窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第九十話:手作り

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 二月になった。

 この時期の男子達は浮かれだす。

 何を隠そう………………あの、世紀の大イベントが待っているからだ。

「どうせ、バレンタインデーでしょ?」

「な、何故分かった!?」

「あははは。分かりやすいね、如月くん」

「でも、男子なら、みんなそんなもんじゃないかな?……………僕は全く共感できないけど」

 珍しく放課後に俺とクレア、長月、神無月の四人で残って雑談をしていた。

 その流れでそういえばと俺が切り出したのだ。

「はぁ……………単純なのよ、あなた達は」

「う、うるせぇな!神無月と違って普通の男子にとっては生死を分けるイベントなんだよ!!これによって生まれるカースト、取られるマウント、そして貰えるのかチョコレート」

「す、凄い韻の踏み方……………」

「くっだらない。あなた達の生死って随分と安いのね」

「そりゃ、お前ら女子は高みの見物だから分からないだろうよ!!こちとら一年間……………いや、場合によっては去年からの成果が出る訳よ。これで男子は女子からどう見られてるか一発で分かるしな………………神無月は例外だけど」

「あの~僕の話、聞いてた?僕は別にバレンタインデーが嬉しくないんだけど」

「はぁ!?お前、何言ってんの!?毎年凄い数のチョコ貰ってんじゃん!!それなのに嬉しくないだと~!?今すぐ学園の男子達に謝ってこいよ!!あ、もちろん俺にもね」

「これを言うと自慢になるかもだけどさ、僕って昔から凄い量のチョコを貰ってきたんだよ……………毎年、毎年……………僕の立場になってみて欲しいんだけど……………それって辛くない?」

「いいや!辛くないね!チョコは貰えるだけいい!!」

「貰うっていっても如月くんが想像している以上の量でさ、とてもじゃないけど食べ切れないんだよ。だから、実家にいた頃は使用人の人とかにあげてたんだけど………………でも、それって作ってくれた人に失礼だなって。だって、その人は僕に食べて欲しくて作ってくれている訳じゃない?それなのに僕は食べてなくて………………それで次の日、学校に行くと訊かれる訳だよ……………"チョコ、お口に合ったかな?"って。僕はそれが辛くて申し訳なくて……………」

「……………ごめん、神無月。俺、無神経なこと言った。お前はお前で色々とあるんだな」

「ううん……………それにさ、やっぱりバレンタインは自分の好きな人に貰いたいじゃない?」

「っ!?そ、それはっ!?」

 俺は思わず、焦りながらクレア達の方を見た。

 すると、彼女達は彼女達で次の話にいっていたらしい。

 やけに途中から、静かだと思ったら、俺達の話聞いてなかったな?くそっ!!

「でもさ、男子が浮かれだすってことだけど女子も早い子は今から動きだすよね」

 ん?一体何の話だ?

「そうなのかしら?私は結構、遅い方よ」

「それは霜月さんの手際がいいからだよ」

「あの、さっきから一体何の話をしているの?」

 俺は途中で我慢ができなくなって思わず口を挟んだ。

「ん?チョコ作りの話だけど」

「………………へ?」

「拓也…………あなた、もしかしてみんながみんな、買ってきたチョコをそのまま渡してると思っているのかしら?」

「えっ、違うの?」

「はぁ……………もちろん、あなたが想像している通りにどこかで買ってラッピングしてもらったのを渡すっていう人もいるでしょう。でも、それは自分がチョコ作りがあまり上手くなくて、失敗してしまうよりは既製品でという考え方なのよ。渡すってことは少なからずその人に対して、日頃のお礼や親しみの気持ちがあるってことだから……………ようは気遣いよ。受け取って喜んで欲しいから、安牌を取るってことね」

「はぁ……………」

「それでもう一つが手作り。これは例えば、スーパーで板チョコなんかを買ってきてそれを砕いて………………まぁ、詳しい工程は省くけど、相手のことを思い浮かべながら愛情込めて時間を掛けて作っていくのよ」

「へぇ~」

「だからって、勘違いしないで欲しいのはこっちは別にその苦労を分かって欲しいとは思ってないの。ただの自己満足と言われてしまえば、それまでだから………………でも、もしも受け取ってくれたのなら、食べた感想くらいは欲しいなって………………」

「うん。そうだね」

 クレアの意見に賛同する長月。

 一方、横で聞いていた神無月は過去の誰かに謝っているのか、ひたすらに"すみません、すみません"と呟いていた。

 こ、怖いんだけど……………

「でも、意外だな……………霜月さんって比較的、裕福な家庭でしょ?だから、今までは高級チョコとかを買って、そのまま誰かにあげてたのかと思った」

 ん?クレアが誰かにチョコを………………ぐっ。

 過去のこととはいえ、こんなことで嫉妬する自分が小さい。

「私の場合は全て手作りよ。それも家族にだけ」

 そこでクレアは徐に俺を見つめると優しい表情でこう言った。

「だから…………安心して」

 くそっ!何て表情しやがる……………またまた惚れ直しちまったじゃねぇかよ!!






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