俺は善人にはなれない

気衒い

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第7章 vsアスターロ教

第90話 迎撃

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世界中が大混乱に陥り、各地でアスターロ教の動きを阻止しようとクラン"黒天の星"のメンバーが駆け回る中、他の冒険者や戦える者達もただ黙って突っ立っているという訳ではなかった。

「かかって来いや!」

「クラン"永久凍土コキュートス"の力、見せてやるぜ!!」

以前、カグヤとクーフォが訪れた街であるサド。そこでカグヤ達に突っかかってきたカバナという男が所属していたクラン"永久凍土コキュートス"も積極的に街を守ろうと奮闘していた。あの一件があった後、ギルド内で一部始終を見ていた同じクランのメンバーがクランハウスへと急いで戻り、事の経緯を報告。これを聞いた者達は自分達がいかに驕り、また教育が徹底していなかったのかを深く反省した。それからは心を入れ替え、自分達の為だけではなく、街の為にもできることから貢献していこうと強く思い、今日まで過ごしてきた。それは何も魔物の討伐や採取依頼だけではない。街中で困っている人々のお手伝いにも尽力した。建物の修理や孤児院で子供達の相手、食堂での配膳や調理・清掃、また身体を動かしづらい人々の補助など…………全てボランティアでの作業。これは罪滅ぼしだという意識を持って行っていた。過去にももしかしたら、自分達が迷惑をかけてしまった人々がいるかもしれない。しかし、これは側から見たら良いことをしているように見せかけて、自分達が罪の意識から逃れようとする、または心を少しでも軽くする行為…………偽善だと捉えられてしまっても仕方がないと彼らは思っていたし、それを受け入れる覚悟もできていた。が、蓋を開けてみれば、そのような言葉を浴びせてくる者は1人もおらず、むしろ方々で感謝の言葉が飛び交っていた。彼らはとても大きなものを貰った。本当は人々に喜んでもらいたい、少しでも役に立ちたいという思いで何か与えることができればと思い、行っていたことがいつの間にか、自分達の方が救われていたということに気付いたのだ。人々と触れ合うことで癒され、沢山の思いを貰い、その期待に応えたいという気持ちが明日を生きる活力となる。彼らは毎晩、人々の優しさに涙を流し、もしも街を底知れない脅威が襲おうものならば、その時は全力で守っていこうと決意していたのだ。そして、今回、世界中を震撼させた組織、アスターロ教の魔の手が彼らのいる街にまで迫ってきた。彼らが今まで戦ってきた中で史上最大の敵。しかし、決して負ける訳にはいかない。何故ならば、彼らの後ろには絶対に守らなければならない人々がいるからだ。






所変わって、ここはシリスティラビン近くの森。ここで戦う冒険者達も以前、"黒天の星"と関わったことのあるクランのメンバーだった。その名もクラン"威風堂々"。シンヤ達がシリスティラビンを訪れた初日にギルド内で絡んできた者達が所属していたクランである。現在、ギルドマスターの采配により、シリスティラビンにいる全冒険者がアスターロ教との戦いに駆り出され、都市の周りを囲むように配置されている。そんな中、彼らは敵が攻め込んできやすく最も危険な場所を自ら志願して請け負っていた。理由は……………

「おい、ラスト!大丈夫か?無理するなよ」

「はい!でも、立ち止まっている訳にはいかないんです!マスターも見たでしょう?"黒締"のあの大立ち回りを!正直、俺は自分が情けないんです。初めて奴らを見たあの日、どこにでもいる新人冒険者だと侮って、慢心していたことを……………自分の現状に目を向けず、実力が下だと思う者を常に探していた日々を……………とても後悔しています。結局、マスターの言っていることは正しかった。彼らは……………とても偉大な冒険者達です」

「………………」

「だから、俺は生まれ変わって彼らのような存在になれるよう頑張るって決めたんです!影響されやすいとか、手のひら返しとか、どれだけ思われようが構いません!だって、これが今の俺の正直な気持ちですから!」

「……………そうか」

「はい!!そんな決意を新たにした一発目の冒険者としての活動がこれなんです!これは運命ですよ!"黒締"が宣戦布告した相手と戦えるなんて……………この戦いが終わった時、彼らに少しでも近付いていることを祈って俺は頑張りますよ!」

彼らが危険を顧みず、やる気に満ち溢れた表情で敵を殲滅せんとする、その理由とは下に見ていたはずだった、または実力に疑いを持っていた"黒天の星"というクランの力を目の当たりにしたからだった。魔道具越しにも伝わっていたのである。只者ではない存在感、溢れ出る自信、圧倒的な実力………………そして、この者達だけではない。クラン"黒天の星"に感化された者達は世界各地に数え切れない程いたのだった。







「おい、足引っ張んじゃねぇぞ!」

「それはこっちの台詞だよ」

「何だと?」

「こんな時にまで喧嘩は止めろ」

ラミュラとダートが戦場を変え、ブロンを解放した直後、シンヤ達もどこかへと消えたフリーダム。未だ混乱の収まり切らない街でブロンはフリーダムにいる全冒険者に街を守るよう指示した。そして、現在フリーダムで最強と言われている3つのクランは一番大事な箇所を固まって守るように配置されていた。そのクランとはこれまた以前、シンヤ達と対抗戦を行った"サンバード"、"フォートレス"、"守護団ガーディアンシールド"である。

「アスターロ教…………ふざけた連中だな」

「だね。奴らの行いは聞いているだけで胸糞が悪くなったよ」

「世界中に数え切れない程教徒がいて、それらが一斉に動き出しているそうだ。各地の戦える者達はそれらの掃討に当たっていると聞くが……………よくもまぁ、それだけの教徒を集めたもんだ」

「敵を褒めてどうすんだ。そんなことはどうでもいいだろ」

「ん?何か、いつにも増してイラついてない?」

「別にイラついてねぇよ」

「もしかして、彼らに出し抜かれたことが気に食わないとか?」

「今、"黒天の星"のことなんて話題に出してないだろ!」

「あれ?僕は彼らとしか言ってないんだけど?固有名詞は出してないはず」

「そ、そんなの…………この状況なら、あいつらしかいねぇだろ」

「…………まぁ、別にいいや。そんなことよりもそろそろ敵さんのお出ましみたいだよ」

「絶対にぶっ潰す!!」

「あまり、はしゃぐなよ?第一優先はあくまでも街の防衛なんだからな?」






これは余談であるが、各地で様々な幻獣達がアスターロ教の者達を次々に倒していく光景が目撃されていた。

「上から失礼!ここは拙者に任せてもらおう!"嵐気流"!!」

「うおっ!グ、グリフォン!?…………ってか、今、喋った!?ってか、敵が吹っ飛んでる!!」

その幻獣達は計6体。

「くっ……………これまでか」

「諦めるな!"闇ノ波ダーク・ウェーブ"!!」

「えっ!?ド、ドラゴン!?デカっ!!」

彼らは決まって窮地に陥っている者達のところへ現れた。

「くそっ!あともう少しでスキルが発動できるのに………」

「ならば我が時間を稼ごう!"光狼斬"!!」

「フ、フェンリル!?何故、"神狼"がこんなところに…………ん?よく見たら、何か咥えて…………って、剣を咥えてそれで戦ってる!?」

皆、一様に驚くが無理もない。普段は決して相見えることの出来ない存在だ。

「くらえ!この賊共!」

「助太刀します!" 水羅穿すいらせん"!」

「ユ、ユニコーン!?な、何でこんなところに……………ってあれ?どこかで見たことのある衣を纏っている気が…………」

しかし、驚いた後、次に目が行くのは彼らの身に付けているものにである。

「来るなら、来い!アスターロ教め!」

「ちょいとそこを代わってもらってもいいかの?」

「ん?誰だよ……………って"蛇王"バジリスク!?う、う、嘘だろ!?こんな時に!?」

「可哀想に…………こんなに怯えて。アスターロ教とやら、ワシがしっかりとお灸を据えてやるぞい" 濃毒霧射ポイズン・ミスト"」

「いや、お前のせいだわ!……………ん?そういえば、あの服装……………」

それは自由の街フリーダムにて、"魔剣"ブロン・レジスターを助け、アスターロ教の悪事を暴いた男の服装と全く同じものであった。

「燃え盛るが良い…………"炎盛鳥"」

「フ、フェニックスだと!?伝説の"不死鳥"…………初めて見た」

「助けを求める声が多く聞こえたので馳せ参じました」

風に靡く黒衣。響き渡る教徒の悲鳴。間一髪のところで命を救われた者達がチラリと幻獣達の身に纏うその服を見てみるとそこには決まって、とあるクランのマークがあるのだった。
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