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〜現代編〜
第三十一話:つくられた少女2
しおりを挟む神無月くんはとにかく凄い人だった。
眉目秀麗・品行方正、さらには勉強もスポーツも何でもできるまさに完璧超人だったのだ。
これには入学からたった半年で学園中の女子達を虜にしてしまうのも頷けるというものだ。
「…………神無月くん」
まぁ、かくいう私もその一人だったわけだが……………
「神無月くん、あのさ私あまり勉強が得意じゃなくて、もし良かったら教えてくれないかな?」
「ごめん。僕、教えるのはあまり上手じゃないから。他を当たってくれないか?」
「神無月くん!今週の日曜日なんだけど」
「ごめん。その日は予定が入っているんだ」
「あの…………調理実習でクッキーを焼いたんだけど」
「ごめん。今、お腹いっぱいだから」
この一週間、遠くから神無月くんを観察していて分かったことがある。
それは神無月くんが女子達の誘いを一度も受けていないということだった。
あれだけの容姿と能力があるのだから、その恩恵を少しくらいは受けてもいいはずなのに・・・それか、何か事情があるのだろうか。
「…………よし」
まぁ、私にとっては今の状況は好都合だ。
そして、ただこの状況に甘んじているだけではダメだ。
そう、私は誓ったのだ。
高校では絶対に上手くやると。
「まずは神無月くんとお話ししなきゃ」
私はその日から早速、動き出したのである。
「神無月広輔くん…………だよね?」
「?…………そうですが」
私が決意を新たにしてから、一週間。
そのチャンスは唐突に訪れた。
というのも彼には四六時中、様々な女子が群がり、なかなか話す隙がなかったのだ。
そして、かくいう私の方も色々とやることがあり、タイミングを逃し続けた。
しかし、たまたま職員室からの帰り道、空き教室にポツンと一人立つ神無月くんを発見したのだ。
ちなみに彼は何をするということもなく、ただただ窓から校庭を見下ろして何かを考え込んでいる様子だった。
そこで私はこのチャンスを活かすべく、こうして話しかけたのである。
「初めまして。私、一年の長月華恋っていいます!」
「あぁ、なんだ。同学年か……………それで?」
「いや、たまたま職員室からの帰り道にこうして黄昏れてる神無月くんを見かけたから、思わず話しかけちゃって」
「別に黄昏れてるなんて、そんな大層なもんじゃないよ」
神無月くんはため息を吐きながら、そう言う。
その時の表情はいつも教室で見かけるものとはかけ離れていた。
「そ、そうなんだ……………それにしても何か、いつもと雰囲気が違うね。いつもはもっとこう…………話しかけてくる女子達にも優しく明るい感じで接するよね?」
「それは違うよ。僕は優しくもなければ、明るくもない……………僕は」
その時、私は神無月くんの悲痛そうな顔をそれ以上、見たくなくて気が付けば、こう言っていた。
「いやいや!女子達、みんな噂してるもん!容姿はもちろん、勉強もスポーツもできる完璧超人だって。あ~あ。いいなぁ~。私も神無月くんみたいに才能があったらなぁ」
「……………は?」
「ん?……………あっ!?いや、今のは違っ」
私は少ししてから、自分がなんて発言をしてしまったのかに気付いた。
そう、それは私が普段から周りに言われて嫌気が差している言葉だったのだ。
それをまさか、フォローしようとして言ってしまうとは。
私はなんてことを。
「やっぱり君もそっち側か。自分自身のことを顧みず、ただただ僕のことを才能があって羨ましいだの、凄いだの」
「ち、違うの神無月くん!わ、私はただ」
「僕自身のことには全く目を向けて言っていないじゃないか。僕がただ、その才能とやらに溺れて何も努力をしていないと思っているのか?君が見ていないところではこうなるようにどれだけ頑張っていると……………」
「ごめんなさい、神無月くん!私はそんなつもりじゃ」
「あ~あ、放課後になってもこんな風に絡まれるなんて。僕には一生、安寧が訪れないのか」
「ほ、本当に違うの神無月くん!わ、私は」
「…………ってのは冗談さ」
「……………へ?」
神無月くんはそこで鋭かった表情を急になくすと笑顔になって、そう言った。
私はというと、その緩急についていけず、少しの間呆然としてしまっていた。
「君の名前なら、聞いたことがある。同じ一年生に凄い女の子がいるって。だから、そんな君…………長月さんなら、今みたいなことを本来なら、言わないはずだから」
「え…………それって、どういう」
「君もこっち側なんだろ?安心しろよ、僕らは同じ痛みが分かる同志だ」
「っ!?」
私はその瞬間、神無月広輔という男の子を完全に心の底から好きになった。
「それにいくら陰で努力してたって、そんなのが通じない世界もあるんだ……………ボソッ」
と、同時にその時の神無月くんの一言が何故か、頭から離れなかった。
★
「はぁ~…………」
私は屋上から、とある一人の男子を目で追いながら、去年のことを思い出していてはため息を吐いていた。
私はあの日から、一目惚れが完全な恋へと変わり、神無月広輔という人物を想いながら過ごしてきた。
毎日毎日、飽きもせず彼を目で追いながら、色々な妄想を膨らませる日々。
直接話す機会こそ、あまりなかったがそれはそれは充実した日々だったし、成績を維持し続け、常に生徒達からの憧れの存在でいる為に努力をする毎日の癒しにもなってくれた。
「なのに…………なんで」
それが最近では神無月くんではなく、気が付けば別の男子を目で追ってしまっていたのだ。
今までこんなことは一度たりともなかった。
おそらく、ここ最近起きた色々な出来事が完璧に私自身の中で処理できておらず、感情が不安定になってしまっているのだろう……………そう、私は結論付けた。
「……………そういえば」
そして、この時、不意にあの教室での去り際に神無月くんが言っていたことを思い出したのであった。
「あっ、そういえば……………同じ一年生で僕らなんかよりもよっぽど凄くて面白い人がいるよ。名前は確か…………そうそう!如月拓也って人!いずれ話してみたいな」
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