窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第四十九話:別荘4

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「な、なるほど。そんなことが」

 全てを聞き終えた俺はあの時の空気感の意味が分かり、ようやく合点がいったと頷いた。

「…………顔、真っ赤だよ」

「…………んなことねぇよ」

「まぁ、そりゃそうもなるよね。なんせ、自分の知らないところであんなにも自分のことで怒ってくれるとか……………男冥利に尽きるというか、なんというか」

「………………」

「惚れ直した?」

「っ!?馬鹿か!?ほ、惚れてる前提で話を進めるな!!俺達はまだ、そういう関係じゃ」

「ふ~ん……………まだねぇ」

「なんだよ?」

「いや、別に」

「……………」

「まぁ、いいや。で、本題はここからなんだけど」

「まだ、何かあるのかよ」

「君は今の僕の話を聞いて、どう思った?」

「は?い、一体何だって…………」

「悪いけど、おふざけとかなしで正直に答えて欲しい」

 神無月は身体の向きを変え、俺の目をしっかりと見つめる形でそう言った。

「………………正直、今回のことは色々と複雑だ。で、そんな中、一番最初に感じたことは嬉しいってことだ」

「ほぅ」

「本当は一生懸命になってる二人に対して、そんなことを思うのは失礼だと思う。でも、俺はクレアが心の中であんな風に俺のことを感じてくれていたっていうのを知って……………なんか、とても胸が熱くて苦しくなった。おそらく、この感情は嬉しいっていうものだと思う」

「………………皐月さんに対しては?」

「……………ショックがないといえば嘘になる。でも、俺はあいつがどんなことを思って、毎日必死になっているのかを知っている。でなきゃ、あいつがクレアに嫌われてしまうようなことをするはずがない。それはあいつがこの世で最も嫌なことだ」

「でも、彼女は」

「もちろん、さっき神無月が言ったように本音の部分もあっただろう。でも、それは皐月のことをある程度知っていれば、理解できる部分だ。あぁ、勘違いしないで欲しいのは別に俺もあいつの過去や何やらを知っている訳じゃない。あいつから聞いていたのは"男"が苦手であるということと当初、俺に近付いた目的のみだ。でもな、人間って思った以上に言葉に感情が乗る生き物なんだ。あいつは詳しくを語りたがらなかったが俺には伝わってくるものがあった。あいつの過去に何があったのかも」

「……………」

「だから、俺は皐月を恨んじゃいないし、嫌いになった訳でもない。むしろ、良かったと思うぞ。だって、ほとんどの男があいつの眼中にすら入ってないっていうのにあそこまで意識してもらってたってことだろ?それって凄くないか?無関心よりはよっぽどいい。言い換えれば、こっからはいくらでも逆転できるってことだ」

「逆転?」

「ああ!今までよりももっと仲良くなって、今度は俺のことを好きになってもらう!……………あ、もちろん友人としてな!」

「……………全く、君って人は」

「うん?」

「何でもないよ……………でも、うん。やっぱり僕はこの話を君にして良かったと今、改めて思ったよ」

「おい、一体どうしたんだよ。さっきから、いまいち要領が」

「味方でいてくれ」

「は?」

 それは今までで一番強く感情が乗った一言だった。

 と、同時にそれは今までで最も真剣な表情の神無月だった。

「この先、どんなことがあってもどうか君は…………君だけは彼女の、霜月さんの味方でいて欲しい。そして、できれば彼女がどんな行動を取ったとしても信じてあげて欲しいんだ」

「おい、一体何を言って」

「おそらく……………というか、ほぼ確実に近々、彼女の身に何かが起きるだろう。でも、そんな時、君が近くにいてあげればきっと彼女も心強いだろうし、何より安心する」

「それって、どういう…………」

「これは僕から君に対しての最初で最後のお願いだ……………霜月さんを助けてあげて欲しい」

 そう言った神無月は呆然とする俺を置いて、その場を後にした。

 俺はというと神無月の言葉が頭の中をぐるぐると回り、しばらくはそのまま夜風に当たっていた。

 そうして、部屋に戻ったのはいつ頃だったか……………ベッドに入り、気が付けば、朝を迎えていた。

 その間、一睡もすることはできないのだった。





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