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もう一つの世界線〜IF〜
第七話:熱
しおりを挟む「すみません、拓也先輩」
「いいんだよ。気にするな」
現在、俺は優梨奈の部屋で彼女の看病をしていた。
というのも例の処方された薬の副作用でたまに熱が出てしまうことがあり、今日がたまたまそうだったというだけだ。
別に風邪をこじらせたとかではない為、優梨奈は最初、俺の看病を断ったのだが、何とか説得してこうして部屋に上がらせてもらったという訳である。
「でも、今は大事な時期じゃないですか。ほら、文化祭のことを決めたりとか」
そうなのだ。
夏休みが終わり、学園での授業が始まってからどのくらい経った頃か。
既に夏休み気分も抜け、いよいよ普段通りの学園生活に戻ってきた俺達にとって、現在最も気になっているイベント……………それが文化祭だった。
「それに関してはラッキーだよ。ちょうど今日、文化祭の委員を決める話し合いがあるはずだから……………流石に欠席してる奴を選んだりはしないだろ。まぁ、そもそもその場にいたとて、俺が選ばれる訳なんてなさそうだけどな」
「いいえ。もしも、拓也先輩がその場にいたら絶対に選ばれてると思いますよ」
「そうか?」
「はい。なんせ拓也先輩ですから」
「いや、それ答えになってないから」
「うふふ」
「お、笑う余裕があるってことは看病の必要もなさそうだな」
「だから、最初にそう言ったじゃないですか」
「よし、分かった。じゃあ、俺帰るね」
「あ~待って下さいよ!帰らないで下さい!!」
「ん?だって、看病の必要はないんだろ?」
「意地悪言わないで下さいよ~………………ここまでいてくれたのに今、急にいなくなられたら寂しいじゃないですか……………う~」
「ごめんって。お詫びに優梨奈の気が済むまでここにいるから」
「えっ、本当ですか!?」
「ああ。断られたとて、無理矢理にでも居座ってやるぞ!こんな調子の優梨奈を一人残して、おちおちどこかへ行けるかってんだよ」
「拓也先輩……………」
うっ。
熱っぽい瞳でこちらを見つめてくる優梨奈はいつもの雰囲気と違って、なんかこうドキドキするような………………って!
熱っぽいってそんなの当たり前じゃないか!
実際に熱が出てるんだから!
俺はこんな時に一体何を考えてるんだ!
「と、とにかく!こんな時ぐらいは沢山甘えてくれ……………あ、そうだ。何かして欲しいこととかないか?例えば、頭の上に乗ってるタオルを替えて欲しいだとか、お腹が空いたから何か作って欲しいだとか………………」
「そうですね………………あ、それでいうと少しお腹が空いたんで"おかゆ"作って欲しいです」
「分かった。じゃあ、すぐに作ってくるから大人しく待ってるんだぞ」
「ちょっと!その言い方はまるで留守番させる子供に対してと同じじゃないですか」
「今の優梨奈はなんだか子供っぽいからな」
「え~」
そう。
子供っぽいと思っていないと何か別の余計なことを考えてしまう。
だから、俺は敢えてそう思うことにしたのだった。
「出来たぞ」
「うわ~美味しそう!」
土鍋に入ったおかゆをゆっくりと優梨奈の部屋のテーブルに置き、蓋を外してそこからお椀に少しだけ取り分ける。
この状態の優梨奈がお椀一杯を食べ切れるかは分からない為、ここは少しだけにしておいた。
もしも、足りなくなったら後で足せばいい。
それに急いで食べ切れなければならない訳でもないのだから。
「身体、起こせるか?」
「はい、大丈夫です」
そう言って、ゆっくりと身体を起こす優梨奈。
その目はおかゆが入ったお椀に釘付けだった。
「はい。ゆっくりと気を付けて食べるんだぞ」
「……………」
「ん?どうした?」
「……………さっき、沢山甘えてくれって言いましたよね?」
「ああ。言ったな」
「じ、じゃあ……………食べさせて欲しいです」
「っ!?そ、それって……………」
あの伝説の……………"あ~ん"じゃないか!?
えっ!?
それって都市伝説じゃないの!?
実在するの!?
「駄目ですか?」
お、おい。
そんなうるうるとした瞳で見るなよ。
そんなんされたら断れる訳ないじゃんか。
まぁ、そもそも甘えてくれと言った手前、断るはずもないんだが。
「わ、分かった……………」
「ありがとうございます!……………あ、ちゃんとフーフーして下さいね」
俺はレンゲでおかゆを掬い、要望通りにフーフーしてから、ゆっくりとそれを優梨奈の口まで運んだ。
「あ~ん」
「あ、あ~ん」
そして、優梨奈につられて何故か、俺までそんな恥ずかしいことを口にして、ようやくといった感じでミッションを終える。
「ん~!とっても美味しいです!!」
「そ、そうか」
心臓がバクバクと早鐘を打ち、顔が真っ赤になる。
これじゃあ、どっちの方が熱があるのか分からなかった。
まぁ、でもミッションは達成した!
とにもかくにも俺はやり遂げたんだ!!……………そう思った俺はその熱を冷ます為に一旦目を瞑って瞑想に入った。
「拓也先輩?」
「っ!?な、なんだ?」
「いや、二口目はまだかなと思いまして」
「………………へ?」
しかし、この時の俺は現実逃避からか、一瞬忘れていた。
そう。
まだ、これがほんの一口目だということを……………
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