窓際の君

気衒い

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〜現代編〜

第四十話:試験勉強4

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「二人共、上手くいってるかな……………ボソッ」

「それは皐月さんと睦月くんのこと?」

「ふぇっ!?き、聞こえてました!?」

「うん」

「あ、あはは。すみません。勉強に関係ないこと考えてて……………って、あれ?神無月先輩、何でその二人のことを」

「う~ん。何となくかな?さっき三人が固まって話していたし、睦月くんも意味深なアイコンタクトを君に送っているように見えたからね」

「へぇ~凄い観察眼ですね」

「いやいや。前にも誰かの世話を焼いていたでしょ?だから、今回も誰かの為に動いているんじゃないかって」

「へ?私がですか?」

「うん」

「あれ?そんなことありましたっけ?」

「あったさ。君にその自覚はないかもしれないけどね」

「?」

「僕らと旅行に行った時、常に気を回してくれていたよね?それに例のストーカー男との一件……………直接、本人に好意がないことを告げてしっかりと振ることで今後の彼の人生の教訓としてあげた」

「ええっ!?ス、ストーカーって……………神無月先輩、あのこと知ってたんですか?」

「君らが公園で話している時、たまたま近くを通りかかってね。悪いとは思ったが、思わず盗み聞きのようなマネをしてしまった。それから屋上でのストーカーとの一件も隠れて見ていた」

「……………」

「本当にごめん。これじゃあ、ストーカー男とやってること変わらないよな」

「いえいえ!別に気持ち悪いとかは全く思ってないので!!」

「本当?」

「ええ。ただ驚いたってだけで」

「そうか。それを聞いて安心した」

「でも、私は私のしたいようにしているだけで別にそれが誰かの為とか考えてる訳じゃないですよ?」

「じゃあ、葉月さんは凄く優しい子なんだね。誰かの幸せが自分の幸せと思えるんだから……………思えば、僕が初めて君を見かけた時も君は如月くんの為に怒っていたな」

「?」

「昇降口で霜月さんと若干、揉めそうな雰囲気になっていた時だよ。僕はその時、初めて君の存在を知ったんだ」

「昇降口、クレア先輩……………あ、ああっ!!あの時の!!」

「うん。その時の僕の君に対する第一印象は今もまだ変わってない。葉月優梨奈は誰かの為に動くとても優しい女の子だ」

「いえいえ。そんな…………」

「だから」

 そこで一呼吸置いた神無月先輩は少し顔を落として、数秒固まった後、徐に顔を上げた。

 その顔は今までよりもさらに真剣味を帯びているように感じられた。

「今度は誰かの為じゃなく、君自身の幸せを考えた方がいいと思う」






        ★






「じゃあ、よろしくお願いします長月先生!!」

「凄い張り切ってるね…………でも、いいの?睦月くんともう少し勉強してなくて」

「あいつには去年も勉強教えてもらってたから、いいんだ。あまり頼りすぎてあいつの勉強が疎かになっても悪いし」

「ふぅ~ん…………まぁ、そう考えてるのは如月くんだけかもしれないけどね」

「ん?どういう意味だ?」

「ううん。何でもない。じゃあ、早速始めようか」

「おぅ!」






 どのくらい時間が経ったのか。せっかくの長月との二人きりの空間。

 それを無駄にしない為にも俺はここ最近で最も集中した。

 確かに俺は一度、彼女に間接的に振られてしまっている。

 しかし、俺は決めたのだ。

 絶対に長月を振り向かせてみせると。

 だからこそ、長月に良いところを見せてアピールしたい。

 その為にこうして勉強を頑張っているのだ。

 それにこうして二人きりというのは何だか、少し心の距離も縮まっていくような気がする。

 せっかく、以前クレアが仮のデートをして、自信をつけさせてくれたのだ。

 今度は自分一人で考えて積極的に動いていきたい。

 これはその第一歩なのである。

「……………あのさ」

「うん?」

 とかなんとか考えていたら、徐に長月の方から話しかけてきた。

 どうしたんだろう?俺が教科書を見たまま動かないから、心配したのか?…………どうしよう?集中力が切れて、全く別のことを考えてたって言ったら、怒るかな。

「勉強と全然関係なくて申し訳ないんだけど……………小旅行での件は本当にありがとう。なんか、バタバタしちゃってて、ちゃんとお礼が言えてなかったから」

「っ!?い、いやいや!…………俺はただ、俺のやりたいようにやっただけだから」

 びっくりした。

 長月も全然別のこと考えてたのか………………なんか気が合うくね?俺達。

「そうなんだ。でも、あれだけ誰かの為に何かをできるのは本当に凄いと思う」

「いやいや、そんなこと」

「ううん。あれから何度も考えたんだけど、やっぱり並大抵のことじゃないよ」

「大袈裟だって。そんな大したことなんてしてないよ・・・それに長月の為だったら、何だってするっていう奴は学園を探せば、ゴロゴロと」

 と、その時、机を大きく叩く音がした。

 見れば、長月がこちらに身を乗り出し、あと少しで顔がくっついてしまう程の距離まで迫っていた。

 その頬は赤く、大きく見開いた目は何かを訴えかけようとしているように見えた。

「私だからじゃない。如月くんは誰であってもそうしてると思う・・・けど、もしも・・・もしも今、如月くんが言ったことが本当なんだとして、じゃあ何故、あの時はあんなに私を助けてくれたの?今、考えると今日まで色々と理不尽な目ばかりに遭わせてきたと思う。それでも何で今もこうして私と普通に接してくれるの?…………ずっと探しているけど、その答えが見つからない。私は如月くんが私に優しくしてくれる………………その理由が知りたいの」

「な、長月」

 俺は真に迫る様子の長月を目の前にして、それだけを絞り出すので精一杯だった。

 心臓がうるさいくらいに音を立て、周囲の状況も入ってこなくなる。

 今はただ目の前にいる、自分のずっと憧れてきた大好きな人のことしか考えられない。

「そ、それは・・・」

 誰も使っていない部屋に二人きりというこの状況も拍車をかけていた。

 今、この時この瞬間この部屋での出来事は俺達二人だけの秘密の出来事。

 一体何が起ころうとそれは俺達しか知り得ない。

 逆を言うとこんなチャンス、もう二度とないかもしれない。

 長月と二人きりでこんな込み入ったことを話すのは……………俺はそう考えるとこのチャンスを無駄にしてたまるかと頑張って、言葉を紡ごうとした。

「そ、それは?……………っ!?」

「っ!?」

 そして、長月の方も俺の言葉をちゃんと聞こうとしてくれた。

 しかし、そこで突然、扉がノックされた。

「は、はい!?」

「私よ。もう時間だから、交代と言いに来たんだけど」

「はぁ~なんだクレアかよ……………びっくりさせんなよ」

「なんだとは何よ……………まさか、あなた達…………人に見られたら、まずいことでもしているんじゃないでしょうね?」

「し、してる訳ないだろ!!」

「そ、そうだよ霜月さん!!」

「怪しい……………まぁ、いいわ。じゃあ、みんなリビングにいるから、すぐに来てちょうだい。この後の流れを決めるから」

「「り、了解!!」」

 俺達はクレアの足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなったタイミングで同時に深く息を吐いた。

「ふぅ~全く。あの状況で来るとはなんてタイミン……………っ!?」

 その後、俺が愚痴のようなものを零しながら、長月の方を見ると彼女は不満がありそうな感じで頬をぷっくりと膨らませつつ、消え入りそうな声でこう言った。

「……………如月くんの馬鹿」

 うん。

 めちゃくちゃ可愛い………………それは負の感情を帳消しにするどころではなく、余裕でお釣りがもらえてしまう程の破壊力だった。

(あぁ~この表情を見れただけで俺は満足だ。こんなの学園の男達には見せてないだろうし)

 俺はとても感動すると同時に今回は一つ、違うことでも勉強になった。

 それはあの長月にも解けない問題があるということだ………………俺が長月華恋を助け、優しくする理由?こんなのすぐに解けそうなものなのに。






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