窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第七十八話:サンタさん

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「うお~っ、寒ぃ~」

「そりゃ、11月だからな」

「こんな時、彼女でもいれば、て、て、手とか繋いで暖かくなれるんだけどな」

「赤くなるぐらいなら、言うなよ」

「う、うるせぇ!じゃあ、お前はどう思うんだよ?」

「そんなことしなくても大切な人は近くにいるだけで心が暖かくなれるぞ」

「サラッと言うな、おい!」

「ま、俺に彼女なんていねぇんだけどな」

「いねぇのかよ!じゃあ、何でそんなことが分かるんだよ!」

「彼女といえばさ、よくあるのが彼氏に内緒でプレゼントとか用意してて、それをクリスマスに渡すとかな」

「くぅ~いいなぁ~!それが手編みのセーターや手袋だと尚、良しだな!」

「だな!あぁ、この子は裏で俺の為にせっせと編んでくれてたのかって嬉しくなるやつ!」

「クリスマスか……………もう来月だもんな」

「その少し後に正月だぞ……………本当、一年が経つのはあっという間だな」

 教室で騒いでいる三人組。

 その話の内容に少し感じるところのあった俺は遠くを見ながら、こう呟いた。

「そうか。来月にはクリスマスが……………」






        ★




「来月にはクリスマスが控えています!で、クリスマスといえば、お二人さん!今年はどうするんですか!」

 学食の席に着くなり、優梨奈は突然そんなことを言い出した。

 しかもその内容がさっき少し考えていたことなだけに俺は若干焦りを感じた。

「い、いや、どうするって言われても……………なぁ、クレア?」

「え、ええ。どうするのかしらね、拓也」

 俺はチラチラとクレアを見ながら口籠もる。

 というのもクリスマスはクレアと一緒に過ごしたいと思っていたからだ。

 となると、それを今この場で優梨奈に伝えないといけなくなる。

 だが、俺はそれをこのタイミングで言うのは少し違うという気がしたのだ。

 こうして一緒に昼飯を食べる程の仲になった優梨奈にはそれこそ俺達の関係がちゃんとしたものになった時に伝えたいと思っている。

 だからこそ、クレアもこうして焦っているはずだ………………え?そうだよね?

「なぁ~んだ!お二人はまだ、決めていないんですね!」

「「ま、まぁ」」

 うん。

 嘘は言っていない。

 まだ、クリスマスを一緒に過ごそうと誘ってないし。

「ふふん!私はもう決めてますよ!………………サンタさんに何を貰うのかをね!!」

「「………………へ?」」

 俺とクレアは優梨奈のあまりにも衝撃的な発言を聞いた気がして、口を半開きにしたまま彼女を見つめてしまった。

 あれ?今、この子何て言った?

「聞き間違いだったら、ごめんなさい…………………今、サンタさんって言った?」

 うおっ!クレア、切り込むな~………………少し様子見をしようとした自分が恥ずかしい!ってか、クリスマスって、そっちのことか!

「言いましたよ!……………あれ?クレア先輩、もしかして」

「な、何かしら?」

「何か心にやましいことがあって、今年は来ないかもって心配してるんですか?駄目ですよ~良い子にしてなきゃ。私なんて、三ヶ月前からずっと良い子にしていよう!って頑張ってたんですから」

 何この子、超可愛い!!

「サンタさんがプレゼントを入れやすい靴下も見つけて、買ってありますし、当日はサンタ帽子も被って寝ます」

 これはもう天然記念物でしょ。

「靴下?サンタ帽子?」

「はい!靴下はちゃんと三足ベッドにぶら下げてありますよ。サンタ帽子は必需品ですね。なんせ、私はサンタさんガチ勢なんで」

 はい、この子の保護決定!ってか、この子は一生このままでもいいと思います!というより、いて下さい!

 あと俺はサンタさんにわかなんで、"ちゃんと"の意味も分かんないし、サンタ帽子の必要性も全く理解できないけど……………とにかく、訳分かんないことだらけだけど……………

「ふんふんふ~ん♪」

 当日を妄想して、楽しそうに鼻歌を歌う優梨奈を見ているとそれだけで満足だった。

 うん。

 クレアも同じように微笑んでるよ。

「は~やく~来い来い、クリス~マス」

 …………………うん。

 色々と間違っている気がするけど、何も言うまいさ。

 そこから、俺達は各々がクリスマスへと思いを馳せながら、昼飯を食べた………………クリスマスか。

 できれば、クレアと一緒に過ごしたいな。







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