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蒼最の昔日〜過去編〜
第二話:役目
しおりを挟むあの日を境に全てが変わった。
どんな力を使ったのか、まさに神業とも呼ぶべきそれは作物の育ちにくい土地を栄養満点の土壌に変え、緑の少ない地域には木々を、水が必要な地域には綺麗な川を、そして早急に食べ物が必要なところには豊富な食べ物を授けた。
これには神の存在に対し、半信半疑だった者達も流石に認めざるを得なかった。
そんな中、リジオンによって、新たな名を与えられた十二人はそれぞれが他のものも授かっていた。
それはおよそ人には行き過ぎた能力だった。
睦月は"運"の力、如月は"時間"の力、弥生は"変化"の力、卯月は"武"の力、皐月は"忍"の力、水無月は"思考"の力、文月は"豊穣"の力、葉月は"柔和"の力、長月は"一貫"の力、神無月は"統率"の力、霜月は"空間"の力、師走は"還元"の力……………といったような感じだった。
そして、ここからも分かるように本来、暦上で最初に来るのは"睦月"である。
しかし、リジオンはそれが"如月"であると言った。
彼女はここでもミスをやらかしていたのだ。
つまり、本当は睦月と如月の授かる能力が逆であったのだ。
これが後々にどう響いてくるのか、この時の彼らにはまだ知り得ないことであった。
★
「ちゃんとした組織のようなものが必要です」
そう発言したのは水無月だった。
彼女はリジオンから"思考"の力を授かっていた為、十二人の中では最も頭を使うことに長けていた。
その彼女がそう発言したのだ。
これに対し、反論する者など現れるはずもなかった。
「ちなみにどのようなものですか?」
如月がそう尋ねる。
彼は最初にリジオンから指名されたとあって、一応十二人の中でリーダー的な役割を担っていた。
しかし、それをよく思わない者もいた。
まず、第一に彼だけリジオンから特別扱いを受けているような気がして、それが気に入らない者、それから彼がリーダーの器に相応しくないと考える者……………主にこの二つのどちらかだった。
後者に至っては彼が優しくお人好しすぎるところといまいちカリスマ性に欠けるところが理由であり、そこに関していえば若干仕方ないような気もする。
「ふんっ。リーダー気取りが偉そうに……………」
「何だ?文句があるのなら、面と向かって言ったら、どうなんだ?」
しかし、如月の隣に控えるこの男、睦月。
彼は何があったのか、最初からずっと如月を支える副リーダーのようなポジションでおり、彼らの中で最も如月を信用・信頼している人物だった。
「い、いや俺は別に……………」
「ふんっ、腰抜けが。そんなすぐに引っ込むのなら最初から愚痴るな」
そして、彼がいるからこそ、如月にこれといった被害は今までなかったのだ。
「……………話を続けても?」
「ど、どうぞ」
水無月が至って冷静に切り出す。
こういったことは今までにも何度かあった為、流石に慣れてきたのだ。
如月も最初こそ驚いたものの、今では苦笑しながら話を促せる程にはなっていた。
「人は恩恵を受けた時、最初こそ感謝しますが段々とそれが当たり前のものだと思うようになり、しまいには初めからこうだったのではないかと錯覚するようにもなってしまいます」
「「「「「はぁ…………」」」」」
水無月のこの発言は彼らにはあまり響かなかった。
だが、それもそのはずだった。
まだ、彼らがそう感じる段階まで来ていないのだ。
だから、自分達がこの環境に溺れてそうなってしまうなど想像も付かなかったのである。
ところが、彼女にはそういった可能性のある未来が既に見えていた。
「いくところまでいった時、人間は……………私達は果たしてどんな行動に出るのか分かりません。だからこそ、誰かが人々の上に立ち、自治及び管理をしなければならないのです」
「とはいっても一体誰がそれをするのか……………」
如月が不安そうな声を上げる。
それはすぐ周囲にも広がり、段々と彼らは不安を隠せない表情をし始めた。
一方の水無月は全く表情を変えることなく、むしろ自信満々に胸を張りながら、こう言った。
「いるじゃないですか、ここに………………選ばれし十二人が」
「へ?」
「どうやら我々が役目を果たす時が来たようです」
水無月のその意見に彼らの多くが賛同した。
しかし、如月は未だ変わらぬ不安が心の奥底に溜まり続けているのを感じていたのだった。
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