俺は善人にはなれない

気衒い

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第4章 迷宮都市

第55話 とある冒険者の実績

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「おい、聞いたか?」

「ん?何をだ?」

「クラン"黒天の星"のことだよ」

「ああ、あれだろ?この都市で色々とヤンチャしたとかいう」

「この都市に来た初日にちょっかいをかけてきたAランククラン"威風堂々"のメンバーを8人返り討ちにし、その後、新たに加わった奴らの仲間が一部ギルド職員・冒険者から差別的な対応や非道な行いを受けていたとして、粛清。今後、クランのメンバーに余計なことをした場合は相手が誰であろうと許さないと堂々と発言したんだ」

「改めて聞くと、とんでもないな」

「だが、驚くべきことはこれだけじゃない。オークションではVIPルームにて、他の者の目も気にせず、大量落札。それに対して、いちゃもんをつけてきた貴族3人の内、1人を殺害した。貴族が先にナイフで命を狙ってきた為、正当防衛ではあるのだが、こんなことをすれば、その貴族の家族や親族から目をつけられるだけでなく、色々な方面を敵に回すことも考えられる。しかし…………」

「当初に言っていた"クランのメンバーに余計なことをした場合"ってやつだろ?でも、普通に考えて、そんなことするか?初日のだって、色々なクランやギルドを敵に回しかねない行為だぞ。それだけに飽き足らず、今度は貴族って……………」

「まぁ、でも今のところ、奴らの方から先に何かをした訳ではなく、全て相手側から受けたことに対しての返しだからな」

「いや、それにしたって普通はどこかで折り合いをつけたり、穏便に済ませようとするだろ?」

「普通普通、うるさいな。あいつらにはそんなものが通用しない………つまり、普通ではないんだろ?元々冒険者なんて、そのぐらい、ぶっ飛んでいた方がいい。何せ、常に魔物・人との殺り合いで死が隣り合わせなんだ。感覚や人間性、行動だって狂ってくることもあるだろ。そんなに普通を求める奴がいたら、冒険者なんて危険な職業を辞めて、自分で店を出したり、雇われで街中で安全に働いていた方がそいつには合ってるだろ」

「まぁ、そうだな」

「とにかく、その後も奴らは止まらなかった。初級・中級・上級と次々にダンジョンを制覇していき、ついに先日は特級まで制覇しちまいやがった。おまけにいつの間にか従魔まで引き連れるようになったしな」

「えっと、確か………グリフォンとドラゴンだっけか?」

「そうだ。で、ダンジョンについてだが、上級と特級に至っては地図や情報が出回ってなかった為、それも金と引き換えに売り出して、今じゃ奴らに続けとばかりに連日、ダンジョンには大勢の冒険者が列を作っているみたいだ」

「は~そりゃ、すごい実績だな」

「まぁな。今回のことで様子見をしていた他のクランや高ランク冒険者がこぞって、"黒天の星"を危険視するようになったしな。色々な意味で」

「そりゃそうだろうな」

「いずれにせよ、次に奴らがどんな行動を起こすかが重要だな。ランクも下手したら、一国の軍隊を超える程にまでなったからな」

「確か、初日の時点で"黒締"はSSランクになったとは聞いたが、他のメンバーもか?」

「ああ。副クランマスターとその補佐はSS、幹部は全員S、それ以外はAらしい」

「…………戦争でも起こす気か?」

「俺もそう思った。だが、ギルドは贔屓したり、脅しには屈しない独立組織。審査は公平なはずだ。しかし、それだけの戦力になれば、もはや一国の軍事力を有しているといっても過言ではない。ともかく、俺達が言えることはたった一つだ」

「"奴らには極力、関わってはならない"だろ?」

「ああ」




――――――――――――――――――――



「"黒天の星"………忌々しいクランだ」

「いかが致しましょうか?」

「とりあえずは静観を貫こう。聞けば、奴らは絡んできた相手にのみ、制裁を加えるらしい。何もしなければ、どうということはない」

「かしこまりました」

「大事なのは一時の感情に左右された行動ではなく、クランの存続にある。我々はこんなところで躓いている場合ではないのだ」





「おい、ただいま戻ったぞ!」

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「帰ってきて早々だが、急いで国王との謁見を申し出てくれ」

「かしこまりました。どのような文言で?」

「簡潔にこう述べよ…………取り急ぎ、ご報告したいことがある、と」





「軍を編成しろ!早急にだ!全戦力を投じても構わん!」

「国王様!お待ち下さい!相手はたかが下賤な冒険者。そこまでする必要はないのでは?」

「………その下賤な冒険者ごときに馬鹿にされたまま、ワシにおめおめと引き下がれとそう言いたいのだな、大臣?」

「いえ、滅相もございません!ただ、予算や人員を使い過ぎますと国力が低下し、たとえ、その冒険者を討ち果たしたとしてもその隙を他国に狙われかねないかと………」

「何を言うておる!そんなのはワシらだけでなく、国民にも協力させればよいではないか!税金として金を巻き上げ、冒険者だけでなく男であるのなら、国民にも戦に強制参加させれば………」

「そんな無茶な…………それにそれだけで問題は解決しませんぞ」

「ええい、うるさい!ワシに逆らうのか?ならば、貴様を投獄するぞ!」

「そんな馬鹿な」





「こちら、ーーー。本日のご報告です」

「頼む」

「はい。先日は初級ダンジョンを制覇したところまでお話しましたよね?」

「ああ」

「ではその続きから…………彼らはあの後、中級・上級、さらには特級までのダンジョンもなんなく制覇し、個々人のランクだけでなく、クランのランクも上がりました」

「なるほど。ちなみにどんな感じに?」

「クランマスター・副クランマスター・副クランマスター補佐がSS、幹部が全員S、それ以外がAランクです」

「………奴らにはそれだけの実力があると?」

「はい。単純な戦闘能力・ダンジョンの制覇にかかった時間、実績などを考慮して、そうなったみたいです」

「ギルド側がそう判断したのなら、そうなのだろう…………にしても、奴らの力はもう一国の軍事力に匹敵する程だな。いや、もしかしたら、それ以上かもしれん」

「…………例えば、彼らを抹殺しようと一国の軍事力が投入されたとしてもそれに耐え得るだけの力が彼らにはあると?」

「いや、それどころか返り討ちにして、その国自体を滅ぼしかねない。それほど奴らに与えられた冒険者ランクがとんでもないということだ。なにせ、Aランク以上しか所属していないクランなど前代未聞だからな。それにTOP3がSSランク…………奴らの目的は一体、何なんだ?」

「それは分かりかねます」

「そうか………では引き続き、監視を頼む。何かあれば、また報告を」

「かしこまりました」

「あと、くれぐれも余計なことはするなよ?もしかしたら、そういう馬鹿な連中が今後、出てくるかもしれんが、我々だけは絶対に乗っかってはいけない。常に冷静に対応することを心掛けろ」

「承知致しました。それにしても余計なことをする連中……………もしかしたら、どこかの国が既に動き出していたりして」

「それは妄想が過ぎるぞ。よりによって、組織ではなく国などと…………詳細のよく分からないクランに対して、国ぐるみで対処する、そんな馬鹿なことがある訳ないだろう。考えてもみろ。それ程の能無しが今日まで生き残れている訳がない」

「ですよねー」

「お前も馬鹿なことを言っていないで、気を引き締めて任務に当たれ」

「かしこまりました」

「では健闘を祈る」
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