窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第六十話:出し物

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 文化祭準備委員と文化祭実行委員という文化祭に関係する委員が二種類ある理由は単純に作業の効率化を図る為や混乱を避ける為である。

 文化祭準備委員は主に文化祭に必要な物を考え用意したり、何か許可取りが必要な場合はそれも行う。

 また、各クラスや各部活動の出し物についての共有を行い、それらについてもあーでもない、こーでもないと話し合う。

 そして、一方の文化祭実行委員だが、準備委員の考えまとめた案に対して良いか悪いかを判断して答えを出す、また常に準備委員の手本となるよう指針を示すなど事実上、準備委員の上の組織のような役割を果たしている。

 しかし、これはほんの前哨戦に過ぎない。

 なんせ、問題は本番当日。

 今年も多くの来場者が予想される中、何が起こっても不思議ではないのだ。

 なんなら実行委員が一番忙しいのは文化祭の最中である。

 どこかの教室を実行委員の本部とし、そこで待機する者と常に学園内を巡回し、何かトラブルがないかなどを見て回る者……………その二つに別れるのだ。

 当然、文化祭を楽しんでいる暇などない。

 出し物に参加するなど以ての外だ。

 ところが、クレアはよりにもよって、そんなクソ忙しい実行委員に選ばれてしまった。

 何故、長月は一緒に劇に出る身でありながら、クレアを推薦したのか……………

 また先生も先生で一体何故、クレアを実行委員に選んだのか、俺には皆目、見当もつかなかった

 ……………あ、ちなみにうちのクラスの出し物は劇で確定らしいです、はい。

「劇の練習は上手くいってるの?」

 俺はつい気になって、放課後の準備委員全員が集まる会議の開始前、長月へと尋ねた。

「うん。台本は夏休み明けて、すぐにもらってたし、そもそも演技の練習は夏休み中にもやってたしね」

「あの夏祭りの時のだろ?いや~あれは驚いたな………………ってか、夏休み中もってことは他の日にもクレアと練習してたのか?」

「うん。ちょくちょく連絡取り合って、時間がある時は一緒にね」

「でも、台本はない訳だろ?それ、意味あるのか?」

「ああいう劇とかって、本番で不測の事態が起きたりするでしょ?そういう時、アドリブでどうにかすることに慣れとかないといけないし、そういう意味では台本以外の演技練習だって意味はあると思う。あと、単純に演技力の底上げとかね」

「へ~よく考えてんだな………………ってか、その前にそもそも劇、出来るのか?」

「へ?何で?」

「いや、だってクレアは実行委員じゃんか。となると当日は忙しくて出来ないんじゃないかと」

「ああ、それはね、大丈夫なんだって」

「何故?」

「ほら、うちのクラスの劇って他のところの出し物と違って公演の回数が少ないでしょ?」

「まぁな。なんせ、一日三回のみ。他と違って午前中に終わるぐらいだ。それもこれも自由時間を多く残そうと提案してくれた師走先生のおかげだけど」

「"青春しなさい!!"とか言ってて凄かったよね」

「ああ……………あ、そういえば師走先生とはその……………」

「あ、旅行での件?別にあれだけで何かあるとかないから」

「そうなのか?」

「そうだよ。だって考えてみて?あの人、担任だよ?ずっとあの時のことを引きずってたら、気まずいだけでしょ。これから何度だって接する機会はあるのに」

「まぁ、そうか」

「それにあの時のことはもう謝りに行ってるんだよね」

「えっ!?そうだったのか」

「うん」








「すみません。わざわざ、お時間取ってもらって」

「いいのよ~。私の可愛い可愛い生徒の為なら、いくらだって時間なんか作っちゃうから」

「でも、今は実際お忙しいでしょう?」

「まぁね。文化祭のこととか、色々あるから」

「いえ、それだけではなくて」

「ん?一体何が言いたいのかな?」

「………………いえ、その」

「ん?」

「……………なんでもありません」

「その反応は賢明ね。今後もそういったスタンスでいなさい……………君達はこっちに来ちゃダメだから」

「………………」

「ね?分かった?」

「……………はい」

「んもぅ!そんなに不貞腐れないの!……………はぁ。"賢い子"っていうのも考えものね」

「…………先生?」

「分かったわ。じゃあ、これだけは教えてあげる…………………私、あの場にはあまり顔を出してないのよ。大した案件もないのにお茶飲んで雑談してるだけとか、時間の無駄でしょ?そもそもあの制度とか、しきたり自体があまり好きではないっていうのもあるけど……………まぁ、逆を言えば、私が顔を出すくらいの何かが起きれば話は別だけど」

「何かって?」

「さぁ?なんでしょうね?……………例えば、どこかとどこかの婚約話とか?」

「まさか、そんなの……………今時、ないでしょう?」

「……………分からないわよ?」

「えっ!?」

「冗談よ!そんな顔しないで!!」

「だ、だって、もし私がその立場だったら絶対に嫌なんで」

「そうよね。好きでもない人とましてや、一族繁栄の為に婚約させられるとか、最悪よね。でも、安心して………………君達には絶対にそんなことさせない。上の代の重荷は絶対に背負わせないから」

 その時の先生の顔は今まで見た中のどれにも当てはまってはいなかった。

 でも、これだけは言える。

 その時の先生の顔はさながら戦場に向かう戦乙女のようにとても美しくかっこいいものだった。

「……………先生、こんなタイミングで言うのは絶対に間違ってますけど、いいですか?」

「ん?何?」

「旅行での一件……………本当にすみませんでした」

「あら、そんなこと?それなら、もっと他に謝るべき相手が………………って、流石にもうそれはやってるか」

「はい」

「夏休み中も色々と仲良くやってたみたいだしね」

「…………先生は一体どこまで見えているのですか?」

「それ、不思議な日本語ね」

「茶化さないで下さい」

「あれ?私に謝ってたはずなのに立場が逆転してない?」

「うっ……………それは」

「……………変わったわね、長月さん。もちろん、いい意味で」

「えっ」

「いい表情をするようになったわ。やっぱり、あの子達のおかげかしら」

「っ!?」

「あなたはその調子で歩いていきなさい。この先、例えどんなことが起ころうと一番大切なものを見失わないで」

「……………先生?」

「自分をしっかり持って」

 その時の先生の言葉が私の頭からは離れなかった。






「長月!」

「っ!?ごめん!ぼ~っとしてた」

「大丈夫か?いくら、呼び掛けても返事がなかったから焦ったぞ」

「本当にごめん。もしかしたら、疲れてるのかもしれない」

「準備委員も大変だもんな。それに長月には劇の練習まであるし………………よし。今日のところは俺一人で会議に出るから、帰ってよく休んでくれ」

「えっ、でも」

「身体は資本だぞ!体調、崩したら元も子もないだろ。なぁに大丈夫だ!俺一人でも会議には参加できるさ!メモもちゃんと取るし、話も聞く。それだけじゃないぞ!今日はビシッとした意見まで言っちゃうんだ!」

「如月くん…………」

「だから、今日はゆっくり休んでくれ」

 と、一頻り言った後、如月くんはこう締め括った。

「そして、明日からまた俺の元気が出る顔、見せてくれよ」

「っ!?」

 どうしよう。

 なんでもなかったのに身体が熱くなって体調が悪くなってきたかも……………主に如月くんのせいで。












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