窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第八十五話:大晦日/お正月/初詣

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 本日、12月31日。

 今年最後の日であり、大晦日と呼ばれるこの日は各家庭ごとに様々な過ごし方がされていることだろう。

 そして、それは毎年変わらないといった者がほとんどなはずだ。

 かくいう俺も今年の初め頃はそうだろうなと漠然と思っていた。

 しかし、どうやら今回ばかりは違ったようだ。

「……………ん?誰だ?」

 家でのんびりとこたつに入ってテレビでも見ていたところ、急にチャイムが鳴ったのである。

 俺は少し億劫な気持ちになりながら、ドアを開けるとそこにはなんと……………

「突然、ごめんなさい。大晦日を一緒に過ごしたくて…………」

 少し照れた様子のクレアが立っていたのだった。

「迷惑だった?」

「い、いや、そんなことないよ。突然だったから、少し驚いてただけで」

「そ、そうよね。普通は驚くわよね」

「とりあえず、入る?」

「え、ええ。お邪魔させて頂くわ」






「何をしていたの?」

「こたつに入って、みかんでも食べながらのんびりテレビを見てた」

 リビングに通したクレアにこたつを勧めると彼女は少し嬉しそうにしながら、礼を言って入った。

 そして、俺もまた、こたつの反対側へと入り……………そうすると意外と近い距離で正面から向かい合う形となった。

 それにこのまま足を伸ばせば、お互いのどこかしらに触れてしまいそうだった。

 こたつって、結構狭いんだよな。

「よくある過ごし方ね」

「おっ、この定番を知ってるのか」

「馬鹿にしないでちょうだい。確かに少しだけ世間に疎いことはあるけれど、私だって頑張って勉強しているんだから」

「偉いな、クレアは」

「……………ごめんなさい。少しだけ嘘ついたわ。そこはツッコミとか、イジリがくると思って………………本当はこっちで一人暮らしをする前、祖父母の家でそういう過ごし方をしていたから、知っているだけなの」

「そうか…………いや、クレアは本当に頑張ってるからさ。何かあったら、言葉でも行動でも与えたくて」

「私を甘やかさないでちょうだい。私は本当はだらしない人間なの。すぐ誘惑に負けてしまうし、マイナスな感情に陥る。だから、常に頑張ってなきゃいけないのよ」

「でもさ、今日は」

 そこで言葉を切った俺はこたつから一旦抜け出して、クレアの近くに行くと彼女を後ろから抱き締める形でこたつへと入った。

「今日ぐらいはいいんじゃないか?」

「っ!?………………本当に?」

「ああ」

「知らないわよ?どうなっても」

「それは望むところだな。クレアのそんな姿、学園のどの男子も見たことないんだし」

「もぅ……………馬鹿」

 その時のクレアの表情は後ろからだったから、見えなかったが耳が赤かったのは確認できた為、推して知るべしだった。





        ★





 次の日。

 俺達の姿は神社にあった。

「あけましておめでとう。結構、混んでるわね」

「あけましておめでとう。そりゃ、初詣はな」

 結局、年越しまで一緒に過ごした俺達は蕎麦を食べたり、餅を食べたり、おせちを食べたり………………何か食べてばっかりだな俺達………………まぁ、とにかく正月の定番らしいことをした。

 それから朝早く、一旦自宅に帰ったクレアと再集合を果たしたのは昼の少し前だった。

 その時、神社前で待っていた俺の目に飛び込んできたのは着物姿のクレアだったのだ。

 どうやら、一旦自宅まで戻った理由がそれだったみたいだ。

「それにしてもよく似合ってるよ、着物」

「ありがとう。あなたにそう言ってもらえると着てきて良かったと思えるわ」

「クレア……………」

 確かに神社では未だに多くの人が列を作って並んでいる。

 だが、俺達にそんなことは関係なかった。

 なんせ、隣には愛しのマ~~~イハニーがいるのだから!!この時間こそ、至高なのだから!!

「……………だってさ!聞きました?奥さん」

「ええ!心の声、バッチリ聞こえましたとも!あと、付け加えて言うのなら、"この待ち時間も愛の調味料いいスパイスだ"ですよ!!」

「勝手にモノローグをするな!んなこと、考えてる訳ないだろ!!」

「「あれ?違った?」」

 そこにいたのは圭太と神無月だった。

 どうやら、俺達のすぐ側まで近付いていたらしい。

 気付かなかった。

「「俺達の言ったようなことを考えてたからか?」」

「勝手に人の心を読むな!!考えてないって言っただろ!!ってか、お前ら本当に仲良いな!!」

 まぁ、本当はほんの少しだけ考えてたけど……………本当にほんの少しだぞ?

「「え~?本当?」」

「……………なぁ、クレア?俺って、そんなに顔に出やすいか?」

「まぁ、その、何と言えばいいのかしら………………ドンマイ?」

「ガーーーン!!そ、それって、もう答え言ってね?」

「「ドンマイ!!」」

「うるせぇ!お前らのせいでこうなってるんだろうが!!」

「「あけましておめでとう!!」」

「どのタイミングで言ってんだよ!あけましておめでとう!」

 そこからはそいつらとも一緒に並んで参拝を済ませた後、甘酒を頂き、おみくじを引いてその場を後にした。

 ちなみに運勢は……………まぁ、その、色々と察してくれ。

 俺の方はそんな感じだったのだが、クレアの方も何やら難しい顔をして黙り込んでいた。

 一体どんなことが書かれていたのだろうか?

「あけましておめでとう。如月くん達も来ていたのね」

「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます。はい。あ、圭太と神無月も来てますよ」

 そういえば、帰り際に師走先生に会った。

「知ってる。さっき、会ったから」

「あぁ、なるほど。それで今の発言」

「……………先生、言うのが遅くなってしまってすみません。その………………色々とありがとうございました」

「ん?何のこと?」

「………………分かりました。先生がそのスタンスでいるというのなら、私もそこは一線を引いておきます。ですが、の気持ちも少しは汲み取って頂けると幸いです」

「………………」

「私は…………私達は先生に感謝していますので」

「霜月さん………………ううん。あなただけではない。みんな、変わったわね。これはいつかの誰かに言ったことだけど、とてもいい表情をするようになったわ」

「そう……………ですかね?」

「ええ……………やっぱり、隣にいる彼がきっかけかしらね?」

「ええっ!?俺!?ってか、さっきから何の話をしているんですか?」

「先生の言う通りです。私が変わったのだとしたら、それは彼によるものが大きいかと」

「なんか勝手に話が進んでいってる!?」

「霜月さん……………確かに私がこのスタンスを貫く以上、あまり表立って、あなた達にしてあげられることはないのかもしれない。でもね、これだけは言わせて」

 そこで一旦、言葉を切った先生は少しするとこう言った。

「この先、どんなことがあっても彼と一緒にいなさい。そうすれば、きっと大丈夫。あなた達なら、乗り越えられるわ」

「っ!?それって、おみ…………」

「じゃあね。私はもう行くわ………………冬休みが終わったら、また会いましょう」

 そう言って、先生は去っていった。

 後に残された俺達はというと少し呆然としながら、先生の背を見送った。

 まぁ、呆然とした理由はそれぞれ違うんだけどな。

 俺は終始、二人が何を話しているのか分からなかったが、一方のクレアは先生に言われたことで何か思い当たる節があるのか、神妙な顔をして黙り込んでしまったのだった。







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