俺は善人にはなれない

気衒い

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第3章 動き出す陰謀

第38話 特別演目

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「皆様、本日は大変お疲れ様でした。ではそれぞれお持ちの旗をお出し下さい」

対抗戦が開始されてから数時間後。俺達は集合場所へと再び、集まっていた。結果発表を行う為だ。さすがにこの頃には気絶した者達も起き出しているらしく、他のクランもちゃんと参加している。ちなみにジャッジは公平を期すためにギルド側に日時と場所を伝え、対抗戦用の審判の派遣を要請しておいた。

「"守護団ガーディアンシールド"、0本」

「"サンバード"、0本だ」

「"フォートレス"、0本だよ」

「"黒天の星"、4本だ」

「はい、ありがとうございます。ということは…………勝者、"黒天の星"です!」

高らかな声が音声の魔道具を通して、響き渡る。なぜ、そのような物をわざわざ用いる必要があるのか。その理由は今回の対抗戦が他のクランが今まで行ってきたものと少々異なる点があるからだ。それは………

「皆様、彼らのご活躍いかがだったでしょうか?今回の対抗戦で今まで謎に包まれていたAランククラン"黒天の星"の実力、ご覧になられたと思います!本当に素晴らしかったです!お疲れ様でした!そして、惜しくも敗れてしまった3つのクランの方々も大変お疲れ様でした!ここにその健闘を称えましょう!ありがとうございました!」

今回、なんとフリーダムの街に映像の魔道具を使って中継されていたのだ。この件に関しては2週間前の段階でギルド側から要望があり、特に問題ないと全員が判断した為、行われることとなった。俺としては需要があるのか甚だ疑問だったのだが、ギルドの熱意が尋常ではなかったから、何か理由があるのだろう。

「しかし、これで終わりという訳ではありません!この後に控えますは…………当ギルドマスター、ブロン・レジスターと"黒天の星"との特別演目エキシビションマッチでございます!」

もちろん、ギャラはちゃんと貰っている。タダで引き受ける気などは初めからない。だから、それなりの働きをするとしよう。

「さぁ、まずはこのお方…………冒険者ギルドフリーダム支部ギルドマスター、ブロン・レジスターだ!"魔剣"の二つ名を持ち、齢73である今日まで数々の偉業を成し遂げてきたこの老が……いや、老人!鍛え抜かれた肉体と弛まぬ努力、そして何より、これまで多くの冒険者に指導を行い、沢山の有名冒険者の生みの親とまで称される程となっています!中でも"剣聖"、"疾風"、"豪雷"、"光槍"は現在でも活躍しており、数少ないSランク冒険者にまで成長を遂げています!」

「最初の方で少し気になった部分があったが…………まぁ、良い。じゃが、あまり褒めるでないぞよ。なに、昔取った杵柄じゃ」

「しかし、最近では体臭………特に口臭がキツくなり、周りからの評判はガタ落ち。本人が自覚なく、それを振り撒く様は老害というより、もはや公害。これによって、冒険者・ギルド職員のみならず、なんと近隣住民にまで被害が出る始末。彼が出勤しているかどうかでその日のギルド職員のモチベーションまで変わってしまうという…………実際、臭いし、ちょっとキモいです」

「おぉーい!ワシ、そんななの!?ってか、みんな酷くね!?」

「さて、続きましては"黒天の星"の方々ですが………誰が戦われますか?」

「無視かい!別にいいもんねー。お前ら、職員の給料下げてやるから」

「こちらからはスィーエルとレオナを出そう」

「おおっと、ここにきて未だ情報のなかったメンバーの登場だ!皆さん、ご存知の方がほとんどでしょうが、つい2週間前までは"黒天の星"のメンバーといえばクランマスターであるシンヤさん含め全部で8名。いずれもランクはB以上で強者揃いということでしたが、今日こちらにお見えになった時には新たに3名増えていました。1人は長年、フリーダムで情報屋として活動していたドルツさんだとすぐに分かったのですが、残りの2名の方に関しては全く情報がなく、姿から種族を判別するのも不可能です。なぜなら、身体にこういった特徴を有する種族に心当たりがないからです!であるならば、彼女達は一体、何者なのか?その答えがこのエキシビションマッチにて、明らかとなりそうです!なんだか、ワクワクしてきましたね!そして、全てが終わった後、ドルツさん含めた3名にも二つ名が付けられることはまず、間違いないでしょう!……………では、両者、前へお願い致します」

「…………そんなに臭いかの?…………どれ、試しに自分で嗅いでみようかの………せーの、は~~~~…………ぶはっ、臭っ!え、臭っ!な、なんじゃこの臭い!一体、何を食ったら、こんな………」

「ではマスター、行ってくるデス。ミーの実力、しかとその目に焼き付けやがれデス」

「ボクが勝ったら、いっぱい褒めてもらうの」

「お前ら、気を付けろよ。もう気配で分かっていると思うが、あの口臭ジジイは他の雑魚共とは一線を画す。お前らの実力なら、まず負けることはないと思うが、油断で足元を掬われたら話にならん。もし、そうなったら、お仕置きだからな」

「「ひぃっ、お仕置き怖い!!」」

「ちなみに俺じゃなくてティアのだからな?」

「「それはもっとダメ!!」」

「エル、レオナ?それはどういう意味ですか?」

「「ひいっ、ごめんなさい!!」」

「これじゃあ、まるで私がいじめているみたいじゃないですか………」

「ティア、ドンマイ!」

「カグヤ………数時間前とは打って変わって随分と余裕そうですね。ま、それはそうですよね。なんせ、シンヤさんからご褒美を頂けるんですから……………もしかして、あなたもお仕置きされたいんですか?」

「いや、なんで!?」


――――――――――――――――――――


「まずはミーから、いくデス!」

「どっからでもかかってきなさい」

「そのつもりデス!」

「ほ~一体、何を担いでおるのかと思えば………お主、大剣使いか」

「そうデス!」

「その華奢な身体でよくやるの………ではワシも遠慮はせんぞ…………どうやら、最初から本気でやらねばならない相手のようじゃしの」

「ミーも決して油断しないデス」

「ふむ、良い心掛けじゃの。ま、シンヤのクランメンバーなら当然かの」

「"聖域"、そして"神格化"発動!」

「んなっ!?何やら、またとんでもない強さとなったようじゃの」

「アナタがこちらに1歩でも近付けば、とてつもない苦痛が襲いかかるデス。それでもいいなら、とっとと来やがれデス」

「見え見えの挑発じゃが………いいじゃろう。乗ってやるぞい。どれ………これが1歩目で………あばばばばばこれはばばばばちときづいいいいいい」

「"縮地"」

「ん?一体、どごににににぃ………はっ、はっ、はっ………あれ?苦痛が収まったぞい」

「チェックメイト、デス」

「いつの間にワシの後ろに………これではまるであの時と同じではないか」

「さっさと負けを認めやがれデス」

「ワシの完敗じゃ………いや、見事」

「よし、やったデス」



――――――――――――――――――――



「次はボクなの」

「お手柔らかに頼むぞい…………あ、先程の嬢ちゃん、回復ありがとうのぅ」

「臭っ!あまり近付くなデス!もっと離れやがれデス!」

「ひ、酷いっ!」

「"速度・強度上昇・目標追尾"付与」

「あれ?紫の嬢ちゃん、もう始めようとしておらんか?」

「ここで結果を出して、盟主様にいっぱい褒めてもらうの」

「うむ。何事もやる気があるのはいいことじゃが………ちと張り切りすぎじゃないかの?ワシ、まだ準備できとらんのじゃが」

「それは自業自得なの。そんな言い訳、戦場では通用しないの」

「お主、シンヤの教育が染み込みすぎじゃないかの?」

「ボクの教育担当は主にティアなの」

「"銀狼"の嬢ちゃんかい!お主ら、揃いも揃って、物騒じゃぞ!少し寛容な心をじゃな………」

「"紫踊監"」

「ええい!待ったなしかい!ではこちらも全力で迎え撃つぞい!」

「気を付けるの。今、投げたその紫の円月輪チャクラムはボクの意思か相手が生き絶えるまで止まらないの。だから、早めに参ったして欲しいの」

「なんのこれしき!剣で受け止めれば………って、おろ?き、軌道が全く読めん。一体、どこから襲ってくる…………ぐはっ」

「いくら強靭な肉体であろうと受け止めることは不可能に近いの。ボクの得物はもっと強いのだから」

「ぐっ………じゃが、いくら衰えたとてワシにも威厳というものが」

「大丈夫なの。お爺ちゃんのことを心底馬鹿にしてる人なんて、この街にはいないの。だって、お爺ちゃんはボク達を除けば、この街で一番強いんだから…………だから、ね?お願い。参ったして。これ以上、お爺ちゃんをいじめたくないの。もし、まだ続けるんだったら…………もっと痛くしなきゃいけないの」

「っ!とんでもない殺気じゃの………これはダメじゃ。参った!ワシの負けじゃ」

「やった!勝ったの!」



――――――――――――――――――――



「では3名の方々、お疲れ様でした!皆様、特別演目エキシビションマッチは楽しんで頂けたでしょうか?私は興奮しました!あれだけ可憐なお2人があそこまで強いとは………間違いなく、ファンが急増したでしょうね。ですが、くれぐれも"黒天の星"の方々に今後、ご迷惑をおかけしないようお願い申し上げます!迷惑をかけず、ひっそりと応援する分にはいいと思いますが、たまに暴走してしまう方がいらっしゃるのでね…………はい!ではこれにて今回のクラン対抗戦ならびに特別演目エキシビションマッチを終了したいと思います!皆様、改めて本当にお疲れ様でした!ありがとうございました!」



――――――――――――――――――――



「で、話したいことって何だ?」

全てが終わった後、ギルドマスター室へと呼ばれた俺達。何やら、そこで話したいことがあるらしい。

「お主のクランメンバーのランクを上げようと思っての」

「へ~いいのか?」

「ランクとは本人の希望と実力に応じて、つけるもんじゃ。じゃから、今から上がるのはシンヤ以外、全員じゃぞ。お主らも特に異論はないじゃろ?」

「そういうことなら、頼むわ」

「やった!シンヤさんと一緒のランクです!」

「ま、まぁ。そこまで上げたいというのなら、別に上げてくれてもよろしくてよ」

「やったぜ!これでアタシはもっと高みにいける!」

「ふんす!」

「恐縮です」

「そんなことをして、ギルマスの立場は大丈夫なのかのぅ」

「それは今更であろう」

「お、俺もか?登録してから、まだ2週間しか経っていないんだが…………依頼もこなしてないし」

「ありがとうデス!早く上げやがれデス!」

「エル、前後の文がおかしいの」

「よし、じゃあ上げるぞい。ちなみにティア・サラ・カグヤ・ノエ・アスカがS、イヴ・ラミュラがA、それ以外はBじゃ」

「分かった。ありがとう」

「あ、あと」

「?」

「今すぐという訳にはいかないのじゃが…………現在、ギルドの本部に申請中での」

「何の話だ?」

「シンヤ、お主をSSランクにしたいと思っておる」
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