窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第七十六話:紅葉を見に行く

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 十一月に入って、最初の休日。

 俺とクレアは紅葉を見に来ていた。

 そこは蒼最市でも有名な紅葉スポットで日曜日ということもあり、家族連れやカップルなどで溢れ返っていた。

「私達もカップルに見えるかしら?」

「ん~…………真相はどうあれ、周りからはそう見えるんじゃないか?」

「じゃあ、夫婦には?」

「まぁ、真相はどうあれ、もしかしたらそう見られるかもな」

「むぅ~さっきから、真相!真相!って…………」

「いや、そんな力強く連呼はしていないけど」

「確かに私の覚悟がまだ、できてないのが理由だけれども………………ごめんなさいね。待たせてしまって」

「いや、いいんだ。俺としてはこうやって、クレアと二人で出掛けられるだけで嬉しいから」

「拓也……………」

「今月は沢山、二人でどこかに行きたいな」

「っ!?……………全く!拓也ったら」

「ん?」

「あなたは自覚ないかもしれないけど、サラッとそういうこと言うのよね」

「え、何が?」

「でも、同時に凄く嬉しい言葉でもあるの。だから、あなたが気付かない内に私の心の中にはどんどんあなたの言葉が溜まっていく」

「クレア?」

「はっ!いけないわ!また、一人の世界に入っていた!」

「おいおい!しっかりしてくれ!また、おかしくなったのかと思ったぞ」

「またって、一体いつ私がおかしくなったのよ!」

「おい!俺の上に紅葉を乗せるな!それは見るもんであって、乗せるもんじゃねぇ!」

「うふふ。いいわねぇ、初々しくて」

「そうだな。兄ちゃん達、いつまでも仲良くな」

「「っ!?……………はい」」

 俺達は通りすがりのご老人夫婦にどうやら、カップルが戯れているのと勘違いされてしまった。

 そして、それが恥ずかしくて、思わずそそくさとその場を離れるのだった。





        ★




「綺麗だったわね、紅葉」

「ああ。なんか、季節特有のものを見たりすると心が洗われるようだな」

 あれから、俺達は一通り紅葉を見て回り、今は近くにあったお団子屋のベンチに腰掛け、ゆっくりしていた。

 そして、手にはもちろん、団子と湯呑みに入ったお茶がセットだった。

「あと、何回こんな景色が見られるのかしら」

「さっきも言っただろ?今月は沢山、色んなところに行こうって」

「でも、私……………自分で知らなかったのだけれど、随分と欲張りだったみたい。今月だけじゃなくて、来月もその次も見たい、行きたいって、なってるわ」

「はははっ!まだ今月も終わってないのにか?気が早くないか?そんなの来月になってみないと分からないだろ?」

「いいえ………………分かるわ」

「クレア?」

 その瞬間、風が強く吹き、紅葉がクレアの周りにまるで彼女を演出するかのように舞っていた。

「だって私はこの先、何度だって拓也と色んな景色を見たいもの」

「っ!?」

 クレアの表情からは彼女が純粋にそう思っていることが分かり、俺は思わず顔が熱くなった。

 というか、何この雰囲気、シチュエーション!

 やばい。

 クレアがまた一段と可愛く、そして綺麗に見える。

「私にもようやく分かったわ………………"どこに"じゃなくて、"誰と"行くのかが大事ってこと」

「……………いや、それはダメ押しだろ」

「拓也?」

「あのさ、今の自分の台詞もう一度、思い返してみて?」

「ん~?今のって……………………っ!?」

「気付いた?それってさ、まるでクレアから俺へのプロポ……………」

「わぁ~!!待って待って!!ち、違う!いや、違わなくて気持ち的にはそうなんだけど!今のはそういう意味で言ったのでなくて、単純に拓也ともっと色んなところに行きたいって意味で……………」

「うん。分かるよ。だって、告白だって、まだなのにそれをすっ飛ばしていきなり、そんなこと言う訳ないもんな。ましてや、クレアみたいに用意周到で計画性のある人間なら、なおさらな」

「え、ええ。そうよ。分かってくれたんなら、良かったわ」

「うん」

「ふぅ~危ないわ……………プロポーズだったら、私だって、もっとちゃんとしたタイミングや雰囲気で言いたいもの……………ボソッ」

「えっ、いつか言ってくれるの?」

「っ!?な、何でこういう時に限って聞こえてるのよ!!」

「うわっ!ちょっ、団子の串は危ないだろ!」

「うぅ~わぁ~!!」

「恥ずかしいからって幼児化するな!って、おい!湯呑みは流石に笑えないぞ!!」

 俺はそこで咄嗟に暴れるクレアの両腕を押さえて、至近距離でクレアの瞳を見つめた。

「悪いけど、クレアにはさせないよ。プロポーズなら、俺が絶対先にするから」

「っ!?」

 腕を押さえたのも束の間、再び暴れだすクレア。

 俺はやれやれとため息をつきながら、最終手段としてクレアを抱き締め、背中をトントンと優しく叩くのだった。

「ふぁ。なんか、これ安心するわ」

 そう言って、俺の膝の上に頭を乗せ徐々に眠りに落ちていくクレアを見ながら、俺は地面に落ちていく紅葉を見ていた。






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