俺は善人にはなれない

気衒い

文字の大きさ
上 下
7 / 416
第1章 青年、異世界に降臨す

第7話 冒険者ギルド

しおりを挟む


「着いたな」

「ようやくですね」

「やれやれですわ」

森を出て三日。早く街を見てみたい俺達は全速力で駆け抜けてきた。道中、色々な厄介事の匂いを瞬時に嗅ぎ付けてはそれを回避。魔物や盗賊も無視して、突き進んできた。それもこれも全ては街中を見て回りたい。ただ、それだけの為に。好奇心とは大変恐ろしいものである。一度、魅力的なものが現れるとそれに囚われてしまって、他が疎かになってしまうとはよく言ったものだ。気を付けねば。

「あまり並んでなくて良かったな」

「時間帯的なものもあるんでしょうね」

「運が良いですわ」

俺達は現在、入門者の手続きを行う列に並んでいる。そこでは身分証の確認や犯罪履歴などの調査・簡単な聞き取りが行われている。こうした怪しい者を街中へと入れない為のチェックはこの世界では基本である。そして、そのことを事前に把握している俺達はどういった受け答えをするのか決めていた。

「次の者、前へ」

「ああ」

返事をして、前へと進む。どうやら順番が回ってきたようだ。

「身分証は?」

「ない。これから、冒険者ギルドへ行って三人分作ってもらう」

「……何か訳ありのようだな。じゃあ、とりあえず、犯罪履歴の確認と入門税の徴収をさせてもらう。後でギルドでカードを作って、ここへ持って来たら、その税金分は返してやるから、ちゃんと覚えておけよ」

「分かった。だが、今は金を持ってない。代わりに魔物の死体を売った金で払うというのはできるか?」

「いや、死体って言ったって、お前達は手ぶらじゃないか」

ここまでの会話は大方、予想通り。ならば、こちらも予定通りの返しでいくことにした。俺は何もない空間に手を突っ込む動作をした直後、そこから魔物の死体を十体ほど取り出し、地面へと叩きつけた。

「これでどうだ?」

「なるほど、アイテムボックス持ちか!」

「足りないか?」

「いや、そんなに出さずとも一体で十分お釣りが来るさ。ちょっと待ってろ。今、換金してきてやる」

そう言って、その門番は別の門番に俺達の相手を任せて、どこかに向かっていった。代わりにやってきた門番が冒険者ギルドで換金してきている最中だから、少し待っていてくれと言っていた為、この場で待つことにした。そこから十分後、息を切らせながら、門番が戻ってきた。

「悪い、待たせたな」

「いや、こちらこそ、悪いな。換金できたのか?」

「ああ。それで、ここから、税の分を引いて……ほれ、これがお釣りだ」

「ありがとう」

「あとは犯罪履歴のチェックと簡単な聞き取りだが…」

「それは待ってる間に済ませた」

「そうか。なら、もう行っていいぞ……ようこそ、フリーダムへ。これから、よろしくな」

「こちらこそ」


――――――――――――――――――――


「賑やかですね~」

「騒々しいくらいですわ」

珍しくテンションの高い二人を連れて、街中を練り歩く。屋台や服屋、武器屋、宿屋……
目に入るだけで多業種の店が並んでいる。それぞれ客の呼び込みを行っているところもあれば、独自のスタイルの客寄せをしているところもあるがいずれにしても人の数が多い為、営業に困ることはないだろう。だが、そんな人様の仕事事情などどうでもいい。俺が気になるのは……

「この街には多種族が入り乱れてるんだな……」

この世界の種族については既に把握済みだが、街・都市・国それぞれの風土や歴史において、一種族だけしか居住を許していないところやそれとは反対に多種族共存の考え方を浸透させているところもある。この街はどうやら、後者寄りの考え方のようだ。……だからといって、どうということもない。仮に一種族しか認められていないのだとしても俺は俺のやりたいようにやる。それを邪魔する奴がいるのなら、力でねじ伏せればいいだけの話だ。

「お前ら、色々と気になるのは分かるが、まずは冒険者ギルドへ行って身分証を作るのが先だ」

「そうでした…」

「いよいよですわね」

「あと、以前レベル上げの最中にも言ったと思うが、自重する必要は一切ないからな……やりたいようにやれ」

「「はい(ですわ)!!」」

――――――――――――――――――――


「ここだな…入るぞ」

俺はゆっくりと扉を開けて、ギルドの中へと入っていった。見るからに年季の入った木造建築に真昼間からする酒盛りの匂い、耳を塞いでも聞こえてくる酔っ払い達の耳障りな声、そして美人な受付嬢……想像通りの光景がそこには広がっていた。これぞ、冒険者ギルドである。

「……ん?何だ、お前ぇ。見ない顔だな……新人か?まぁ、いい。それにしても可愛い女を連れてるじゃねぇか……両方、俺によこせよ」

早速、よく分からない奴に話しかけられたが、当然無視して受付へ。こんなゴミに使っていい時間などアレをする時以外ないのである。

「お、お前、無視するとはいい度胸してんじゃねぇか……この俺を誰だと思っていやがる……いいか?この俺様はあの」

「登録料に銀貨1枚で身分証も発行できると……よし、あとはギルドの説明をお願いできるか?」

「は、はい!」

俺の後ろをチラチラと見ながら、対応する受付嬢。何故かは分からないが、青ざめた表情をしている。一体、なぜだろう?本当に分からない………ちなみに貨幣価値は以下の通りである。(銅貨1枚は日本円で1円相当)

銅貨100枚→銀貨1枚
銀貨1000枚→金貨1枚
金貨1000枚→光金貨1枚


「で、では冒険者ギルドについて、ご説明をさせて頂きます。冒険者ギルドとは冒険者に依頼を斡旋したり、依頼主との仲介や冒険者として知っておかなければならない最低限の知識の享受・冒険者生活を送る上で利用した方がいい施設の紹介といった冒険者のサポートを主な役割とする国が介入することのない独立した自治組織です」

「ふむふむ」

「ギルドへの登録料は銀貨1枚。これをお支払いして頂いた時点でギルドカードが発行され、晴れて冒険者となります。ギルドカードは身分証(偽造不可能)としてもお使い頂けますが、主な機能はステータス表示と魔物の討伐数記録、そして金銭の預金・引き出しです」

「へ~」

「冒険者となられた皆様にはまず、初心者講習の受講をお勧めさせて頂いております。それ以外ですと教本をご購入頂くか図書館での閲覧にて、冒険者の基礎のご理解を深めて頂ければと思います。次に冒険者のランクについてです。下から順にF→E→D→C→B→A→S→SS→SSSとなっております。ランクによっての違いは受諾できる依頼難度・緊急依頼の強制力、ギルドからの信用などです。ランクを上げる方法ですが、試験を受けて合格して頂くかギルドマスターの推薦によってのみとなっております………ここまではよろしいでしょうか?」

「問題ない」

「かしこまりました。では続きまして、パーティーについてご説明させて頂きます。冒険者の方々の中にはソロではなく、パーティーで依頼を受注される方々がいらっしゃいます。パーティーとは上限を6名とする冒険者のチームのことを指します。パーティーの申請は受付からいつでも可能です。ちなみに7名以上が所属する冒険者の団体をクランと言いますが、設立条件としてリーダーの冒険者ランクがB以上となっております。また、クラン自体のランクはクランメンバーの冒険者ランクの平均となっております。余談ですが、パーティーやクランのメンバーの募集をギルド内の掲示板にて、行うこともできます」

「なるほど」

「最後に依頼の達成・失敗についてです。例えば、受注なさったのが討伐依頼の場合ですと先程も申し上げた通り、ギルドカードに魔物の討伐数が記録されていきますので、わざわざ魔物の死体をお見せ頂かなくても結構です。ただ、買い取り自体は行っておりますので、その際はお売り頂けると幸いです。その他の依頼内容の達成基準につきましては個別ごとに異なる為、またの機会とさせて頂きます。ではもし、仮に依頼を失敗してしまうとどうなるのか………これは失敗した原因が自身にあるのか、それとも他者にあるのかによって大きく異なります。自身にある場合は油断・過信・準備不足と見なされ、罰金として依頼達成報酬の1.5倍の金額をお支払い頂きます。原因が他者にある場合はその者に罰金をお支払い頂いた上、依頼を受注された冒険者様の活動状態が以前より悪化しているのであれば、それの回復に努めなければなりません。いずれにしても依頼は慎重に吟味して、選択なさることをお勧めします…………以上
が冒険者ギルドについてのご説明となっております。何かご不明な点はございますか?」

「ん~例えば、冒険者同士で揉め事を起こした場合は?」

「私共は関与致しません。……さすがにギルド内の物が壊れたりしたら、弁償して頂きますが」

「了解。あとは大丈夫だ。じゃあ、早速で悪いんだけど、ギルドカードの作成とパーティー申請を頼む」

「かしこまりました。ではこちらの必要事項にご記入の上、サインをお願い致します。また、ギルドカードの偽造防止の為にお三方それぞれの血を一滴ずつ頂戴致します。ご了承下さい」

「分かった」



――――――――――――――――――――



「ではこちらがギルドカードになります。……パーティー申請に関しまして、パーティー名はなし、リーダーはシンヤ様でよろしいでしょうか?」

「ああ、それで良い」

「初心者講習はどう致しましょうか?」

「大丈夫だ」

「かしこまりました…………これで全ての手続きが完了となります。では冒険者シンヤ様ご一行のこれからに幸多からんことを」

「ありがとう。俺はシンヤ・モリタニだ。これから、よろしく」

「私はマリーと申します。よろしくお願いします!!」


――――――――――――――――――――



「よぅ、やっと終わったか?あんまり待たせんじゃねぇよ、新人」

「二人とも腹減ってないか?リクエストがあれば聞いとくが」

「う~ん、何がいいか悩み所ですね……」

「私は憧れの冒険者になれただけでもう感無量……食事なんて今は喉を通りませんわ。なので、ゆっくりと見て回ればいいのではなくて?」

「……サラの言う通りかもな。よし、そうしよう」

俺達がこれからの予定を話し合いながら、出口へと向かっていると突然ゴミが目の前に立ち塞がり、こう言いながら、俺に斬りかかってきた。

「だから、無視すんじゃねぇ!俺様はかの有名なクラン愚狼」

「うるさい、ゴミが」

しかし、その言葉を最後まで言い切ることなく、そのゴミは首を刎ねられ死亡した。やったのはティアである。冒険者同士の揉め事にギルドは不干渉。ならば、自重する必要は一切ない。向こうはこちらを斬り落としにかかっていた。当たりどころが悪ければ、最悪、死んでいたのだ。であるならば、こちらもそれ相応の対応でいかせてもらう。これを放置しているギルドもギルドだが、無視したぐらいで斬りかかるなど正気の沙汰ではない。冒険者を生業とする者達の民度がここから窺える。

「私達なら、ともかくよりにもよって、シンヤさんに斬りかかるなんて、死んで当然です」

「え!?私なら、いいんですの!?」

二人が何か言い合っている内に素早く、ゴミのスキルチェック。……あんま、いいのないな………ん?このスキルはいいな。も~らい。


手に入れた固有スキルは以下の通りである。

金剛
MPを消費して、一定時間DEFに大幅補正。クールタイムがある。

火事場の馬鹿力
自身のHPが残り三分の一を切った時に発動。全ステータス2倍。

脳筋
一日一回しか使えない。MP・INT・LUKの値を1にし、HP・ATK・DEFの値を2倍にする。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...