからな?」
「ひっ!は、はい!気を付けます!」
「おぅ!」
「で、いきなりで悪いんだが見学させてもらってもいいか?今、こいつを色々なところに案内していてな。どうやら、ここにも興味があるみたいだからな……………だろ?リース」
「うん!生でこんなところを見れるなんて中々ないよ!お城の中でも兵士の訓練は見たことないから」
「…………ということなんだ。カグヤ、大丈夫か?」
「問題ないぜ!ちょうど始まるみたいだからな。見ていくといい」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
――――――――――――――――――――
「"黒天の星"蒼組副長のアルスだ」
「"威風堂々"幹部のラストだ!今日はよろしく頼む!」
「ああ。じゃあ早速だが、打ち込んでこい」
「分かった!…………はっ!」
「はいよっ」
「っ!!重いっ!」
「踏み込みが甘いぞ!もっと重心を意識して、自分の身体を自然な形で動かすんだ!」
「くっ…………こうか!」
「もっとだ!動きの流れに身を任せろ。効率的に最小限の労力で威力を出すよう常に意識するんだ……………といってもそれが出来てない冒険者がほとんどだろうがな」
「自然に…………重心を意識して…………なら、こうだ!」
「おっ、少しはマシになったな。お前、センスあるな!」
「そ、そうか!よし」
「そこで気を抜くと足元を掬われるんだよな…………ほっ!」
「ぐはっ!…………容赦ねぇな」
「当たり前だろ!敵はこちらの事情や身体を心配して待ってはくれないぞ!それがたとえ魔物であっても人であってもだ…………これは実戦を想定した訓練だ。お前もこの間の教徒との戦いでそれを思い知っただろう?」
「………………」
「俺達、冒険者はいつどんな時にどんな目に遭うか分からない。皆、それを理解した気になっているだけで本当の意味で理解してはいない。現にこうして講釈を垂れている俺ですら、この間まではただの世間知らずのガキだった」
「そうなのか?副長だから、てっきりキャリアが長いのかと」
「俺が"黒天の星"に入ったのは……………もっと言うと冒険者になったの自体が1ヶ月前だ。それまでは確かに毎日大変だった。食を確保して、家族を守らなければならなかったからだ。このクランに入ってからはその苦労はなくなったが代わりにもっと大変なことが待っていた。それが冒険者としての活動だ。それはこれまで漠然と抱いていたイメージを軽々飛び越える程の力を求められる職業だった。魔物の討伐や盗賊との戦い、いつどんな敵が襲ってくるか分からない世界……………そういったものを全てこの1ヶ月間、みっちりと叩き込まれた。結果、自分で言うのもなんだが俺は一回りも二回りも成長した。精神的にも肉体的にも強くなった今なら分かる。以前の自分がどれだけ世間知らずだったかを。そして、そうなったからこそ"十長"や幹部以上の方々の強さがどれだけ化け物じみているのかも分かった。……………お前も確かシンヤ様に影響されて、もっと強くなりたいと思ったんだろ?」
「ああ…………あの人には感謝している。こうして生まれ変わるキッカケを与えてもらったからな。しかも今では俺達はその人の傘下だ。こんなに嬉しいことはない。本当にとんでもなく大きな人だ」
「当たり前だ。シンヤ様はいずれこの世界の歴史に名を残す御方だ。それは会って会話した者ならば、誰もがそう思うだろう。まぁ、本人は相当自己評価が低く、なおかつそんなご大層な人物になりたくはないと思っているだろうが……………でも、周りがほっとかないさ」
「だろうな。必ずトラブルや大きな出来事の渦中にいそうだ」
「なんだかお前とは話が合いそうだな」
「だろう?だから…………もう少し手を抜いて訓練してくれないか?」
「それは出来ない相談だな!はっ!」
「くっ!少しくらいいいだろうが!」
――――――――――――――――――――
「あれはアルスと…………」
「"威風堂々"のラストだな。何やら時折、話しながら剣を交えているようだが…………ん?今、何か通じ合っていたな」
「う、うわ~!凄い!剣のスピードが速すぎて、ついていけないよ!」
「まぁ、モールが副長に選ぶくらいだからな。あれぐらいは出来て当然だろう……………っと、そういえば今日は蒼組がここを使う番だったか?確か、組員が交代制で使ってたよな?」
「ああ。モールや他の組員達も"威風堂々"のメンバー達を指導しているぞ」
「そうか。じゃあ、ついでに俺も参加するかな」
「なっ!?じ、じゃあアタシと模擬戦をしてくれよ!こういう時ぐらいじゃないと二人きりで出来ないから」
「まぁ、周りに大勢いるけどな」
「揚げ足を取るなよ!で?いいのか?」
「ああ、構わない…………リース、少し待たせるがいいか?」
「うん!僕もシンヤが戦うところ見たい!」
「分かった。じゃあ、やるか」
その後、久しぶりにカグヤと少しだけ激しい模擬戦をしているとそれに気付いた周りの者達が一斉に集まって、観戦していた。中には必死に何かを書き殴っている者もおり、皆興奮状態で盛り上がっていた。そして、模擬戦が終わった瞬間、俺の元にやってきて色々と話しかけてきた為、全てに答えていると皆満足した顔で再びそれぞれの訓練へと戻っていった。これは後で聞いたことだが、その日の訓練はこれまでで一番活気に満ち溢れ、身につくものも多かったみたいだ。カグヤからは定期的に訪れて欲しいと言われたから、暇が出来たら行くと答えておいた……………余談だが、訓練場を後にする時、リースとの距離がより縮まっていることに気が付いた。それに対して、なんだか釈然としないものを感じつつ、俺達は次の場所を目指した。
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