窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第四十一話:定められたレール

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 神無月家は昔から代々続く由緒正しい家系だった。

 とはいってもそれは祖父ですら、会ったことも見たこともない遠い祖先がとある産業で一発当てたことから始まった。

 それからというもの、その子孫は代々その産業を受け継いで社長となり、業界の先頭を走る形で今日までやってきた。

 しかし、僕の周りのそういった家系では生まれてくる子供が親の七光りといって馬鹿にされたり、甘やかされて育ち何の知識もないまま社長に就いて会社をめちゃくちゃにしたりといったことが起きており当初、我が神無月家もその辺の心配をされた。

 ところが、その心配を他所に神無月家では何故かは分からないが生まれてくる子供が皆ビジネスにおいて、何かしらの才能があり、そこに加えて家の方針上、甘やかされることが一切なく育てられてきた。

 その結果、どうなるかは明白だった。

 遠い祖先の威を借りることなく、自分達の努力と才能で以って、業績を維持・・・するだけではなく鰻登りにし、次第に事業も拡大。

 今では様々な娯楽から人々のあらゆる生活に関わる事業まで幅広く展開していた。

「……………はぁ」

 そして、かくいう僕もそんな神無月家に生を受けた一人である。

 当然、幼い頃から厳しい躾やあらゆるマナーを叩き込まれ、習い事も数多くさせられてきた。

 だが、それらはまだマシな方だった。

 僕が最も辛かったのはビジネスに関しての勉強だった。

 先述にあった通り、神無月家では皆、ビジネスに何かしらの才能があって生まれてくる。

 それは昔からずっとそうだった。

 しかし、それも僕の一つ前の代までだった。

 ここで例外が生じたのだ。

 その原因はなんと僕。

 僕は……………ビジネスにおいての才能が皆無だったのだ。

「………………」

 初めて、それが発覚したのは五歳の頃。

 勉強を始めてすぐだった。

 つきっきりで教えてくれていた講師が何度説明しても要領を得ない僕に首を傾げるようになり、それが三回目ともなると流石にお手上げだと両親に報告してしまったのだ。

 思えば、ここから僕の地獄は始まったといっていい。

 ちなみに神無月家で生まれた子供は皆、このぐらいの年齢になるとビジネスの話を理解できるようになっていた。

 だから、僕ももちろん、そうだろうと思われていたのだ。

 この頃になると通常、学校で習う基本科目についての勉強を完全に理解していたこともあって、であればと思われていたのも大きい。

 今まで神無月家では学校で習うこともビジネスのことも両方、完璧に理解できていた者が誰一人として、いなかった。

 だからこそ、神無月家…………特に両親は僕に期待していたのだろう……………でも、僕はその期待を裏切った。

「なんてことをしてくれたんだ!!」

「無能は我が神無月家には必要ない!!」

 そう両親は神無月家の人間に罵倒され、同じ言葉をそっくりそのまま僕に叩きつけてきた。

 その上、"お前のせいで私達はどん底に叩きつけられた"だの、"私達の人生を何だと思っている"だのと毎日、罵られる日々。

 だが、それもほんの数年の間だけだった。

 僕が小学校高学年になる頃には僕に対する興味すらなくなり、何も言葉をかけてこなくなった。

「結局、学校の勉強やスポーツができたって何の意味もない……………僕の生きている世界では」

 僕は中学生になるとそう思うようになり、だから僕はあの家を出た。

 両親は何も言ってこなかったがあのまま、家にいたら僕は一生定められたレールの上を歩かなければならない人生だっただろう。

 できもしないことを無理矢理、やらされてズタボロになるまでこき使われていたかもしれない。

 事実、深夜に両親が僕の利用価値について話しているのを偶然、聞いてしまったことがある。

 そこから親の愛は一ミリたりとも感じ取れなかった。

「でも、僕は結局…………籠の中の鳥だ」

 中学までの自分を変えようと高校生になる少し前に家を出て、一人暮らしを始めた僕だったがそこで世間の厳しさを初めて知ることになる。

 普段何気なく行っていた普段の暮らしがどのようにして成り立っていたのかをまざまざと見せつけられたのだ。

 そう。

 僕はあの毛嫌いしている、絶対にもう会いたくない両親に今まで生かされていたのだ。

 人間は生きているだけで何かしらのお金がかかる。

 僕はそんなことを意識することなく、生きてきたのだ。

 だからこそ、一人暮らしをするとなった時、これだけお金がかかるのかと驚いたものだ。

 しかも問題はそれだけじゃない。

 今までお手伝いさんにやってもらっていた家事も全て一人で行わなければならない。

 月々かかるお金、家事……………これらのことを考えながら高校生活を送らなければならないことに僕は辟易とした…………が、一つ救いはあった。

 それはあの両親からの毎月の仕送りだった。

 しかも考えながら生活して、少し余るくらいちょうどいい額だった。

 これがなければ、僕はとうの昔に野垂れ死んでいただろう…………つまり、僕は皮肉なことに親から解放される為に家を出たつもりがその親に助けられてしまっているということだった。

「こんなのどこにも逃げ道がないじゃないか」

 親が僕に金銭的援助をしている理由は出来損ないとはいえ、仮にも神無月家の者が野垂れ死ぬなど風体が悪いからだそうだ。

 僕はこれを聞いて一つ決めたことがある。

 それはいつか自分で会社を起こし、沢山稼いで今まで僕の為に払ってきた費用を全額、あの両親へと叩きつけて返すことだった。

 そして、その際にこう言ってやるのだ。

 "今日を境に僕はあなた達と縁を切ります。今後、見かけてももう僕は神無月家の人間ではないので話しかけてこないで下さい………………今まで大変、お世話になりました"と。

「……………そして、今に至る」

「ふぅ~ん。それで?そのことを私に話した目的は何?」

「君には話しておかなきゃならないだろ?今度、両家で顔合わせがあった時、今の僕達の事情を知らなければ、そちらも困るかもしれないし。それにお互いの過去なんて、話したことなかったし、いい機会かなって」

「何勝手に私も自分の過去を話す流れになってるのよ」

「嫌かい?」

「ええ」

「そっかぁ……………それは残念だ」

「全然そんなことないでしょう?あなた、私になんて興味ないもの」

「あれ?バレてた?」

「ええ。この旅行中もずっとどっかの誰かのことを目で追ってたし」

「そう!それを言いたかったんだ!実はこんな閉塞感あふれる気持ちになってた僕だけど、つい先日それを変えてくれるかもしれない女の子を見かけたんだ!!」

「それが…………」

「ああ!……………だよ」

 これは如月拓也達の箱根旅行……………その深夜において、とある旅館で行われていた会話だった。





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